↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不死の女神  作者: 大麒麟
PR
66/74

第六十五話 最後の強化

 社殿の中で、レイコが全てを話し終えたとき、外はすっかり暗くなっていた。

 紺は未だに顔を引きつらせ、黄と躑躅は意外すぎるレイコの実像に唖然とし、浅葱は何やら難しそうな顔をしている。


 最初に言葉を放ったのは紺だった。


「……とりあえず、あと百発ぐらい殴らせろ!」

「多いよ。半分ぐらいにまけて」

「わかった」


 言われたとおり、紺はその場で、レイコに五十発の拳打を浴びせた。魔力を溜め込んだ必殺パンチを50発である。

 無抵抗の相手に、拳を血で濡らしながら、次々と殴りつける姿は、ほとんど児童虐待・暴力犯罪である。だがこれを、本人も了承している場合はどうなるのだろうか?


 他の三人は、この様を止めればいいのかどうか、判別ができない。一応相手は自分たちの国の最高位者なのだが……。

 彼らはただ事態を見守るしかなかった。やがて、紺の制裁が終わった。


 五十六回殴られ続け、レイコの顔は血みどろで肉も骨も砕けて原型を留めていない。

 確実に死んでいる。それから待つこと数時間、緑色の光と共にレイコは復活した。


「うぉおおおおおおおおっ!?」


 社殿の中にあったテレビで、レイコの持っていたBDアニメを見ふけっていた紺。

 あれだけ顔を砕いたのに蘇ったレイコに過剰に驚いている。ちなみに他の三人はさして驚いていない。この中で緑人の再生場面を目撃したことがないのは、紺一人であっただけに。


 多少はびびったものの、紺はすぐに自分を落ち着かせて、再度会話を始めた。


「そんでさっきの話の続きだけどさ・・・・・・。私が向こうに飛ばされてから今日まで、あんたは一体何してたんだ? 向こうでは全然出てくる気配がなかったけど?」


 向こうの世界では、土地神達ですら居場所が判らず、完全に音信不通だった。

 こっそりこちらを監視していたようにも見えない。何しろさっき、紺がこの世界に戻ってきたのを、大分驚いていた風だった。


「漫画とかアニメとかゲームとかしてた……」

「「はあっ?」」


 一瞬ふざけているのかと思ったが、実際この女は、ここに来る直前までアニメを見ていた。


「いやさあ……。緑光石を作ったり、継承者を選抜したりしてる間に、手をつけてないのがすごく増えちゃってさ。それでそれを一気読みしてたの……。ああ、よかったら紺にもそれ、全部買ってあげようか?」

「「…………」」


 紺は怒りを通り越して呆れてしまった。まあ、この手の作品を見たがる感情は、紺自身も判らなくもないところがあったのだが。

 紺とは違って浅葱の方は、最初の紺と同じく、相手を殴りつけたい衝動を覚えていた。


「ああ、勿論それしかしてなかった訳じゃないよ? こっちから紺の周りのフォローとかを色々と……。まあとりあえず。いきなり巻き込んじゃってごめんね!」


 頭を下げて本気で謝ってくるレイコ。あの解釈の仕方には、本人も後から多少なり後悔したらしい。だが少し謎の発言があった。


「フォロー?」

「猪市の上層部に手を回して、紺の学校には休学扱いにしといたよ。一応家族にも事情は話したし」

「事情を? 話は通じたのか?」


 異世界に行ってきたなんて、そんな話、どうやって信じさせるのか?


「私の魔法と牡丹鍋を見せたら、結構すんなり信じたよ」


 レイコは隣にいる一頭の子イノシシに目を向ける。少し違和感のある話だ。魔法はともかく、こんな見た目普通の動物を見せて、何の証拠になるのだろう?


「少し話に入ってもらってもいいか?」


 会話に浅葱が割って入ってきた。


「え? ああいいぞ」


 紺のほうもこの後、何を言うべきか迷っていたので、難なく了承する。


「レイコ、あなたに三つほど聞きたい」


 幼い頃から崇拝していた相手なのに、何故か呼び捨てにする浅葱。なんかもう色々と、どうでも良くなってきたのかもしれない。


「まず一つ目ですが、この街にそんな手回しをするということは、最初から紺を帰すつもりだったのか?」

「ええ、まあ。大陸の再生作業は、別にそう急ぐ話じゃないからね」


 確かに寿命のない彼女からすれば、時期を急ぐ理由もない。紺が復学して卒業するまでの期間など、実に短いものだ。


「二つ目ですが、さっきの話を聞く限り、紺の不老不死は、俺たちにもかかっているのですか?」

「そうだよ。君たちも紺と同じように、死んでも生き返れる体質になってる」


 この言葉に浅葱も、後ろで話を聞いていた黄と躑躅も、さして驚かなかった。女神の話が出てきてから、薄々気付いていたことだ。

 ただ不老ということは、もうこれ以上肉体の成長はしないということ。その事実に、まだ成長途中だった少年と、背の低さを結構気にしていた少女=黄と躑躅は、かなり残念に思った。


「僕、ずっと子供のままなんだ……」

「私もずっと背が低いままか……。そうならなくても成長しなかった気もするからいいけど……」

「……何ていうか……すまん」


 リアルピーターパンとなってしまった二人。改めて言われて罪悪感を覚える紺。

 だが血を与えられなければ、元より命はなかったのだ。誰もそれを責めたりはしなかった。


「不老の力を消すことは、ちょっと今は無理だよ。まだその辺を本格的に研究したことがないし。でも不死を消すことはできるよ」

「不死は?」


 それはつまり、緑人及び緑人の眷属は、死ぬことができるということだろうか?


「私が調べた限りだと、本人に生きる意欲が完全になくなれば、死んでも二度と生き返れなくなるみたい。この力って、基本的に人の心の強さと繋がってるからね。生きたくなくなるくらい心が枯れると、その力は無くなるんだ」

「お前はまだ枯れてないのか?」

「まだまだ大丈夫だよ。私って精神力にはすごく自信があるから♪」


 紺の問いにレイコは元気よく答えた。確かにこの様子だと、後千年は生きられそうな気がする。

 紺も、そのくらいの年月、心を支え続けられるかどうか、少しチャレンジ精神が沸いてきた。


「最後の質問ですが、あなたは紺を飛ばしてから、岩木地の様子を一度も見なかったのですか?」

「最初の辺りは、時々見てたよ。黄君の母親を助けた辺りまで。その後はまあ、別に大丈夫だろうと思って、ずっとこの街にいたよ」

「では政府と鉄士協会が、紺を力ずくで手中に入れようとしたことは知らないのですね?」


 今まで楽観的な様子だったレイコは、この言葉を聞いて初めて表情を曇らせる。


「詳しく聞かせてくれる?」


 それから時間が経ち、紺達は経緯を事細かにレイコに話した。レイコはさほど表情を変えなかったが、内から静かな怒りが感じ取れた。


「へえーーー、そんなことあったんだ。ごめんね紺。あの連中には君に対しては、怖がるか、媚を売るかどちらかしかないって見くびってたよ」


 どこからか転移させたのか、レイコはいつのまにか、一本の日本刀を持っていた。

 全長一メートル、刃渡りは恐らく70cm前後。標準サイズの刀だが、レイコは身体が小さいため、黄と同じように、大太刀のように背中に差している。


「今からあっちへ乗り込むのか?」

「うん。約束破ったお仕置きはしないとね。でもその前にやっておきたいことがあるんだ」


 レイコは背の刀を、その場で抜刀した。


「紺、君は殺されるたびに強くなって、しかも自分を殺した相手の能力を手に入れてたね?」

「ああ、これはお前と同じじゃないのか?」


 殺さる度に強くなるという話は、さっきのレイコの過去話にもあった。

 だが殺人相手の力を取り込めるという話は一度も出てこなかった。レイコの扱う術は、全て自身の鍛錬で身につけたものだ。


「前者は同じだけど、後者はないよ。あんな力、私も計算外だった。多分こっちの世界の人間の体質の違いか、もしくは作るのに協力してもらった土地神の力のせいかは、私にも判らないけど。でもとりあえず、それで試したいことがあるんだ」

「何だ?」


 するとレイコは、己の武器の切っ先を、突然紺に向けた。


「紺の再生強化は、あと一回で終わるよ。後はこれ以上強くならない。それどころか一度死ぬと、一時的に力が弱体化するようになる。二月ぐらいすれば元に戻るけど」

「特撮の再生怪人みたいだな」

「そうだね。そうなる前に“殺らせて”欲しいんだ♪ 何十もの系統の技を覚えた私に殺されれば、君の力はどうなるんだろうって……」


 銀朱に殺されたときは、水魔法と海洋生物を操る力、二つの能力を同時に手にしていた。身につける能力は、一回につき一つとは限らないらしい。

 それを踏まえて、目の前のレイコの手にかかるとどうなるのか? それは紺も興味を持った。


「よし、いいぞ。やってくれ」

「それじゃあ、いっきま~す♪」


 この日、夜更けの神社の中で、一件の双方合意の殺人事件が発生した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。