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今宵、図書館で逢いましょう。  作者: さきみやめぐ
第八夜

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香菜子エピソード 託された命 5

 祖父の家で居候生活が始まってから数ヶ月後。


実家にあった私物は祖父の家に移され、何不自由なく生活を送っていた。

大学は実家からのほうが近いが、大学4年生の今はほとんど通学せず、卒論も完成したので問題ない。


両親と揉めた後、父は祖父にしつこく電話をかけてきて、祖父の家に何度も押しかけてきた。

だが、近隣住民や図書館の利用者から「不審者がいる」と通報され、警察沙汰になったのだった。


一方、母のことは何も知らない。

祖父の家に住んですぐ連絡先を変えたので、母との接点が完全に無くなっていた。


この日、妊婦健診を終え、祖父にお腹のエコー写真を見せながら大広間でくつろいでいた。


まだ小さい曾孫を、優しい目で見つめる祖父。

私が生まれたときも、祖父はそんな表情でいてくれたのか……。


「1つ疑問に思うんです。 母はどうして私を生んだのでしょうか……」


質問を聞いた祖父は、とても深刻そうな顔を浮かべる。


「おじいさん?」

「……香菜子が生まれる前、嫁さんは死産をしているんだ」

「……その話、本当ですか?」

「本当だ……そのときは男の子だった……」


嘘だと信じたい話だが、祖父はゆっくり話を続ける。


「再び妊娠したときは喜んでいたんだが……香菜子を出産前、子宮が破裂して出血が止まらなかった嫁さんは、すぐに子宮摘出をしたんだ。 それに、男の子じゃなかったからと生まれる前から息子に憎まれ口を叩かれて……」

「本当に最低……」

「あぁ……嫁さんは酷いショックを受けていた。 私も息子をきつく叱ったが、2人の関係は一気に悪くなった……」


父が私に言っていた「娘なんかいらない」という一言は、命がけで出産をした母にも向けられていた。

そのことを思うと、胸がとても痛い。


「そのせいか、嫁さんは香菜子が小さいときから冷たかったと思うんだ……だが、この前の様子だと、嫁さんは香菜子を少し気にかけていたように感じたな」

「あ……」


父が私に手をあげようとしたとき、父の行動を何度か止めようとした母。

それに、私から「縁を切る」と言われ、母はショックを受けていたようにも……。

祖父の話を聞き、私は母に少しだけ罪悪感を抱いた。


「香菜子の妊娠を聞いて、自分の妊娠と出産のことを思い出したんじゃないのか」

「そう、かもしれませんね……」


気持ちが沈んでいる私を見て、祖父は言葉を続けた。


「香菜子は何も悪くない。 お腹の子のために母親として決断したんだ。 自信をもちなさい。 それに、経過は順調なんだろう?」


あまり見ない祖父の笑顔に涙が出てくる。


「はい」


ゆっくりと返事をしたその直後、


「!」


お腹から何かを感じた。


「どうした? 大丈夫か?」


祖父は私の異変に気づき、前かがみの状態になる。


「……動いた、赤ちゃんが……」


それは胎動だった。

私がお腹に手を添えると、再びポンポンと動き出す。


「本当か?」


私が向かい側に行こうとすると、祖父は「いいから! 私が動くから!」と言って、椅子と机を支えにしながら、私の隣に座った。


「手、当ててみてください」


祖父の手が私のお腹に触れると、返事をするかのように動いた。


「あぁ……きっとこの子も香菜子に似て賢いな」


目に涙をためて、祖父は褒めてくれた。


「おじいさん……お願いですから、ひ孫の顔を見るまで長生きしてください」

「当たり前だ。 孫に言われたら尚更だ」


力強く言った祖父の言葉に、私は笑顔で応えた。


妊娠には衝撃を受けたけれど……。

この子がいる限り、私は生きていかなければならない。


弘樹を救えなかった分、この子は私の命に代えてでも守ってみせる。

弘樹、天国から私と結翔を見守っていてね……。

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