第六十七話 新刀と大軍団
「おお、来たか。これで揃ったな!」
躑躅が猪神社に戻ってきたとき、既にレイコを含めた全員が到着していた。どうやら自分が一番ビリだったらしい。
紺は既にザルソバの召喚を終えており、神社の境内に、その美しく巨大な姿を見せている。
目的はあの世界にまた戻って、鉄士協会に制裁を与えること。正直なところ紺達の方は、協会などどうでも良かったのだが、レイコが行くと言い出したので、とりあえず同行することに決まった。
・・・というか、前の話では鉄士協会云々という話で軽く流されてしまったが、レイコの方では既に、紺が大陸の再生事業に協力することも決定しているらしい。
紺自身は、何だか勝手に自分の将来を決められて、大分不愉快だ。だが自身もこの力を楽しんでいる感もあったので、強く言っていいことなのか、少し悩むところである。だが前から気に入らなかった鉄士協会への制裁には、とりあえず協力してやることにした。
躑躅が神社に戻ったとき、仲間たちの他に、写真やビデオ撮影をしている妙な人たちがいた。てっきり野次馬に見つかったかと思ったが、服装からして猪市の役人であることが判った。
「すごい……本当に麒麟だ」
「この写真、売りに出していいですかね?」
ザルソバの姿に感動しているらしい、数人の役人達。紺の帰還は、この市の関係者達にも伝わっている。ちなみに以前手に入れた、ゴーストクリエートの部品をやったら、皆大喜びで技術班に送っていた。
そんな役人達の中に、少し変わった身なりの者がいた。
「別に構わないけど……どこかの映画の映像だと思われるのがオチだと思いますよ~?」
役人たちの質問に答えるその人物は、この世界の原住人種の純人ではなく。鬼人だった。
紺や躑躅と同じぐらいの、十代ぐらいの少女に見える。髪は長く、日本人ではありえない赤髪だった。容姿はタレ目の丸顔で、紺とは対照的な顔立ちだ。
服装はスーツ姿の役人たちと違い、薄黄色い着物を着ている。そして両手には、刀袋と思わる、細長い黒い袋を、大事そうに抱えていた。
見慣れない岩木地人の姿に困惑する躑躅、前のレイコの説明を思いだし、もしかしたらと思い、質問してみる。
「あの……この方はどなたでしょう?」
「ああ、私もずっと気になってた。この人どう見ても、あっち側の人だよな?」
紺もまだ聞いていなかったようで、躑躅の質問に呼応して、レイコに聞いてくる。その質問にはレイコではなく、当の本人が答えた。
「紹介が遅れました皆様方。私の名前は鶯と言います。以後お見知りおきを……」
「「!!」」
岩木地生まれの三人が、その名前に険しい顔で反応した。紺の方は、その名前にどこかで聞いたような気がするが思い出せず、戸惑った表情で首を曲げている。レイコや役人達は、最初から判っているので、無反応だ。
「……鶯。三賢者の一人か?」
「はい、そう呼ばれていた時期もありました」
礼儀正しくその鬼人の少女=鶯が答える。
鶯はかつて陸前国を治めていた三人の権力者の一人だ。他の二賢者と共に、国を離れて消息不明になっていたが、まさか異世界にいたとは。
これではどんなに王国が探しても、見つかるはずがない。
「実は鶯には、紺のための武器を作ってもらってたんだ。鶯の技術者の腕は相当なものだよ」
「はい♪ ちょうど数日前に出来上がったところだったんです。何かちょうどいい時期に、皆さんに来ていただいて、ホッとしています」
「私のための武器?」
紺は少し戸惑った。武器なら既に今差している。白神河の川岸で拾った、身元不明の鎧骸骨の刀だ。
「確かにその刀もかなりの上物だけど……ここまで強くなった紺の力には、もう見合うレベルじゃないよ」
紺の疑問に、レイコがそう答え、鶯が彼女の前に刀袋を行儀よく差し出した。
常に丁寧な仕草で応対され、紺もつられて頭を下げながらそれを受け取ってしまう。
「ど、どうも……」
受け取った物を、刀袋から取り出す。そこにあったのは紛れもない日本刀だった。
サイズは今まで使っていたものと同じぐらいで、鞘も以前と同じ黒塗りだった。だが以前の物とは違い、鞘にも柄にも、見栄を良くための装飾や模様などは一切ない。
実用性重視なのか、地味なデザインの刀だった。ただ一点だけ、長い鞘の部分に、茶色塗りの円形の輪に“紺”という漢字一字が、家紋のように描かれている。
早速刀身を、鞘から引き抜いてみる。実に美しい直刃の刀身が姿を現した。
確かに業物であるらしいということは、紺にも判った。少なくとも、時代劇で見かける模造刀なんかよりは、かなり斬れそうな感じだ。
だがそれが、今まで使っていた刀より優れているのかまでは、紺の目利きでは判らなかった。
近くでこれを見ていた浅葱が、その刃を見て感嘆している。どうやら彼女には、その良さが判るらしい。
(まあ、実戦で使ってみれば判るか……)
これから向こうの世界で、一戦やらかしに行く予定なのだ。その時にこいつの実力を確かめればいい。
「ありがとうございます。助かりました」
タダで物をもらったからには、不礼儀な態度を取るわけにはいかない。レイコとの初対面の時とは違い、紺は恭しく頭を下げて鶯に礼を言った。
「いえいえ、喜んでもらえて私も頑張った甲斐がありました。是非頑張ってくださいね」
「はい、喜んで使わせてもらいます!」
紺は死からの復活とともに、レイコの力を取り込んでいた。そして今日までの特訓で、暴走しない程度には、その力を制御できるようになっていた。
これで全ての準備は整った。紺と仲間たちは、次々とザルソバに乗馬していく。
「私たちも行こう。牡丹鍋!」
レイコが傍らにいた、小さな獣に指示を出す。すると命令を受けた牡丹鍋に、変調が訪れた。
子イノシシ特有の背中の縞模様が、一瞬で消えた。全身の毛皮が、成獣のものと同じ色になり、牙まで生えてくる。変わったのは外見だけではない。牡丹鍋の身体全てが、急速に大きくなっているのだ。
子イノシシから、成獣イノシシレベルにまでなり、更に上をいって牛以上の大きさになった。牡丹鍋は、M78星雲人のようにあっという間に怪物レベルにまで巨大してしまった。
「グォオオオオオッ」
「ようし、私たちも行くよ!」
牡丹鍋に乗馬するレイコ。その小柄な身体で、巨獣にしがみつく姿は、熊の背に乗る金太郎像のようだ。
皆を乗せて、ザルソバと牡丹鍋が、神社の上空にある門へと飛んだ。鶯たちに見送られながら、その二つの巨体が門を通って、一瞬でこの世界から消える。
いよいよ決戦の時だ。
六王国の上空に、二匹の最強レベルの霊獣が飛んでいる。その背中に、恐らくこの世界で最強レベルの戦士たちが乗っているのだ。それを考えると、実にすごい光景だ。
「じゃあ早速、協会本部のある猪神京まで、テレポートしちゃおうか?」
「転移魔法か? 私にまだ使いこなせないって言ってなかったか?」
転移魔法は、召喚魔法以上に制御が難しい。ただ遠くに飛ぶだけなら、簡単にできる。
だが正確に位置を特定して移動するのは、結構難しい。移動したい座標に、転移専用の魔法陣を敷いていれば、簡単に行うことはできるのだが。
だが紺には、魔法座標陣なしで、正確な移動ができるようになるには、まだ鍛錬が必要である。
「大丈夫。私が飛ばしてあげるよ。でも私も結構久しぶりだからな。少し待ってて」
レイコが目を瞑って、何かの魔法を使い始めた。千里眼という視界に入らない位置や、遠方を除く力だ。
それで猪神京の位置を再度確かめようとしているのだ。しばらくして探索を終えて、レイコは目を開けた。
「もうOKだよ。でもちょっと変わったことになってる」
「変わったこと?」
「協会に雇われた鉄士達が、大軍で六王国を攻めようとしてるみたい……」
それは確かに大変なことだ……
猪神京から東方へと伸びる大街道。それをまっすぐ進めば、やがて六王国の国境にも通じるその道に、兵員輸送車両の団体が通っている。
その規模は、以前紺を捕らえに来た、政府軍の部隊を、確実に超えているだろう。これはもうどこかに戦争を仕掛けているようにしか見えない。
車両に乗っているの軍人ではなく、全員鉄士、もしくは鉄士協会で働く従業員である。
彼らは皆ある招集依頼を受けて、この車両に乗っている。それは渡辺 紺という元鉄士の捕獲依頼であった。
たった一人の純人を捕まえるために、猪神京及び周辺地域にいる鉄士達を、協会自らが一まとめに雇ったのだ。その数は数千にも及び、道中の移動中にも、各地の鉄士達が召集されて、さらに兵力は拡大する予定である。
これだけの大人数で、一人一人に支払われる報酬は相当なものだ。これに関する出費は、協会の財政を傾かせる恐れがあるくらいである。
一体自分たちは何の為に集められているのか? その疑問に多くの鉄士達が、様々な憶測を言い合い、噂し合った。
招集依頼が出される直前に起きた、謎の竜による王都侵入が関係しているのではないかという話が、鉄士達の間で最も有力視されている。
協会からは、ただ捕獲しろとだけ言われており、その紺という純人に、何があるのか誰もわからないのだ。確かに純人は珍獣だが、ただそれだけで、こんな動きをするのは、まずありえない。
王都内が避難命令で混乱する中で、一日以内にすぐに準備して依頼を受けろと、受けなければ協会から処罰を下すと、ほとんど脅しに近く、しかも随分と急かした内容の招集だったのだ。
報酬の良さもあってか、皆しぶしぶとその指名依頼を受けた。
各々の依頼所に行くと、協会の役員が迅速に指示を出す。転移魔法陣を使って、目的地の六王国に一番近い、青龍京本部まで鉄士達は転送された。
そしてそこに用意されていた、大量の兵員輸送車両まで案内された。これにかかるまで僅か一日足らず。あまり迅速……というより急ぎすぎる対応。まるで何かに対して焦って動いているようだ。
何か協会全体にとって、やばいことでも起きたのだろうか? 鉄士達は急かされながら、準備がまともに出来ていない者も大勢いる中で、出陣した。
車両団は六王国めがけて、まっすぐ進んでいる。移動中に、資格証を通じた連絡で、場合によっては六王国を制圧するという過激な指令に、皆が混乱していた。
そんな中、事件が起きた。
グイーーーーーーン! グイーーーーーーーン!
走っていた車両が先頭から先に、次々と急停車していく。そしてそれぞれの車両から、その機械音が耳につく勢いで鳴らされた。
これは団体が何かの襲撃を受けた時に流される、警告音声である。
『先頭車両より報告が来た! 巨大な魔物が二体、こちらに立ちはだかって出現した! 全員直ちに下車して戦闘準備をしろ!』




