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不死の女神  作者: 大麒麟
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第六十三話 少女と巨人と猪

今話と次話の二話分は、長い説明文の回です。つまらないかも知れませんが、ご容赦を。

 無数に存在する世界の中で、紺と同じ地球という惑星に存在していた並行世界に、中村 玲子(なかむら れいこ)=後の女神レイコは生まれた。


 レイコの故郷の地球は、紺の地球よりも遥かに科学技術が発達していた。特に医療・生体工学が、飛び抜けて発達していた。

 その技術を使って、上流階級の人々は平均年齢百五十歳まで生きられる、長寿世界となっていた。それと同時に長生き出来るものと、出来ないものとで、人が大きく区別される格差社会にもなった。


 人の欲望はそれだけでは終わらず、やがて寿命はおろか事故が起きても絶対に死なないという、完全なる不老不死の力を求めた。そしてその研究を本格的に行い、その可能性を見つけた。

 惑星のありとあらゆるところに流れる、こっちの世界では魔力や気と呼ばれる、特殊な自然エネルギーを徹底的に解析する。そのエネルギーを大量に収束し、精錬させ、具現化加工して特殊なエネルギー結晶体を作り上げる。

 それを人間の肉体・精神体と結合させれば、常人を遥かに凌ぐ生命力を持つと推測された。


 実験は幾度となく行われた。だが多くの被験者が、その結晶の力に耐え切れず、次々と死んでいく。だが中には、無事に生き残るものもいた。

 彼らは不老不死とまではいかなくても、確かに非常に高い生命力・身体能力を体得していった。


 その技術に有用性があると考えた人々は、それを力を入れて徹底的に研究した。やがてそれまで作り出していたものとは比べ物にならない、究極の力を持つ結晶体が完成した。

 その実験に使われたのは、当時九才だった一人の幼い少女だった。被験者に選ばれた理由は特にない。貧民街で、川原で食べ物を探していたところ、たまたま見つけた研究機関の者が拉致してきたのだ。


 最初の実験でいきなり成功するとは、誰もが思っていなかった。だから死んでしまっても、誰も文句を言わないような人物を、被験者に抜擢したのだ。

 そして実験は行われた。そしてどういうことか、それは大成功してしまった。少女は本当に不老不死になってしまったのだ。


 本当に成功したのか確かめるために、研究者達は様々な、実験という名の拷問を、少女に繰り返す。

 ある時は猛毒を飲ませて毒殺し、ある時は脳を粉々に破壊して即死させ、ある時は重りと共に水の中に沈めて窒息死させる。

 両手足を切断して、紐で縛って高層ビルから干物のように吊り下げ、一ヶ月以上飲まず食わずで放置したこともあった。


 少女が耐え難い痛みと屈辱を受け続ける中、正反対に研究者たちはとてつもなく歓喜していた。

 何度肉体を損壊させられても、少女の体は時間を置くと修復してしまうのだ。それどころか、復活の旅に、少女の生命力・身体能力は少しずつ増強しているという。


 またコンピュータで解析したところ、少女の細胞に過度の負担はかかっておらず、計算上半永久的にその肉体は老いないという。


 研究者たちはすっかり自信を持ち、少女に与えたのと同じ結晶を、再び作り上げた。そして完成したそれを、当時その世界の最高権力者に献上した。

 これでこの世界は、更なる繁栄を得られる。誰もがそう思った。だがその結晶が与えた恩恵は……世界の滅亡だった。


 結晶の製作に一切落ち度はなかった。あらゆる検査をして、最初の実験と同じ性能の結晶を完成させたはずだった。だがその結果は、最初の実験と全く異なるものを迎えることになる。


 結晶をその身に融合させた王は、かつての被験者のように死ぬようなことはなかった。

 確かに望み通り、強大な力と、不死に近い肉体を得られたのだろう。だがその代わりに王は、人の姿と人格を完全に失った。


 ワニのように裂けた口に、無数の鋭い歯が生え揃った。顔の形は、鮫のように前に突き出した流線型になる。両目は肉食恐竜のように、突き出した顔の両側に移動した。

 肉体は過剰なほどに筋肉が発達し、肉達磨という形容がふさわしい肉体となった。全身の体毛が、髪の毛含めて全て抜け落ちた。そしてその体格は、自動車を玩具のように踏みつぶせる、大巨人と成り果てた。


 彼には人間だっときの記憶も、言葉も覚えていなかった。ゾンビのように、ただ食欲だけを満たすために、その世界の命を貪った。

 最初の被験者と、何故これほどの差が出たのか、研究者たちも誰一人理解できなかった。この怪物は、後に玲子が“人妖”と名付けることなる。


 人々は抵抗したが、その大巨人を倒すことはできない。どんな兵器で対応しても、十分なダメージを与えられない。どうにか重傷を負わせられたと思ったら、その傷は短時間であっという間に治ってしまった。

 たった一匹の怪物の手によって、着々と崩壊の一途を辿る世界。やがてその敵は、一匹だけではなくなった。


 大巨人は魔法に類似した力を使い、自分以外の生物を自分と同じ怪物にしてしまう力を、いつのまにか身につけた。大巨人は、暴れるごとに進化していったのだ。


 一部の者たちが、この世界を見限って、別の世界に移動する計画を立てた。だがその世界の次元移動の研究は、まだ完全でなく、危険極まりないものだった。

 実際に世界を渡ろうとしたものが、旅立ち直後に、転移装置のエネルギーに耐え切れず即死した。恐らく転移先の世界では、バラバラに砕けた彼らの死体が、無事に送り届けられただろう。


 どこにも逃げ道がなく、絶望する人々。だが一人だけ、この世界から脱出できたものがいた。最初の結晶体融合の被験者=レイコである。

 彼女は先方で失敗した、転移装置を使った。転移の際のエネルギーは、転移物を粉々に破壊してしまう。だがレイコは違った。彼女の身体は常人を遥かに凌ぐ強度を持つ、しかも身体が壊れてしまっても、何度でも元通りに復活する不死身の肉体を持っているのだ。


 レイコは果敢に転移装置に乗り込んだ。そして見事成功する。肉体に多少の損壊は起こしたものの、それも少し時間が立てば、跡形もなく治ってしまった。

 こうしてレイコは、あの世界でただ一人、危険地帯から脱出してみせたのだ。


 レイコが跳んでいった世界は、元の故郷よりは文明力の低い世界だった。

 だが魔法や気功といった、生体エネルギーを利用した術式は、機械技術以上に発達していた。レイコはその世界で、それらの技を学び始める。


 魔法等には、実に様々な系統がある。火を起こしたり、風を吹かしたりといった、自然現象に働きかける一般的なものから、召喚や転移といった時間や空間に干渉する高度な物まで、実に千差万別である。


 レイコはそれらの技を全て学んだ。それぞれの系統の達人に弟子入りしたり、書物などから独学で学んだりと、やり方は様々だ。

 普通は全ての系統を覚えようという考えを持つ者はいない。何故なら魔法は一系統を全て覚えるだけでも、かなりの年月がかかるのだ。人生の全ての時間を費やしても、その系統を全体得ができない者もいる。


 だがレイコには、時間の心配をする必要はなかった。何故なら彼女には、寿命がないからだ。普通の人間と違って、勉学に励む時間など無限にある。


 何百年という歳月をかけて、ついにレイコは、その世界の魔法・気功の技を覚え尽くした。

 いくら寿命が無いからといって、永遠とも思える時間、厳しい修行を最後まで続けられた精神力は半端ではない。


 修行を続けて、技を覚え続けていくうちに、レイコ自身の素体の魔力・身体能力も少しずつ上がっていった。いつのまにかレイコは、その世界では、神をも凌ぐ究極の存在となっていた。

 だがレイコはそれだけでは満足できなかった。転移魔法の技術から、自ら編み出した次元移動の魔法で、新たなる世界へと旅立った。自らが新たなる力を得るために。


 それからどのぐらいの年月が経ったのだろうか? もう数えるのを止めてから、また数百年は経ったかもしれない。

 人は歳を取ると、欲望が枯れ果てるというが、レイコの心はまだ活力があった。これがレイコ自身の心の強さなのか、それともあの結晶体の力によるものなか、もしくはその両方なのかは判らない。


 活力があるといっても、それは最初の世界にいた全盛期よりは、確実に下がっていた。時間が経つにつれ、彼女は最初の頃は興味がなかったものを欲するようになった。


(ずっと一人なんて……もうつまんないや…)


 レイコはほとんど一人で勉学と修行を積み重ねていた。最初は一人のほうが気楽でいいと思っていたが、その気持ちも次第に揺らぎ始める。

 だがレイコは不老不死の存在、誰かと無理に馴れ合おうとしても、後から虚しい思いをするだけである。


 一応それを解消する方法はあった。レイコには自分の同類を増やす力があるのだ。レイコの血肉には、他の生物の力を強化する力があった。

 それを人間以上の知性のある生物に与えると、力はレイコよりもは劣るが、本人と同じ不老不死の存在へと変える力があると、自身の研究により推察していた。


 といってもそれは推察の段階であり、それを実際に生み出したことはなかった。何度か実験してみたが、どれもが皆一時的に強い力を得るだけである。

 しかもどれもが、相当に悲惨な末路を遂げた。長くて数日、短くて数時間で、彼らは醜い怪物に成り果ててしまった。それはかつて故郷を滅ぼした、大巨人と同じであった。


 レイコの与える不老不死の力は、相当心の強い者でないと、その力を受け止めることができない。

 力に見合わない精神力では、その力を制御できず、暴走して人の姿と心を失い、あの王と同じ人妖に成り果てるのだ。


 実験に使った被験者は、みんなその辺で捕まえてきた山賊などである。彼らは皆、暴力と略奪によって快楽を得る、強い邪念で心が染まっていた。

 そうでない者もいたが、彼らは真っ当な生き方をしている者に対する、強い嫉妬による狂気で心が染まっていた。それが心の素質に対する、大きなマイナスポイントになったのかもしれない。


 これは被験者を選ぶ必要がある。山賊・盗賊など、殺しても誰も責めないような奴ら(だからと言って、平然と手にかけるのは問題だが、レイコはそんなこと気にするほど慈悲深くはない)では、良い被験者は見つけられない。

 だが罪の無い人間を捕まえて、実験に利用するのは、さすがに後味が悪い。


 やむを得ずレイコは、人間を仲間にするのを諦めた。人間より知能の低い動物だと、大概実験は成功した。彼らは不死にはなれなかったが、不老にはなれた。

 動物は元より野生の世界で、独自の力で逞しく生きていた。彼らの心には、邪念や狂気と言ったものは元から無いため、マイナスポイントもない。尤も野生動物ではなく、飼い慣らされて堕落しきったペットの場合どうなるかは、実験していないので判らないが。


 レイコは森の中を歩いている途中で、一匹の瀕死のイノシシの子供を見つけた。

 親からはぐれたか死なれたか、自分で食べ物をまともに取れないその子イノシシは、もう死を待つだけの存在だった。これも何かの縁と、この子イノシシをレイコは選んだ。


 血を与えられたその子イノシシは、瞬く間に復活し、怪物並みの力を得た。レイコはそのイノシシを、“牡丹鍋《ぼたんなべ》”と名付け、自分の相棒にした。


 やがて更なる年月が流れる・・・・・・

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