第二十八話 試験
鉄士にはそれぞれ階級が存在する。また協会に申し込まれる依頼にも、同様の階級がある。基本的に危険度が高いものや、貴族など重要人物が絡むものなどの依頼に、高い階級が与えられる。
鉄士が依頼を受けるには、自分の階級以下のものを選ばなければならない。そうでなければ依頼達成を難しいからだ。
階級は一番高いものが“鋼”。その下に“黄金”“白銀”“赤銅”“黒鉄”と続く。
これらの階級は、鉄士本人の試験での成績や、実仕事での実績を協会が評価して決める。基本的にはほとんどのものが、最下級の黒鉄級から始める。
だが資格試験での成績や、本人の素性などで、それより上の階級から始める者もいる。
躑躅は鉄士になって三年になるが、団体の中で安全性の高い位置から、採集の仕事ばかりしていたので、未だに黒鉄級のまま。一方の浅葱は、つい最近鉄士になった新人であるが、元武士という経歴からか、いきなり赤銅級の資格をもらっている。
これらの説明を紺は受付からされた。
「何ていうかテンプレなシステムだな」
「テンプレ? ……ともかく、まず鉄士になるには、書類申請の他に、実技での試験が必要になります」
紺は受付から出された書類を手に取る。内容はあまり難しくなく、自分の年齢・氏名・出身地・特技などを書くぐらいだった。
出身地はどう書こうか悩んだ。六王国と書こうとも思ったが、色々考えた末、正直に日本と記入する。
記入された見知らぬ国名に、受付は少し困惑したが、特に問題にはせず書類を受理してくれた。相手が謎の人種=純人ということで、この辺は特別視しているのかもしれない。
「では早速実技の方に入りたいと思います。これから試験場で麒麟と対戦してもらいます」
「キリン?」
「はい。もちろん本物ではなく、魔法で作られた模造品ですから大丈夫ですよ」
キリンという単語を聞いて、真っ先に首の長い動物のキリンを連想させる。だがもちろんそんなものではあるまい。恐らく幻獣の方の麒麟だろう。
(でもあれって殺生を絶対しない、穏やかな生き物じゃなかったっけ? 試験の戦闘相手にされるって……こっちの世界では違うのか?)
受付について行き、協会本部内の試験場へと入っていく。試験場は体育館のような構造の大きな広間の建物だった。建物や壁は石造りで、表面は魔法のコーティングで強化されている。
奥の方の地面に、魔法陣が敷かれている。以前青竹が造った召喚魔法陣とは形が違うものだ。
「では試験を開始いたします!」
合図と共に、魔法陣が輝き出す。これに紺が「おおっ!」と反応する。
やがて魔法陣の上に何かが現れた。それは最初、ガラスのように透明だった。それは徐々に色と影が付き始め、幽霊のような半透明な姿になる。更に実体化が進み、それは完全にこの世に形として現れた。
それは麒麟だった。馬のような体型・東洋の龍のような頭・全身を覆う鯉(龍)のような鱗・牛のような尾・馬のような蹄。まさに中国神話の幻獣の麒麟そのものであった。
大きさは馬と同じぐらい。龍型の鬚が、犬の尾のようにピコピコ動いている。そして眼前の紺を睨んで戦闘態勢をとった。
「おしっ!」
漫画で見た空手家のポーズを真似てみる紺。刀は抜かず、素手で勝負に挑む気のようだ。
麒麟は牙を剥いて、紺に向けて突撃した。紺は避けようとはせず、自身も走り出して麒麟に殴りかかる。狙いは麒麟の頭。そこは紺の身長より高い位置にあるため、跳躍して飛び殴りを仕掛ける。
ドンッ!
紺の右の拳打が、麒麟に頭に命中した。高い身体能力から放たれた、砲弾のような威力の拳打に、麒麟の頭が粉々に吹き飛んだ。勝負ありだ。
紺は自身の何倍もの体格の怪物を、一発で仕留めたのだ。相手のあまりに素早い動きに、麒麟は攻撃や防御の構えをとる暇は全くなく、勝負は驚くほどあっさりと終わってしまった。
魔法による紛い物であるためか、出血などはなく、麒麟の身体は粒子化してゆっくりと消えていく。
「!?」
武器も使わずに一撃勝利をしたことに、審査のため試合を見ていた試験官達は少し驚く。「やはり純人は計り知れん」と呟く者もいる。少し誤解を与えたかもしれない。普通の純人はあんなに強くない
同じく見学していた紺の仲間三人は、一人も驚かなかった。紺程の人物が、あんな幻影相手に手こずるなどありえない。
「試験終了。合格です!」
「こちらが資格証になります。お大事に持っていてください」
「これが資格証?」
受付からもらった資格証の形に、紺は少し戸惑った。てっきりハンターライセンスみたいなものを貰えると思ったら、出てきたのは機械機器だった。
(これってケータイじゃん?)
それはどう見ても地球の携帯電話だった。デザインは黒塗りの折り畳み式だ。開くと画面が開き、鉄士協会のマークである桜の紋様がウィンドウに出てくる。
聞くとこれは資格証としての役割だけでなく、鉄士同士での通信機器の役割も果たすそうだ。
それ以外にも、現在協会に申し込まれた依頼一覧を、随時閲覧することができるとう便利機能。最初に協会本部に入ったとき、看板を注意するものが少なかったことを思い出した。
(何ていうかハイテクだな。まあ魔法だけでなく、科学も発達した世界なんだから当然か)
こうして鉄士試験・資格証受け取りは問題なく終了し、紺は初回からいきなり赤銅級の鉄士資格をもらった。
その日紺と黄は、浅葱たちに連れられて、彼女らが現在宿泊中の宿に泊まることになった。
最初は躑躅が泊まっていた宿で、その後浅葱も宿泊者になり、さらに今日二人追加されて四人になった。そこは日本を基準にすれば、小ぶりな旅館レベルの場所だった。
ちなみに躑躅と違って、浅葱の実家はこの青龍京にある。だがある事情で家に帰らず、こうして宿で暮らしている。
それはあまり人に言いたくないことで、事情をある程度知っている躑躅は追及してこなかったのだが……
「そういや浅葱って武士だったんだろ? あの時武士の鎧着てたし。どうして今は鉄士やってんだ?」
紺がいきなり核心の質問をしてしまった。浅葱は少し眉を潜めるものの、淡々と答えた。
「武士はもうやめた。洋竜討伐の部隊壊滅があってな……」
「ふ~ん? ああ……」
ちょっとバツが悪そうな紺。あの事件の後、寝覚めざまに見た純人(紺)の事を除いて、浅葱は真相を全て上に報告した。だが返ってきたのは浅葱に対する罵声だった。
洋竜が唐突に強くなって部隊壊滅・別の黒い洋竜が現れて討伐対象殲滅、この話を上層は誰一人信じなかった。
「戦いが怖くなって、一人で逃げ出したのだろう」「つくならもっとマシな嘘をつけ」と散々に言われた。
それに浅葱は腹を立てて、「だったら首にでも何でもしろ!」と叫んで、その日のうちに軍を辞職してしまったのだ。
その後森の中で、浅葱の報告通りに、頭を潰された洋竜の死体が発見された。まもなくして辺境の四王国に、浅葱の報告に類似した黒竜が、王宮を襲撃したという情報が入った。
これらのことで浅葱の嫌疑は晴れたが、本人はもう軍に戻るつもりはなかった。事件で知り合った躑躅とパーティーを組んで、事件の真相を探ることにしたのだ。
「てことは、最初から私に会う予定だったのか?」
「ああ、六王国の純人の話は、こちらにも伝わっていたからな。それにその純人を狙っていた四王国の主が、あの黒竜に殺されている」
確かにそこまでいけば、紺の身元も判るだろう。浅葱が紺のことを上に報告しなかったのは、感謝すべきことである。
「浅葱さんと一緒に、明日にでも六王国へ行こうと話していたら、突然紺さんが目の前に現れたんです」
「成るほど。さすがにあの驚き方は行き過ぎだったけど。ていうかさっきの話、最初から私を監視するつもりで探そうと思っていたのか?」
「まあな」
「いいのか本当にそれで。鉄士って、貴族と犬猿の仲なんだろう?」
貴族の彼女が、紺を探すためだけに鉄士になった。正直あまり賢いやり方に思えないが。
「いいんだ。都合が悪くなれば、すぐにでも資格証を返すつもりだったしな。それにお前と一緒に行けば、鉄士協会の実態を、この目で確かめられるかもしれないしな」
「実態?」
「元来の鉄士もいるこの場で、それを話すのはよそう・・・・・・。まあおいおいな・・・・・・」
話の途中で、浅葱の目がチラリと躑躅の方に向いていた。躑躅は意図が分からず、首を傾げる。
その後、鉄士就任とパーティー結成の祝いを兼ねて、少し豪華な鍋物を宿で食した。
やがて就寝に入る。部屋は紺が修学旅行時に見た、旅館の和室そのものだった。生憎テレビ等はなかったが。
部屋の割り当ては、最初から泊まっていた浅葱と躑躅で一部屋、紺と黄で一部屋に泊まることになる。
この時、情操教育的な意味で、とても大事な部分の配慮が欠けていたのだが、一人を除いてそれを気にとめるものはいなかった。
「おし、じゃあそろそろ寝るか?」
「……あの、紺さん。本当に一緒の部屋に寝るんですか?」
せっせと布団を敷き、就寝に入ろうとする紺に、黄は恐る恐る聞いてくる。
「? そうだけど? どうかしたのか?」
「いえ……別に……」
「じゃあ、おやすみ」
黄の挙動など一切気に止めず、紺は布団に入って、あっといまに睡眠状態に入った。すやすやと寝息が聞こえてくる。それが耳に入ってくる状況の中、黄も同じく布団に入ったが……
(うう……気にしない、気にしない…)
若い男女が同じ部屋・すぐ隣の距離で寝る。年頃の男子である黄には、まだ刺激的だったらしい。この日、紺はぐっすりと眠れたが、黄は少し寝不足気味であった。




