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ランチタイム

リリアとセシリアが教室を出ると、アリアも置いてかれまいと駆け寄ってきた。

三人は食堂でサンドウィッチセットを買い込むと、そのまま裏庭へと向かった。

背後からは、戸惑いながらも寄り添おうとするリリア、そして――何も言わず、ただ毅然とした足取りでついてくるセシリアの気配があった。


裏庭の奥、黄金色に色づき始めた大きな銀杏の木の下。

人目を避けるように置かれた古いベンチに三人が腰を下ろすと、周囲は嘘のように静寂に包まれた。


「セシリア様、そのお顔のガーゼ、どうなさったんですか?」

リリアは疑問に思っていたことを率直にセシリアへぶつけた。

昨日、確かに魔法で傷は跡形もなく消し去ったはずだ。

だというのに、彼女はまだ痛々しいガーゼを当てている。

もしかして、帰宅後にまた新たな傷を負わされたのではないか――そんな不安がよぎったのだ。


セシリアはふっと視線を落とし、指先でガーゼに触れた。

「・・・別に、傷はあなたに治してもらったから、大丈夫よ」


「では、なぜ。まだガーゼをつけているんですか?」


問いかけられたセシリアは、すっと顔を上げ視線をリリアに向けた。


「私の父と母が、昨日のことを騒ぎ立てたせいで、噂が広がっていると聞いたわ。けれど・・・あなたが治癒魔法を使えるということは、まだ気づかれていないはずよ」

「それは・・・」

「あなたも貴族ならば頭を使いなさい。アルフレッド様なら、何かしら策を講じてくれるでしょう。けれど、今の無防備な状態であなたが治癒魔法を使えると知れ渡れば、どうなるか分かっているの?」

「あっ・・・」


セシリアの言葉には、残酷な現実が現れていた。

治癒魔法が知られれば、家格の低い男爵家などひとたまりもない。

無理矢理婚約を迫ろうとしたり、考えたくはないが既成事実を作ってしまおうとする卑劣な人間もいるだろう。

それだけ貴重で奇跡的な力なのだ。

セシリアはあえて傷があると見せかけることで、そうした者達の魔の手から、リリアを守ろうとしてくれていたのだ。


「・・・それに、あんなに私に媚びていた者たちが一斉にいなくなって、なんだか清々しい気分だわ」

セシリアは自嘲気味に笑い、遠くを見つめた。

その横顔は確かに凛としていて美しい。

けれど、強がりの隙間から見え隠れする孤独までは隠しきれていなかった。


(本当にセシリア様が傲慢で冷酷な人間なら、こんな風に私を守ったり、アーリィに謝ったりなんてしない・・・)

横で黙って話を聞いていたアリアとリリアは、同じ思いであった。


「セシリア様」


リリアが、包み紙を開いたサンドウィッチを一つ、彼女の方へ差し出した。


「もしよろしければ、また明日も・・・こうして一緒にランチをしていただけませんか?」


「え・・・?」


予想だにしなかった言葉に、セシリアの動きが止まる。

誇り高い瞳が大きく見開かれ、戸惑いに揺れた。

自分を陥れようとした女と、また食事を共にしようなどという物好きが、この広い社交界のどこにいるというのか。


「・・・べ、別によくってよ。あなたがどうしてもと言うのなら、付き合ってあげなくもないわ」


セシリアは慌てて顔を背け、いつもの高飛車な口調で答えた。

だが、その頬はガーゼの上からでも分かるほど真っ赤に色づき、声は隠しきれない喜びで小さく震えている。


その不器用な返答に、リリアとアリアは顔を見合わせてクスクスと笑った。

穏やかな風が、3人の友情を祝福するように裏庭を吹き抜けた。

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