第11話 「気づかれないまま“ズレていく世界”」
街が見えた。
石造りの壁。
出入りする人の流れ。
どこにでもある光景。
――音がある。
人の声。
足音。
金属の擦れる音。
森とは違う、“当たり前”の気配。
「……入るぞ」
門をくぐる。
それだけで、空気が変わる。
【ログ】
対象:周囲
状態:安定
「……多いな」
人の数。
だが――
動きが揃っている。
無駄が少ない。
まるで、最初から決まっているような動き。
「……見えますか」
リシアの声。
「……ああ」
頷く。
人の流れ。
その中に、同じ“型”がある。
「スキルです」
リシアが言う。
「この世界では一般的なものです」
「……あれがか」
視る。
【ログ】
対象:男
状態:スキル発動中
分類:身体強化
分かる。
強い。
だが――
「……浅いな」
思わず口に出る。
「はい」
リシアは否定しない。
「完成された形です」
「……完成、ね」
視線を外す。
整いすぎている。
ズレがない。
だから――
触れやすい。
「――ッ」
無意識に、意識が沈む。
【ログ】
対象:男
状態:未確定
ほんの少し。
ズラす。
その瞬間。
男の足が、わずかに遅れる。
「……あれ?」
本人だけが気づく違和感。
だが、すぐに戻る。
周囲は誰も気づかない。
「……やめてください」
リシアの声。
低い。
「……何がだ」
「影響が出ています」
短い言葉。
だが、重い。
「……そんなもんか」
視線を逸らす。
だが、分かる。
今のは――
“干渉”だ。
【ログ】
対象:周囲
状態:微小干渉
ほんのわずか。
だが、確実に変わっている。
「……気づかないのか」
周囲を見る。
誰も、何も。
“当たり前”のまま動いている。
「通常は認識されません」
リシアが言う。
「認識できるのは、観測に触れている者だけです」
「……なるほどな」
小さく息を吐く。
世界は普通に回っている。
だが、その裏で。
ズレている。
風が、わずかに止まる。
「……?」
一瞬の違和感。
だが、すぐに流れる。
「どうしました」
「……いや」
首を振る。
「なんでもねえ」
気のせいだ。
そう思うことにする。
リシアが、わずかにこちらを見る。
「……あなたは」
一瞬、言葉が止まる。
「……いえ、問題ありません」
何もなかったかのように歩き出す。
「……次に行きます」
その背中を見ながら。
「……普通、か」
街を見渡す。
人がいて。
スキルがあって。
当たり前の世界。
だが――
【ログ】
対象:環境
状態:干渉可能
全部、触れる。
そう思った。
理由は分からない。
ただ、そう感じた。




