報告
婚約発表までのわずかな期間、アステル男爵夫妻は王都にあるタウンハウスに滞在することになった。
それに伴い、寮生活が基本である学園において、リリアにはアルフレッドから特別に自宅通学の許可をもらったのだ。
それは、王妃イザベラから彼女を守るため、そして家族との時間を確保するための、彼なりの配慮であった。
タウンハウスにはアルフレッドが信頼を置く直属の騎士たちが配備され、リリアの周囲は厳重な警備体制がひかれた。
正式な発表を前に、リリアはどうしても自分の口から伝えておきたい相手がいた。
それは親友のアリアと、かつてアルフレッドに想いを寄せていたセシリアだ。
アルフレッドの承諾を得て、リリアは二人に打ち明けることにした。
「リリィ、おめでとう! あなたなら、きっと素敵な王妃様になれるわ!」
アリアは自分のことのように手放しで喜び、リリアの手を握りしめた。
一方で、リリアが内心ドキドキしながら視線を向けたのはセシリアだった。
彼女は幼い頃から”将来の王妃”として教育を受け、アルフレッドの後を追い続けてきたはずだったからだ。
しかし、セシリアから返ってきたのは、拍子抜けするほど明るい祝福だった。
「おめでとう、リリア。・・・ふふ、そんなに心配そうな顔をしないで」
セシリアはふっと、肩の力を抜いたように笑った。
「私、ずっと王妃になるのが当たり前だと言われて育ってきたの。だから殿下に見てもらえるよう努力もしてきたわ。・・・でも、いざこうしてリリアの婚約を聞いてみたら、驚くほどなんとも思っていない自分に気づいたのよ。殿下と深い関わりがあったわけでもないし、どこが好きかと聞かれても・・・正直、思いつかないわ。あ、でもお顔は別よ。あのイケメンが見られなくなるのは、少しだけ残念かしら」
そのあっけらかんとした言葉に、リリアの胸に立ち込めていた不安は一気に晴れ渡った。
始めこそ仲は悪かったが、今ではセシリアの凛とした気高さが好きなのだ。
昨日の敵は今日の友というが、セシリアはリリアにとってかけがえのない友達になっていたのだ。
婚約発表前とはいえ、学園内でのアルフレッドの行動は隠すつもりのないほど露骨だった。
彼は約束通り、常にリリアの傍らに寄り添った。
移動の際も、中庭での休息も、彼の視線は常にリリアを捉え、その隣を誰にも譲ろうとはしない。
さらに、リリアの周囲を王家直属の騎士たちが囲んでいる光景は、事実を語っているも同然であった。
「・・・あれは、そういうことなのか」
「アステル嬢は、もう手が届かない場所にいるんだ」
男子生徒たちは、遠巻きに彼女を見つめることしかできなかった。
アルフレッドの圧倒的な身分、完璧な容姿、そして何より「彼女は僕のものだ」と無言の威圧。
誰と比較するまでもなく、勝負はついていた。
リリアに近づこうとしていた者たちも、そのあまりの格差に身を引かざるを得なかった。
だが、静かになったのは男子生徒だけだった。
「リリア様、ぜひ今度のお茶会にいらして」
「我が伯爵家で珍しい香水が手に入りましたの。ぜひプレゼントさせてくださいな」
リリアの机には、山のような招待状が届いている。
アルフレッドの婚約者になるのだろうと、みな確信しているのだろう。
”次期王妃”と少しでもつながりを持とうと、今までセシリアの後をついて回っていた者たちも、手の平を返したようにリリアへ媚びを売ってくる。
そんな誘いの多さに疲れ果てていたリリアだったが、手紙の山の中からある一枚の封筒に目を奪われた。




