家族とのひと時
国王の機嫌が良くなったことで、その後の話し合いは驚くほど滞りなく進んでいった。
まず決まったのは、二人の婚約発表をわずか三日後に行うという衝撃的なスケジュールだった。
「リリア嬢の身の安全を最優先するためだ」という国王の言葉は、有無を言わせぬ強制力を持っていた。
通常、貴族同士の婚約には、家紋の精査や契約の調整に少なくとも二ヶ月は要するのが通例だ。
それをわずか三日で強行するという判断には、他国や野心家な貴族たちに付け入る隙を一切与えないという、王家の強い執念を感じる。
リリアは、自分が一人の貴族令嬢としてではなく、誰もがのどから手が出るほど望む力になってしまったんだと静かに感じていた。
それはまるで、宝箱で厳重に守られている宝石のように、自由からはかけ離れているような感覚であった。
一方、女神の力については、一ヶ月半後に控えた建国祭でお披露目されることが決まった。
それまでの間、リリアは魔塔の助言を受けつつ、アルフレッドと共に魔法の制御を完璧なものにするための特訓に励むことになる。
無事に話し合いが終わり、ようやく緊張から解き放たれたリリア。
アルフレッドの配慮によって、わずかな時ではあるが、家族水入らずで過ごす時間をもらえた。
先ほどまで待機していた応接室に戻るなり、リリアはこれまでの経緯をひとつひとつ両親に伝える。
「実はその時、殿下に魔法を見られてしまって。——それから放課後に二人きりで特訓をしていたの」
話を聞いた両親の反応は、あまりにも対照的であった。
父は顔を真っ青にしたり頭を抱えたりと忙しそうであったが、母は「まあ!まあ!」と頬を赤らめ、目をキラキラさせながら、アルフレッドとの話を聞いていた。
しかし、話題がアステル領についてへと変わった瞬間、部屋の空気は一変した。
「お父様、領地のみんなは変わりないかしら?」
何気なく尋ねたリリアの問いに、父は口元に力を入れ、眉を寄せた。
「・・・実は、まだ密猟者の手がかりが掴めていないんだ。現場には、動物のものと思われる血の跡が無惨に残されているだけで、犯人の影すら見えない。それどころか、最近になって数名の領民が忽然と姿を消してしまった」
その言葉を聞いた瞬間、リリアの背筋に氷を押し当てられたような悪寒が走った。
脳裏をかすめたのは、あのレリーフ事件の直後に見た、おぞましい悪夢の光景。
得体の知れない闇、滴る赤。
(なぜこんなに胸が騒ぐのかしら・・・アークたちは大丈夫なの?なんだか、とてつもなく嫌な予感がするわ)
その時、部屋に乾いたノックの音が響いた。




