王妃①
家族水入らずの時間を遮ったのは、予想外の訪問者だった。
「失礼します。王妃様がお呼びです。リリア・アステル嬢、共に来ていただけますか」
現れたのは王妃付きの侍女ではなく、武装した王妃付きの騎士だった。
その場の空気に緊張が走る。
父である男爵は怪訝な表情を浮かべた。
(こういう時呼びに来るのは、王妃付き侍女の役目のはずだ。なぜ騎士が・・・。それにアルフレッド殿下と王妃様の仲が良くないと噂で聞いたことがある。殿下に伝えるべきだろうか・・・・)
迷う父を余所に、リリアはすっと立ち上がった。
「分かりました、今行きます」
「リリィ!」
「ちょっと行ってくるわ」
呼び止める父の声も気にせず、リリアは騎士に付いていき部屋を後にした。
案内されたのは、息を呑むほど煌びやかな装飾が施された、王妃の私室であった。
「リリア・アステル嬢をお連れしました」
騎士の報告に応え、中から「入りなさい」と鈴の鳴るような、けれど温度の低い声が響く。
一歩足を踏み入れたリリアの目に飛び込んできたのは、優雅に茶を嗜む王妃と、その傍らに座る一人の少年の姿であった。
王妃と同じ美しい亜麻色の髪。
緑と青が混ざり合ったような、不思議な色彩を宿した瞳。
(・・・第二王子のルカス殿下ね)
ルカスは表舞台に姿を見せることが少なく、その素顔を知る者は限られている。
しかし、美貌で名高い王妃の息子だけあって、その顔立ちは驚くほど整っていた。
「お呼びいただき、ありがとうございます」
「ゆっくりお話ししたと思って呼んだのよ。家族の団らんを邪魔して悪かったわね」
王妃は優しく微笑んだが、その瞳はどこか冷たく鋭さも感じる。
「先ほど挨拶できなかったでしょう。この子は私の息子で、第二王子のルカスよ」
「初めまして」
ルカスはあまり表情を崩さず、短く挨拶をした。
「この子は魔力は無いのだけれど、とても優しくて賢い子なの。どうか仲良くしてあげてね」
王妃はリリアの反応を伺うように、ちらりと視線を向ける。
「そんな硬くならないで。もうすぐ家族になるのだもの」
そう言うと、王妃は柔らかに笑いながら言葉を続けた。
「・・・でも婚約してもすぐに結婚とまでいけないのは心配ね。あなたのその力はすごく魅力的だけれど、あまりに危険だわ。他国からも狙われる原因にもなる。・・・そこで提案なのだけれど、わたくしの実家である公爵家へ養子に入らないかしら?」




