香菜子エピソード 託された命 1
呼吸を忘れるせいで胸が苦しく、汗が止まらない。
瞑っていた目を開けると、自分の寝汗でスウェットを濡らしていた。
「まだ3時……」
スマートフォンで時間を確認した後、目線を天井に向けた。
そして、数秒も経たないうちに涙で視界がぼやける。
「もういや……」
夢を見た気がする。
どんな夢かはよく覚えていないが……今の状況からして、悪い夢だったことは間違いなかった。
私は昔から眠り浅く、夢をよく見ることが多い。
子供の頃は夢を見るのが嫌で、布団に入ることを怖がった。
そういえば、この1週間も強烈な夢を何本か見た。
低空飛行の状態で、自分の体が延々と浮いている夢。
大きな満月をバックに、大蛇が自分をじっと見つめてくる夢。
起きたときの疲労感が尋常ではなかった。
『香菜子ちゃん、大丈夫?』
保育園生だった頃、お泊り保育に行ったことを思い出す。
優しく声をかけてくれた「あの人」が……弘樹が私に微笑みかけてくれた。
『僕が香菜子ちゃんのそばにいるから』
そう言って、幼い弘樹は私に布団をかけてくれた。
先生が電気を消すと、
『手、繋ごうか』
小さな声で私の手を握る。
弘樹がいてくれたお陰で、私は恐ろしい夢を見ずに朝を迎えることができた。
そして思ったんだ。
『弘樹がいれば何も怖くない』と……。
弘樹とは保育園から高校とずっと一緒だった。
中学に入学後、弘樹とクラスが離れたとき。
お互いが本当の気持ちに気づき、弘樹から私に告白をしてくれた。
以来、恋人として付き合っていた私たち。
毎年行っていた地元の花火大会、ウチの図書館でテスト勉強をしていた時間、貯めたお小遣いで買ったプレゼント……。
私にとってすべてが美しい思い出だ。
今でも思う。
弘樹と過ごしているとき、私は世界一幸せだって。
両親が私への愛情がなくても、何も問題なかったのに……。
弘樹を失い、こうして泣いている自分が信じられなかった。
泣き疲れた結果、私はいつの間にか眠りについていた。
時刻は午前9時……カーテンの隙間から少し入ってくる光を睨み、寝返りを打つ。
その直後、ノックをせずに母が部屋に入ってきた。
勢いよくカーテンを開けられてしまい、眩しい光が部屋を一気に照らす。
しかし、私は「やめて」と言わずに黙っていた。
「4年生だと言うのに、まだこんな時間まで寝てるなんて……留年になっても知りませんよ?」
朝から母のイヤミをお見舞いされる。
挨拶の一言すら言わない母に「うるさい」と言ってやりたかった。
無理やり体を起こすと、頭がズキズキと痛む。
「さっさと学校へ行きなさい」
そう言った後、母は勢いよくドアを閉めた。
母から冷たい態度をとられると「なんで私、この人の娘に生まれてきたんだろう」と思ってしまう。
今さら親は選べないので、一生解決しない疑問なんだけれど……。
深い溜め息を吐き、身支度を整えることにした。




