第二十七話 今後の方針
役員にこってり絞られ、ようやく解放された二人が、紺達と向かい合って、屋内の椅子に座っている。そちらは大分落ち着いているようだ。
「お久しぶりです紺さん。無事だったんですね。本当に良かったです」
「ああ、久しぶりだな、躑躅。それとそちらは……どこで会いましたっけ?」
「洋竜襲撃の時だ! 目覚めざまにお前に腹を殴られ、頭を蹴られた武士の岩代 浅葱だ!」
浅葱は少しきれている。額にマンガ表現の血管マークが見えそうだ。
「ああ、そんな奴いたな。……ええと、すいませんでした!」
どう考えても自分が悪いと思ったので、頭を下げて素直に謝罪する。相手はまだ怒り足りないようだが、幸いこれで済ませてくれた。
「……とりあえず色々と話してもらうぞ。あの事件の後、俺達の身体が少しおかしくなったしな」
「……ああ、やっぱり」
緊急処置のために、二人に自分の血を飲ませたことを思い出す。
「やはり知ってるんだな?」
「ええ。ところで武士のあんたがどうして鉄士協会に?」
「真っ先に話すべきはそこではないだろう?」
「まあ、そうですな」
長時間に渡る説明で、紺は全てを話し終えた。信じてもらえるかどうか不安だったが、二人は意外とすんなりと話を受け入れてくれた。
「異世界ですか……何ていうか、紺さんってやっぱり凄かったんですね」
「異世界がどうとか以前に、あまりに規格外すぎる。普通なら信じられんが……俺たち自身がそれの証拠になってるしな」
驚くと同時に色々な謎が解けて納得する二人。
紺から血を提供された二人は、洋竜にやられた傷が跡形もなく回復した。それだけでなく、魔力や身体能力といった基本能力が、大幅に上昇した。今ではこの国の大武士とも渡り合える程だという。
あまりに大きな話にすぐに落ち着くことはできず、二人は黙り込んで色々考え込んでいる。そんな二人に、紺はこちらから質問してみた。
「なあ、この国で私以外に異世界から人が来たという話は、やっぱりないのか?」
「俺が今まで学んできた範囲ではないな。異世界には化物しかいないという認識が多くて、俺自身も今日までそう思っていた。女神レイコが異世界人では?という説は一応あるが……」
「ああ、それは間違いないと思う。名前が私の国の人間と同じだから」
二人は再び驚いた。謎に包まれた英雄に関して、確信的な証言が出たから当然だろう。浅葱が少しどもりながら話を続ける。
「…ま、まあ、俺は異世界関連に関しては完全に専門外だ。こういう話は、臙脂様が一番詳しいだろうが……」
「臙脂? 何者だ?」
初めて聞く名前に、紺は首を傾げる。敬称で呼ばれている所、この国のお偉いさんだろうか?
「この猪神皇国最強の将軍だ。現在ただ一人、召喚魔法の制御が完璧にできる人でな。国から召喚魔法使用の許可をもらっている。しかもあの人は、歴史上初めて異世界から人を召喚した実績がある」
「人? へえ…」
前に見た本では、人間のような知的生物を召喚した事例はないとあったが、あれは古い情報だったようだ。
「まあ、厳密に行って、あれを人と呼べるのか微妙なところだが……とにかく異世界がどうのというなら、この方が一番近い位置にいるだろう」
「しかし将軍……ていうことは政府の人間か……。ちょっと面倒そうだが、そいつの力が手に入れば、日本に帰る方法が見つかるかな?」
「どうだろうな。召喚魔法で、当人が異世界に行けたという話は聞かないが・・・・・・。それにこの国の重鎮に、お前の事をばらすのはよしたほうがいいだろうな」
この手の大きすぎる力ということは、権力側に知られるとロクなことにならないのが、お約束である。
「まあ、そうだよな。そっちは諦めるか・・・・・・」
ここはやはり、上位鉄士だけが入れるという、特別資料室を狙うのが、一番有用な手段に思える。となるとやはり鉄士になって、相応の働きをしてみせる以外にない。
「もし先代だったら、俺は政府の保護を勧めただろうが……今の陛下は……。というか、お前その力を隠す気はちゃんとあったのか?」
「一応は」
浅葱は周囲を見渡した。周囲の廊下や階段には、何人もの鉄士や役人が歩いている。
「だったらこういう話は、こんなところですべきではなかったな。どこで聞き耳を立てられている判らん」
「うおっ!?」
急に浅葱が身を乗り出し、正面の紺の顔に自分の顔を近づける。あと少しでキスをしてしまいそうな程の近距離だ。そして人に聞かれないようにするためか、小声で話しかけてきた。
「よく聞け。不死身のこともそうだが、お前の血の効能のことは、とりわけ秘密にしろ。これを知られたら、お前の血肉を狙ってくる賊が現れるかもしれん」
「ああ、まあ、そうだな…」
「鉄士になりたいというなら別にいいが、血を流すようなことは極力避けろ。あの洋竜のように、うっかりとんだ化物を生み出したら、どんな大事になるか判らん。誰かに故意に血を分けるのも禁止だ」
「おお……」
数cmの距離から、睨み目での忠告に、紺は戸惑いながらも頷く。浅葱は、自身が受けた洋竜の被害の件からか、紺の体質を相当警戒しているようだ。
「私達と狼・洋竜・木以外で、これまでに誰かに血をやったか? 動物に噛まれた程度でも、十分注意が必要だ」
「いや、ないはずだ。蛇女に噛まれたけど、あいつは血を飲み込んだりはしてなかったし、後で会った時も強さは変わってなかったよ。ああ、でも……」
紺は隣に座っている黄をチラリと見やる。話が判っているようで、少し気まずそうだ。紺が何か言おうとする前に、黄が説明を始めた。
「実はここに来る少し前、紺さんにもう一度血をもらったんです。僕の方から頼んで……」
「もう一度? 何でそんなことを?」
「もっと強くなれるかと思って……」
紺は復活の度に、魔力・身体能力が強化されていった。黄が血をもらったのは、紺が二度目の復活をした後である。五回蘇った後の、以前より強くなっている肉体から血をもらうと、どうなるのか?と紺に質問したのだ。
当然そんなこと判るはずがない。話を進めるうちに、本当に血をやる話になり、黄ももっと強くなれるかもしれないと自ら受け入れた。
「それで効いたのか?」
「……はい」
結果は成功した。最初の頃との、紺との力の偏差値は開いたが、黄は確かに以前より強くなった。今ならあの蛇女にもガチで勝てるだろう。
これを聞いて、浅葱は更に険しい表情を見せる。
「お前、これから先、死ぬのも禁止だ」
「え~~」
死ぬな、という言葉に不満を口にする紺。事情を知らないものが聞いたら、全く意味不明の会話だろう。
「まあそれで他人に迷惑をかけちゃ駄目だろうけどさ・・・・・・。さっき話していた臙脂みたいに、こっちの目的にあいそうな能力者が敵だった場合は?」
「まあ、それはしかたないか」
何故か浅葱に主導権を握られている会話。だが件の洋竜の事件が少し尾を引いて、紺は特に反論しようとはしなかった。
「鉄士になってこの世界を旅したいと言っていたな? ならば俺もお前の旅に同行しよう。お前の力は危険すぎる。かといって政府に話を伝えるのも安全とは言えない。誰かが注意しておかなければな」
「やっぱそういう話になるか。判った。これからよろしく頼むよ」
予想通りの話だったこともあって、紺はあっさりと承諾した。本人少し嬉しそうに見える。素人だけでの旅というのに、若干不安があったのだ。
「紺さんが鉄士になってくれて、私とても嬉しいです! これからよろしくお願いしますね?」
「え? 何で?」
躑躅の“これから”の後の言葉に、本気で不思議そうな紺。
「私今、浅葱さんと組んでますから、当然でしょう?」
「ああ、そうか。それじゃあしょうがないな」
「なんで不満そうなんです!?」
「ああ、それから一つ質問」
少し怒っている躑躅を無視して、紺は浅葱に質問した。
「あの洋竜退治の話。何で見知らぬ鉄士が解決したことになってるんだ?」
この国に戻ってきて、紺はあの事件の記事を読み、頭にクエッションマークが踊った。
あの洋竜は、蘇芳という鉄士協会が直々に指名依頼した、凄腕の鉄士が解決したことになっていたのだ。その人物はたいそう人気がある鉄士らしく、報道もその人物を賛美する内容で埋まっていた。
「鉄士協会が報道機関に根回しして、情報操作したんだ。最初に洋竜が出現したとき、鉄士達はほとんどいいところがなかったからな。それで不名誉を挽回するために、このようなことをしたんだろう」
「情報操作? それってこの世界では犯罪にはならないのか?」
「もちろん犯罪さ。だがまあ、色々あってな……」
何やら色々と小難しい問題があるようだ。
その後、あれこれ話をまとめた結果、彼らは四人で新たな旅に出ることとなった。




