香織の想い 4
それから2時間が経過し、外はすっかり夕方になっていた。
「この時間になればお店が落ち着くと思うから、ちょっとお父さんの様子見てくるわね」
「分かりました」
香織のお母さんはそう言って立ち上がった。
「あ、あの。 そこにあるアルバムって、見てもいいですか?」
仏壇の横にある正方形型のアルバムを指さす。
「香織のアルバムね! どうぞどうぞ! 誠司くん、見たことなかったの?」
「はい。 香織が『恥ずかしいから見ないで』って言うので、見せてもらったことないんです」
香織のお母さんはいたずらに笑って「思う存分見ちゃいなさい」と言って、リビングを後にしていった。
僕はそっと仏壇に近づき、
「ごめんね香織! お母さんの許可貰ったから見るよ!」
そう言って、アルバムを手に取る。
香織は幼少期の写真は割と見せてくれていたが、中学と高校の写真はあまり見せたがらなかった。
無論、卒業アルバムも。
本人曰く「人間関係に悩んで、自分にとっては暗黒時代だった」とのことだが……。
悪いことを掘り下げたい訳ではなく、ただ純粋に当時の香織が見たかった。
いざアルバムを持ってみると、見た目に反して重みを感じた。
ドキドキしつつも、最初のページをめくってみる。
「幼少期はいつ見ても可愛いよなぁ」
目が無くなるほど、思いっきり愛嬌を振る舞った赤ちゃんの写真が出てくる。
そう……幼いときから彼女はとても可愛かった。
幼稚園の制服を着た香織は、姪っ子の花音ちゃんにどことなく似ていて。
ランドセルを背負った香織は、フリフリのミニスカートを履いて、高い位置で結んだポニーテールをしていた。
大人になった香織の面影が少し感じるが、まだあどけなさがあって愛らしい。
アルバムは中学校時代のページへと入っていく……。
ジャージ姿の子供たちが写る集合写真を発見した。
指折りでじっくり探していると、
「あら、眼鏡かけている」
ジャージ姿の香織は、なんだか居心地悪そうな表情。
写真の下を見ると、宿泊活動のときの写真だった。
その後も写真を見ていくと、笑顔で映る香織の写真がそんなに見られず……。
写真の数もあまり多くなかった。
高校生の頃も同じで、集団に紛れて映っているという感じ。
中学生のときよりも笑っているが、僕が知っている香織の表情とは違ったようにも見えた。
正解かどうかは分からないが……。
この時の苦労があったから、今の香織はこんなにも色んな人に愛されているんだと思った。
「ちょっ……なんだこれは……」
大学生になった頃、男女のグループで撮った1枚の写真。
香織の肩を触る男の人と、香織とくっついて並ぶ男の人にムッとする。
「……今のは見なかったことにしよっと……」
気を取り直して、他の写真もゆっくり見ていく。
大学へ入学した頃のスーツ姿。
成人式の晴れ着姿。
そして、僕との写真が徐々に増えていき……。
「これは……初めてのデートだ」
何度も行った鎌倉デートは、記念すべき初デートでも行った場所。
初々しい感じが写真からも伝わり、思わず笑みがこぼれる。
「僕と香織、若いな……」
見た目の変化に少し驚きつつも、他の写真を見ては、当時の思い出がどんどん浮かんできた。
「ん?」
後ろのページに差しかかってきたとき、マスキングテープで固定された封筒を発見する。
ちょうど写真が入りそうなサイズだったので、封筒の中にも写真が入っていると思った。
この封筒には、どんな写真が入っているのかと期待していると……。
写真ではなくて手紙……しかも枚数が多い。
一番上には、
『誠司へ』
何のことだろうと混乱したが、達筆で書かれた香織の字を読むことにした。
誠司へ
この手紙を書いているとき、私は人生で一番幸せな気持ちでいることでしょう。
「僕と結婚してください」
シンプルにそう言って、指輪を渡してくれた今日のあの瞬間が忘れられなくて……。
「こんなにも私、嬉しいんだ」「幸せなんだ」っていうのをカタチに残したいと思って、こうしてペンを取りました。
気持ちが舞い上がりすぎて、正しく文章が書けてないだろうし、語彙力も落ちているだろうけど……笑っていいから大目に見てね?
誠司と出会ってもうすぐ8年目になるかな。
長いようであっという間だった。
初めて会った日のこと、昨日のことのように覚えている。
出会った直後「この人と付き合うな」ってハッキリ分かったの。
私が探していた本を偶然持っていて……。
ちょっと冴えない人かと思ったら、私に本を貸そうとする姿が何故か可愛いなって思ったの。
初対面でこんな風に思うこと、普通ないからね?
ちなみに誠司は私と出会ったとき、どう思っていたのかな?
あのときは良心で本を貸してくれたんでしょうけれど……ちょっとは私のことを意識してくれたのかな……なんてね!
7年も付き合っていたけれど、私たちは別れる危機が無かったね。
私がちょっと拗ねると、誠司はすぐ謝ってくれちゃうし……逆に誠司が構ってアピールしても、私はわりと無視しちゃって……いつもごめんなさい!
でも、誠司の優しさと器の広さにいつも救われている。
本当にそう思っているよ。
口で言うのは恥ずかしいから、ここで(手紙で)言わせてね!
結婚しても、私たちの関係性や生活スタイルは変わらないと思う。
変わるのは「夫婦」という肩書きが付くことかな。
でもね、そんな些細なことが私にとってすごく嬉しいの。
家族の一員として、貴方の隣にいられることが心の底から幸せです。
数ある出会いの中から、私を選んでくれて本当にありがとう。
彼女から奥さんにしてくれて本当にありがとう。
誠司が私を幸せにしてくれるのは間違いないって勝手に確信している!
でも、2人で一緒にいられたらそれだけで充分。
もし誠司との間に子供ができたら……それも最高に幸せかもね。
誰よりも誠司を愛しています。
ずっとそばにいさせてね。
香織




