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今宵、図書館で逢いましょう。  作者: さきみやめぐ
第八夜

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明らかになった過去 3

 閉館時間を過ぎ、僕と月岡さんは横並びで歩いていた。

僕と月岡さんの家は真逆の方向にある。

信号で分かれるはずが、青信号になっても、2人で立ったままだった。


「月岡さんは知ってたんですよね? 香菜子さんのこと」


僕の問いかけに月岡さんは頷いた。


「香菜子さんに初めて会ったのは結翔くんが生まれる前だったんだ……ここを通ったときに図書館が開いていて。 おかしいと思って覗いたら、香菜子さんが1人で泣いていたんだ」

「そうでしたか……」

「あのときはマタニティーブルーもあって、弘樹さんのことを思い出す度に辛かったんだと思う。 色々と話していくうちに、香菜子さんの事情を知ったって感じかな」


肌寒い夜風が吹く中、月岡さんは当時のことを静かに話してくれた。

僕の涙は引いたが、鼻詰まりだけが残る。

月岡さんは苦し紛れに話し続けた。


「香菜子さんはさっき言ってなかったけれど……弘樹さんが飛び降りたとき、香菜子さんも居合わせてしまったみたいで……」

「そんな……」


香菜子さんが上のフロアにいて、お花を手にしていた理由を察する。

恐らく屋上に行き、花を供えていたのだろう。

衝撃的な話を聞かされ、再び言葉を失った。


「夜の図書館を開けている理由は、弘樹さんが最期にいた場所だから……香菜子さんと会った日に『私がここで待っていれば、会える気がして』って言っていて……。 だから僕が『自分の感情が正直に出せる居場所を作ったらどうですか?』って提案して、夜の図書館ができたんだ」


この話は、以前にも香菜子さんからも聞いていた。

そのときの香菜子さんは「どうしようもないくらい悩みに悩んじゃって」と濁していたが……。

普通にはとても話せない内容だった。


「最初に話を聞いたときは、どう言葉をかけたらいいか分からなくてさ。 思いつきでそんなことを言ったけれど……逆に香菜子さんを苦しめていたかもね……」


月岡さんは深いため息をついていた。


「いや、月岡さんは香菜子さんを救っていますよ。 それに結翔くんも」

「え?」


辛い過去を話せた香菜子さんは、きっと月岡さんの存在に救われたはず。

僕なりに言葉を選んで、月岡さんに気持ちを伝えてみた。


「当時の香菜子さんが追い詰められたままだったら、お腹にいた結翔くんにも影響があったと思うんです」

「……確かにそうだね」

「それに、月岡さんの提案がなかったら……金曜夜の図書館は無かったですし、僕もここにはいません。 僕もこの図書館に救われた身ですから」


僕の一言で、月岡さんは笑顔を取り戻してくれた。

後ろを振り返り、外で見る図書館を改めて見る。

香菜子さんの幼馴染……弘樹さんが最期を迎えた場所。

ショックで胸が張り裂けそうだったが、不思議と怖いとは思わなかった。


外灯がそう多くないので、目を凝らさないと、うっすらとしか見えない図書館の外観。

1階もすっかり照明が落とされて、本当に真っ暗だった。


僕が愛花さんの話をしていたとき、香菜子さんの前で言った言葉。


『残酷なのは、会いたい人に二度と会えないこと』


この言葉を聞いた香菜子さんは『胸が痛んだ』と言っていた。

あれは単なる同情ではなく……香菜子さん自身も味わっていたからこそ、そう言ってきたものだった。


香菜子さんを思うと、いたたまれない気持ちになる。

香菜子さんの深い悲しみを知らなかったとはいえ、何てことを言ってしまったんだ……。


「香菜子さん大丈夫ですかね。 おじいさんを亡くされて、頼れる家族とかいるんですかね……」


弘樹さんとの交際を反対していたご両親のことを思い出した。


「ご両親とは考えが合わないみたいで、昔から香菜子さんに冷たかったらしい。 結翔くんを育てるって決めたとき、絶縁宣言した上で実家を出たらしい……」

「絶縁宣言まで……」

「人様の事情だから分からないけれど……おじいさんの家やお金のこととかどうするんだろうね……あと、図書館も」

「え、図書館も何か問題でも?」


月岡さんの発言に耳を疑った。


「おじいさんは財産を香菜子さんに譲るって話だけど……図書館は財産の1つに入るのか……おじいさんの遺言によっては残らないかもしれないし……でも、さすがに心配しすぎか!」


月岡さんはそう話すが、僕は図書館の存続が危うい予感もしていた。


「いや、残るとは言い切れないですね……」


僕のリアクションに、月岡さんもため息をつく。


「そうだよね。 仮に図書館が無くなるとなれば残念だけど、おじいさんの遺志なら仕方ないよね……」


弘樹さんの話だけでなく、香菜子さんの家族関係も深刻そうだった。

お嬢様育ちの香菜子さんが、これほどの苦労をされていたとは……。


「ごめん、野上くん」

「月岡さん? どうして急に……」


突然の謝罪に驚く。


「僕が香菜子さんに『野上くんに話してみたら?』なんて言ったから……野上くんなら、香菜子さんに寄り添ってくれるって思ったけど……話を聞いた野上くんは辛かったんじゃ……」

「いいえ、そんな謝らないでください」


月岡さんは自分を深く責めていた。

だが、月岡さんは何一つ悪くない。


「ただその……香菜子さんが抱えていたものが大きすぎて……結局、僕も途中泣いてしまって……」

「野上くん……」


月岡さんは美佳子さんを病気で。

僕は香織を事故で。

香菜子さんは弘樹さんを自殺で。


正直なところ、香織のことをまだ完全に受け止められていない自分がいる。

香菜子さんの傷ついた心に、僕は寄り添えていなかったんじゃないかと深く反省していた。


「……」


次の話が出てこず、月岡さんと一緒に黙り込んでしまった。


上着がないと寒いくらい、季節は冬に近づいている。

この時間は特に冷えて、頭の回転が鈍くなる。

今の状態では、心まで冷え切ってしまいそうだ。


「僕は来週、図書館に行っていいんでしょうか……」


僕の言葉を聞いた月岡さんは、僕の肩を掴み、泣きそうな顔で僕の目を見つめてきた。


「何を言っているの! 気まずいとか思わなくていいの! 分かるよ。 野上くん、気遣い屋だからそう思っちゃうの!」

「へ……」


月岡さんは、僕が心の中で思っていたことをしっかり読み取っていた。


「でもね、それとこれとは違う! 大丈夫だから!」


ハッキリそう言った月岡さんに、ほっと安心する。


「特に来週来てもらわないと、楽しみにしていたお土産がもらえないじゃん!」

「あ、そっちですか?」

「そうだよ、そっちよ。 結構本気で言っているからね?」


数分前まで深刻な話をしていたとは思えないくらい、空気が柔らかくなっていた。


「今日はお開きにしよう! 野上くん、来週は図書館に来て僕と香菜子さんにお土産ちょうだいね!」


掴んでいた僕の肩をポンポンと叩く月岡さん。

意外にも片瀬並みに力が強かったので、少しビックリしていた。


「はい、お土産持って行きますね」


これには思わずクスッと笑う。

月岡さんがニコニコと笑っているのを見て、来週も図書館へ行こうと決めたのだった。

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