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不死の女神  作者: 大麒麟
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第六十四話 女神の経緯

 時間が流れ、レイコはまた新しい世界に移動した。その世界は、レイコが今まで見てきた世界とは、少し様子が違っていた。

 その世界はもう、滅亡の一歩手前まで行っていたからだ。


 そこはレイコの故郷の地球とは、別の惑星にある並行世界であった。だが文化や言語は、地球ととてもよく似ていた。

 かつては魔道と機械科学が、両立して発達していた世界だったようだ。だが度重なる戦争で、取り返しのつかない状態にまで至っている。

 核兵器も大量に使用されたようで、大地の半分以上が、死の呪いで汚染されていた。生き残った人々も、生きるために無理な開拓を行い、ますます自然を壊して、住める土地を減らしてく悪循環を起こしていた。


 特に新しい力を得られそうにない、無価値な世界だが、レイコはここに腰を落ち着けることにした。

 今まで自分は、明確な目的もなく力を求めていた。そろそろその力を、何かに盛大に使ってみたいと思っていた所だ。どうせ使うなら、悪行より善行のほうが、ずっと後味がいい。


 こうしてレイコは、その世界の浄化と繁栄に、力を貸すことになった。

 レイコの強大すぎる力と、数百年という歳月で取り込んできた知識と技術によって、その世界は大陸一つという一部分とはいえ、着実に復興していった。

 やがて数十年という時間をかけて、その大陸は、戦乱前を遥かに凌ぐ豊かさを手に入れた。


 だが豊かにしすぎて、魔物などの異常種まで強くしてしまったことに、大分時間が経ってから気がつく。

 このままでは遅かれ早かれ、取り返しのつかない大被害が起こる。これを解決させるには、強くしすぎた大陸のエネルギーを引き下げるしかない。

 だがこれを多くの民が反対した。人は一度豊かさを手に入れると、そうそう手放すことができない。それに当時まだ事態は深刻化しておらず、危機を実感できなかったのかもしれない。


 やむを得ずレイコは、人々の体質その物を、それらの脅威に対抗できるように改造した。

 かつてレイコの故郷を滅ぼした、大巨人が使った技を、独自に研究・進歩させたものである。これが葉人・龍人・鬼人の三人種の誕生である。


 この大陸でやるべきことはやったと判断したレイコは、次の大陸の再生作業へと向かった。

 思っていたものと違って、これがかなりの難題だった。最初に手を加えた大陸は、当時世界の中で、汚染状態が一番低く、生命も多少はまだ息づいていた。

 だが他の世界は、本当に草一本虫一匹いない、正真正銘の死の大地だったのだ。


 どれだけの力を発揮しても、ほとんど進展がない。生命の魔法で、植物を生やしても、地質の悪さと悪天候ですぐに枯れてしまう。

 天候を操作しながら、この広大な地質を浄化するとなると、それは凄まじい時間と気力がいる。


 とりあえず計画を練り直そうと、岩木地に戻ると、これはまた困ったことに遭遇した。岩木地の人々が、自分を神のように崇め、この大陸の統率を求めてきたのだ。

 これにレイコは大いに戸惑った。レイコは世界の復興に手を貸したが、それは権力や人々の信奉を求めてやったわけではない。

 そんなものに興味はないし、人の期待に常に応え続けなければいけない責任など、彼女にとっては重荷でしかない。


 それにレイコは、術や科学は大得意だが、政治に関しては全くのど素人である。国政と経済を、きちんと纏め上げるなんて、できるわけがない。

 やむをえずレイコは、人々に神っぽいかっこよさげな台詞を言って、他の者に国の統率を任せることにした。


 ここで初めてレイコは、自身の血の力を、まともな人間に与えた。

 国の若者たちの中でも、とりわけ心の強そうな者たちを選び、そいつらに自身の血を与えた。結果それは大成功した。

 以前実験した山賊とは違い、彼らは正常で確かな強大な力と、不老不死を得た。レイコは彼らを、三賢者だとか威厳のありそうな名前を適当につけて、国の政務を全て丸投げして岩木地を飛び出した。


 ちなみにその若者たちの名前は、緑天丸(りょくてんまる)・海松(みる)・鶯(うぐいす)といった。

 そして再び、別大陸の再生作業に戻る。面倒なことにはなったが、一度取り組んだことは、最後までやり遂げようという責任感はあった。

 だがやはり事は思うように進まない。やがてレイコはあること思いついた。


(私と同じような人が、あと一人ぐらいいれば……)


 そんな人材を得るには、自分が受けたあの結晶体を、自分が作らなければならない。

 そのためには、また一から研究を積み重ねる必要がある。レイコは、別大陸での作業を続けながら、その研究をちまちま行うことになった。


 時々休憩を兼ねて、岩木地に戻ることもあった。その際に、自分の身元が判らないよう、変身魔法で姿を変えて、各地を観光していった。

 だがここに少し難点があった。レイコの変身魔法でなれるのは、同種族の純人だけだったのだ。


 これまで渡ってきた世界の住人は、ほとんど純人ばかりの世界だったので、問題なかった。だがこの世界の住人は、レイコの手によって、ほとんどが亜人種となってしまった。

 人種改造後も、純人は多少残っていたが、彼らは長い年月の混血によって、ほぼ姿を消してしまっていた。


 初期の頃は問題なかったが、純人が自然絶滅していくと共に、レイコの姿は随分と珍しがられるようになった。

 来訪先で色々と自身の力を披露したこともあり、“やがて純人が現れた土地には福が来る”という妙な迷信が出来上がってしまった。


 やがてレイコ自身が自重するようになり、岩木地に訪れることも殆んどなくなってしまった。


 そんな日々を繰り返しながら数百年の歳月が流れ、レイコは……いい加減に飽きてしまった。

 永遠に続くような時間を、ただただ同じ作業を何度も繰り返す。どんなに優れた精神力を持っても、さすがに限界が来る。一応成果は出ているが、自然が蘇った土地面積は、世界全体のほんの一部でしかない。


 レイコは一度仕事を休止し、また別の世界を少し覗いてみる。そうしたらレイコが発見したのは、かつてのレイコの故郷と、とてもよく似た世界だった。

 同じ地球という惑星にある並行世界で、レイコのいた時代よりは、過去の時間軸にある世界のようである。


 レイコはその世界に頻繁に入り浸るようなった。やがてあるその世界の、ある街に自身の拠点を置いた。

 そこを選んだ理由は、名前が猪市《いのししし》という、自分の相棒に合いそうな名前だったからだ。まあ、ぶっちゃけて言えば、どこでも良かった訳である。


 レイコはその市の有力者に取り入った。そして岩木地にある、有料素材=霊素材を、大量にその市に輸入した。そしてそれを加工する技術も一緒に教える。

 その結果猪市は、優れた機械部品や医薬品を大量に作り出す、大きな産業都市へと発展した。


 公にはできなかったが、レイコも市からとても良い待遇を受けた。異界への門が作られた場所には、中規模程の神社が建てられて、門の存在をカモフラージュさせた。

 向こう側の門は、誰にも見つからないように、天空の中に作っておいた。


 それとは別に、こちら側の門がある神社のことで。レイコはその都市の中の自然の風景が気に入り、その神社を己の住まいとした。

 そしてそこで、市の仕事を手伝いする傍らで、その世界のアニメ・ゲームにハマりまくるようになる。これまで修行か再生作業のどちらかしか、してこなかったレイコにとっては、全く未知の娯楽だった。そして一度入り込むと、もう抜けられなくなる。


 そんなこんなで数年の時間が流れた。レイコは市に、新しい霊素材を送り届けるために、一旦岩木地に戻っていた。

 そして必要なものを大量に揃え、後は帰路につくだけ。だが帰る前に少し森林浴でもしようと、六王国最大の河川の岸部にて、寝そべっていた。そんな時、思わぬ者が訪問してきた。


「ようやく会えましたね。女神レイコ様……」

「女神?」


 いきなりやってきて、こちらの名前を呼んだ者に、レイコは少し驚いた。

 自分が女神と呼ばれる声を聞いたのは、いったい何年ぶりだろう? この場所に人の気配が近づいていることに、気がついてはいた。だが大方山仕事中の近隣の村人だろうと、全く気に留めていなかった。


 だが現れたそれは、こちらを知っていたばかりか、その出で立ちは黒塗りの甲冑を着た鎧武者であった。

 その鬼人の男は、どう見ても一般人ではない。石原の上で、その長身でレイコを見下ろす形で現れた謎の男。レイコは何が何だか判らなかった。


「何者だよ、あんたは?」

「失礼しました! 私は猪神王国第一王子・猪神 朽葉(ちょしん くちば)と申します。以後お見知りおきを!」


 頭を下げて、礼儀正しく名乗る王族の男。だけれど今後見知っておく必要があると、いろいろと困るのだが。


「臙脂将軍の魔力探索で、この地域に大きな空間の乱れがあると聞きました。それでもしかしたらと思い、この国で出向き、半年にわたって待ち続けたところ、こうしてあなたにお会いできた次第です!」


 どうやら門のことを、王室にチクったらしい。困ったものだ。


「それでお前は、私にどうしたいの?」

「是非、我が国に再び戻っていただきたく……」

「絶対に嫌だ!」


 速攻で断るレイコ。政務に関わるのが嫌で、三賢者を作ったのに、これでは元も子もない。ましてやこんな武装姿で出迎えに来たものなど、何を考えているか器が知れている。


 案の定、この朽葉という男は、断った瞬間に腰の得物に手をかけている。


「……どうしても戻ってもらわなければいけないんです。鉄士達の横暴を止められるのは、あなたしかいないんです」

「それで力ずくで連れ戻すのか? お前に出来ると思うか?」

「私はこれでも、王国では臙脂将軍にも勝る猛者です。結構自信がありますよ……」


 レイコは深いため息を吐いた。もうかける言葉も見つからないといった感じだ。


 ……数分後、この白神河の川岸に、一体の鎧武者の亡骸が野ざらしにされることになる。





 この事件の後、レイコは一つ考え直したことがあった。四百年経った今でも、あの世界では自分の存在はかなり大きなものになっている。

 そろそろ自分も何かしら行動を起こすべきでは?と考えるようになった。


 そこで猪市での仕事は、全て退職した三賢者の一人である鶯《うぐいす》に任せた。

 そしてこの時まで、もうほとんど忘れていた、新しい緑光石の制作に取り掛かった。だがそれを一人で作るのには、最低でも二十年はかかりそうだ。

 そこで岩木地各地にいる土地神達に、力添えを頼んだ。結果、製作期間は大幅に短縮して、半分の十年で完成した。


 後は、これを誰に与えるかだが、これにレイコは迷った。とりあえず岩木地出身者は止めておいた。

 理由は二つ。あの世界の民の心には、女神に関する固定観念が強く、どうにも不安があること。もう一つは、こちらの世界のファンタジーぽいこと、異世界召喚系をやってみたいという、レイコの個人的趣味である。


 そこで門に近い位置にいる、猪市の市民の若者たちから選定を行った。緑光石の力に耐えられそうな人材を、ある程度絞り込めたが、問題はどうやってこのことを頼むかだ。


 何しろ別世界の問題に関わらせる話なのだ。いきなり勧誘して、引き受けてくれる者がいるかどうか……。

 すぐに決断させられる、良い方法はないかと、あれこれ考えている内に、次第にレイコは考えるのもめんどくさくなってきた。

 もうこっちの世界の者はやめて、岩木地の者から選抜しようか?と考えていたところで、拠点の神社に来客が現れた。


 街の中を迷っていたらしい牡丹鍋が、夕方頃になってようやく帰ってきた。しかも何故か慌てた様子。どうも誰かに追われたらしい。


(そりゃあ、街の中にイノシシが歩いていたら、それなりに騒がれるよね……。相手は警察か?保健所か?)


 その追っ手は、神社の前にまでやってきた。千里眼で社殿の扉の向こうを見てみると、その追っ手は警察でも保健所でもなく、一人の女子高生だった。

 レイコは彼女の顔に見覚えがあった。自分が選んだ緑光石継承の候補者リストに、入れていた人物の一人だ。


「どうか今よりもっと強くなれますように……」


 その女子高生=渡辺 紺は、こちらの神社に向かって、そんな願い事を口にしていた。

 これを聞いてレイコは、ちょうどいい出来事だと思った。何しろ当人が、ウチの神社に向かって、強くなりたいと要望してきたのだ。

 かなり無茶苦茶で強引で都合のいい解釈だが、これで相手の合意が得られたことにしてしまった。


 その場ですぐに、紺に対して緑光石継承の儀を執り行った。儀のやり方は簡単に終わった。緑光石を相手の肉体と魂に、無理矢理くっつけて融合させてしまえばいいのだから。

 継承の影響で気絶した紺を、社殿の中に運び、その場で身体検査を行う。


 結果、融合は完全に成功したことが確認された。紺の肉体と魂は、上手い具合に緑光石のエネルギーと適合を始めている。

 ただ予想外だったのは、融合当時の彼女の着用物にまで、その不老不死の力が行き届いていることだ。緑光石融合の影響で、紺のこの衣服まで、彼女の身体の一部と化してしまったのかもしれない。

 まあこれは、そんな大した問題ではないのだが。


 やがて全ての検査が終わり、レイコは眠ったままの紺を、頭上にある門のところまで運んだ。


「さあ、逝ってきなさい!」


 紺の右足を掴み、その小さな体を回して、投擲選手のように、紺の体をその穴に放り込んだ。こうして彼女の旅立ちは始まった。


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