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不死の女神  作者: 大麒麟
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第六十六話 災厄の世界と平和な世界

 時間も場所も大きく変わり、向こうの世界岩木地。紺が王宮を去ってから二日後の昼間のこと。

王宮内部は二日前と同じように、多くの兵が配置されていた。むしろ以前より兵の数が増えている。


 その中心部。対策本部が置かれている王居殿前にて。


「いかん。このままでは明日まで持たないかもしれん……」


 多くの兵に取り囲まれた王居を見て、総大将の臙脂が、追い詰められた表情でそう嘆く。

 臙脂を始めとした多くの兵達が視線を向ける王宮には、ただならぬ邪悪な魔力が零れ流れている。


 この王居には三日ほど前に、とてつもなく強大な魔物が出現したのだ。それは恐らく、今まで政府軍が相手してきた、どの魔物よりもレベルが高いだろう。

 それが完全に解き放たれる前に、宮廷魔道士の力を結集して、どうにか結界の中に閉じ込めることができた。魔物はその結界を内側から破壊しようと、その恐ろしい力をぶつけ続けている。


 最初の見立てでは、この結界は、最低でも二十日は持つはずだった。その間に猪神京都民を避難させ、何か有効な手立てを考えようとしていた。だがその猶予期間は、大幅に引下げられた。

 魔物の力は予想より強力だった。いや、その表現は語弊がある。結界に閉じ込めている間に、最初の頃よりも力が強力になってきているのだ。

 何も与えていないのに、勝手にパワーアップする謎の魔物。その力の根源は何なのか?


(……根源は人間の邪念と狂気か。あの方の心は、それほどまでに狂っていたのか……?)


 三日経った今でも、都民の避難は完了していない。もしかしたら都市全体を巻き込む、大戦争になるかもしれないのに……。

 それに拍車をかけて、更なる悪い情報が飛び込んできた。


「大変です! 憲兵隊からの報告で、ついに都民が暴動を起こしました!」





 猪神京都内は、大混乱になっていた。何万人もの都民が、都内のあちこちで憲兵隊と衝突している。武器を手にして、憲兵隊に斬りかかっているものもおり、まるで江戸時代の百姓一揆・打ち壊しだ。

 憲兵達は、多少手荒にしても構わないと言われている。だからといって都民を直接攻撃することなどできない。腕力に自信のあるものは力で押さえつけ、魔法の使えるものは麻痺や眠りの魔法で暴動を沈めようとしていた。


 だが暴徒の数はあまりに多く、しかもその中には魔法を使える者もいた。麻痺や眠りの魔法で動けなくした者達も、そいつらの手によって、あっさりと回復してしまう。


「政府のクズ共が! 力ずくで俺たちを叩き出そうとは、堕ちるところまで堕ちたな!」

「何が王宮に魔物が出た、だ! お前らの企みは、とっくに判っているんだぞ! 魔物騒ぎで俺たちを追い出した後、私たちの家から財産を掻払うつもりだろう!」

「鉄士協会は、女神さまの血にそんな力は無いし、都内に魔物は一匹も侵入していないと言ってるぞ! 協会はお前らなんかよりも、遥かに信用できる。貴様らの企みに引っかかる馬鹿など、この街にはいないと、何故理解できない!? 腐れ共が!」


 突然の都内全域の避難命令に戸惑い、更に鉄士協会の手先から、色々と嘘八百を吹き込まれた都民達。暴動は更に拡大・過激化を進む一方だった。


「くそ! なんでこんな時に、鉄士は一人も来ないんだ!?」

「何だか、すごい大きな仕事が出たそうで、都内の鉄士は全員そっちに行っちまったらしいですよ?」

「何だよ、その仕事って! こっちは家も金も取られそうだってのに!」


 衝突場所から離れた場所にいる暴徒達が、鉄士協会が動かない事態に激昂していた。

 都内の商業組合が、この暴動への助太刀を協会に依頼していた。だが、都内の鉄士達は一昨日から、八割以上がある仕事に狩り出し尽くされており、協会施設は廃墟のように無人に近い状態になっていた。


 次第に衝突地帯から、無数の剣戟が聞こえてきた。この時から暴動は、合戦へとランクアップしたところである。

 だがその合戦は、そう長く続かなかった。勝負が早くついたからではない。


 ドォオオオオオオオオオオオオオン!


 突然王宮の方角から、核実験でも行われたかのような、凄まじい爆音が響いた。


「グォォオオオオオオオオオオオオオッ!」


 更に追随して聞こえてきた音は、明らかに何かの生き物の声だった。王宮からこの距離まで、これほどよく聞こえる鳴き声。一体どれほどの化物が現れたというのか?


 合戦の剣戟も喧騒も、コンセントを抜かれた電化のように、一瞬で止んだ。憲兵も都民も、胸中に嫌な予感しかしてこなかった。


「なあ、協会の人達は言ってたよな? ここに魔物は来てないって……」

「ああ、確かにそう公表していた……。全部、政府の虚言だと……」

「じゃあ、この声なんだ?」


 数分後、都民達は、指示通りに避難しなかったことを、ひどく後悔することになる。





 ところ変わって向こう側の世界にて。


(ああ~美味しかった♪)


 猪市内のショッピングモールの中を、帽子を被った小学生くらいの少女が、明るい顔で歩いていた。

 髪は金色のポニーテールで、見た目外国人ぽい。実際は外国人どころか、惑星・次元すら別の所から来た人物である。彼女は紺と一緒にこの世界にやってきた、猪神王国の元鉄士=躑躅(つつじ)である。

 服装は向こうの世界で来ていた、巫女風の魔道士服でなく、こちらの世界の現代風の服である。


 昨日から連続して、躑躅はこの世界の観光を続けていた。この日本という国は、彼女の故郷と違って、様々な国の文化が入り混じった、実に多様性の高い国である。

 躑躅がさっき食べた、ファミレスのメニューも、彼女にとっては未知の食べ物ばかりであった。


(あれは!?)


 躑躅は電化製品店を通りかかったところで足を止めた。ガラスで内部の見通しを良くした店内を、外から観察してみる。


(うわあ、映像機がいっぱい……)


 彼女が注目したのは、内部に大量に並べられたテレビだった。

 躑躅の故郷にも、テレビと同じ概要の機械はあった。だがそれらは、政府や鉄士協会など一部の組織が、通信や記録保存などのために使っている場合がほとんである。

 一般市民に一番身近な物は、たまに都市の中に設置されていることがある、情報伝達用の街頭映像機ぐらいだ。


 あんな珍しい機械が、こっちの世界で一般家庭に標準的に置かれているという話は、躑躅にとってはとても不思議な話だった。

 そもそもあっちの世界には、テレビ放送がないため、普及させる意味もないのだが。


(紺さんが好きな“アニメ”ていうのも、あれに映るんですよね? どんなのなんだろう?)


 買い物をするわけでもないのに、いつまでも店先で立っているのも迷惑だろうと、躑躅はすぐにまた歩き出した。


(私の世界と、こっちの世界、どっちが過ごしやすいんだろうな?)


 こっちの世界では魔法が無い代わりに、機械技術が広がっている。魔法が無いことで、向こうより不便なところもある。

 レイコが施したような環境改造もされていないので、万年豊作とはならない。だがその代わり、魔物の脅威が存在しない。躑躅の思ったことは、一概に決められない話だ。


「んっ!?」


 とても小さく奇妙な動きをする気配を感じて、ある店の脇にある地面に足を向けた。そこには一羽の小さな鳥が、弱々しく蹲っている。


(雛鳥だ……)


 この世界の鳥類には詳しくないが、まだ発達していない翼を見て、躑躅はすぐにそれが巣立ちできる段階でない幼鳥であることに気づく。

 近くの店の看板を見上げると、そこに鳥の巣が作られていた。恐らくあそこから落ちたのだろう。


「……しょうがないな」


 躑躅は頭の帽子を外した。外すと同時に、そこから一本の蔓が伸びてくる。

 それは機械のように繊細に動き、その雛鳥を捕らえた。雛鳥は突然捕まったことに驚き、暴れたが、蔓は構わずに持ち上げて、上の巣まで持ち上げていく。


 実に簡単に、雛鳥は巣への帰還を果たした。


「すごいなあれ、手品か?」

「何かの道具を使ったんじゃないのか? あの変なロープ、どっかの新製品かな?」


 この光景を見ていた通行人たちが、躑躅の技を見て感嘆していた。中にはこちらに向けて、拍手を送っているものもいた。


(いけない!)


 紺からの忠告をすっかり忘れていたのに気づき、躑躅は慌てて帽子を被って、頭の葉人の特徴を隠した。

 その直後に、躑躅の服のポケットから、変わった機械音が流れてきた。


 ルルルルルルルルルルルッ・・・ピッ!


 躑躅はすぐにそれを取り出し、その着信音を切る。この携帯電話というものは、躑躅が数年間使い続けていた、鉄士資格証とほとんど使い方が同じであった。

 そのため、市の役人から持たされた後、実に簡単に使いこなすことができた。


「はい、何でしょう紺さん?」


 躑躅は電話を耳に当てて、電話先の相手=紺に応対した。


『レイコの奴が言ってるよ。こっちの準備もキリがよくなったってさ。これから鉄士協会に乗り込むことになったんだけどさ、躑躅も一緒に来るか?』


 先日レイコの出した勢いで、鉄士協会に殴り込むことになっていた現状。いよいよ決戦時が来たようである・・・・・・

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