明らかになった過去 1
目を開けると、僕は顔を突っ伏して眠っていた。
図書館の大きい掛け時計を見ると、12時を過ぎていたらしい。
「寝ちゃったのか……」
机が少し濡れている。
頬あたりの皮膚も、水気がカラッと抜けたようで変な感じだ。
起きたときの感じもあまりすっきりとしない。
きっと悪い夢でも見たのだろう。
6連勤の疲れからか、いつの間にか眠っていたのだった。
「あ、起きた。 おはよう、でいいのかな?」
声がした方を見ると、読書中の月岡さんが斜め前に座っていた。
「月岡さん、いらっしゃっていたのですね」
僕が図書館に着いたとき、月岡さんの姿はまだ無かった。
「うん。 いびきかいていたから、そっと静かに来たよ」
いたずらに笑いながら言ってきた月岡さん。
「うわぁ、恥ずかしい……うるさかったですか?」
「全然。 ぐっすり眠れているのかなって思ったよ」
「そう、ですか」
肯定的に返してもらって、少しホッとした。
ただ、月岡さんが言った「ぐっすり眠れている」という表現は、僕からすると真逆だった。
頭を搔きながら、寝ていたときのことを振り返る。
夢に片瀬が出てきたと思ったら、男2人でひどく号泣していた。
香織の葬式から半年以上が経っているのに、あまりにも生々しい記憶……。
「野上くんと会うのは久しぶりだね。 いつぶりだろう?」
一方の月岡さんはいつも通りだったので、そこには救われる。
「えっと、ここでオセロやったとき以来じゃないですか?」
「結構前だね。 僕が仕事で来られなかったから、随分と空いちゃったな……」
遼くんに会ったとき、月岡さんが多忙であることは聞いていた。
「月岡さんとはしばらくすれ違いだったんですよね。 2週間前くらいに、僕は軽井沢に行っていたので」
「あぁ! お友達のところに行くって話していたね。 どうだった?」
月岡さんは読書を中断し、前のめりで僕に質問を振ってくれた。
「すごくよかったです! 思ったよりも充実した旅行でした」
「えぇ、いいじゃん! あ、野上くん、コーヒー淹れ直す? でも、寝て起きて今飲んだら、この後眠れなくなっちゃうかな?」
僕のカップを指して、声を掛けてくれた月岡さん。
久々の図書館だからか、今夜の月岡さんは楽しそうに見えた。
思わずホッコリした僕は、月岡さんに笑顔で返す。
「ありがとうございます。 明日は休みなのでそこまで影響ないです。 なので頂きます」
「オッケー!」
月岡さんは僕のコーヒーカップを持っていき、自分の分と一緒にコーヒーを淹れに行ってくれた。
コーヒーを淹れている間、月岡さんは背中向きになった状態でも話かけてくれた。
「お友達は元気そうだった?」
「はい。 すっかり軽井沢に馴染んでました」
「馴染んでたの? そりゃすごい……僕も一度は軽井沢に行ってみたいな。 一番印象的だった場所とかある?」
軽井沢に行ったのは2週間前。
思い出そうとすると、昔のことのように思える。
その中でも一番印象的なのは……。
「ハルニレテラス、ですかね」
「はにるれてらす? ん? もう1回教えて」
「ふふっ! すみません、ちょっと面白くてつい……」
「野上くん、笑いすぎだよ」
ニヤニヤしながら月岡さんが戻ってきた。
コーヒーを受け取り、そっとコーヒーを飲む。
今日も美味しい……そう思うのと同時に、また軽井沢でもコーヒーが飲みたいと思った。
「実はお土産を買ったんですけど……」
「え、お土産? 僕に?」
「はい。 前に京都のお土産をたくさんいただきましたし、いつもお世話になっているので。 ただ、今日は忘れちゃったので、次来たときでいいですか?」
「ありがとう! 嬉しいよ! 来週なら中間テストが終わって落ち着くから、金曜日にまた」
「はい! 来週持ってきますね」
取り繕うことなく、自然と言葉がお互い出てくる。
図書館で過ごす穏やかな夜……こういう空気感が好きだなぁ。
ガタン! ガサッ!
少し離れたところから大きい物音がした。
元々、大きい音にはびっくりしやすい僕。
何の音か検討がつかないので、余計に怖さが倍増する。
「何だ、今の音」
僕とは違い、月岡さんはこういうときでも冷静だった。
「上、ですよね……音がしたの」
恐る恐る物音のする方へ2人で動いてみた。
方角的には上の階から。
2階から上はいつもと変わらず真っ暗だった。
スマートフォンのライトを点けて、2階に続く階段を照らしてみる。
「!」
自分の視界に何かが映ったと思い、肩をビクッとさせてしまったが……正体は白い花びら。
大きめの花びらが階段に落ちていた。
階段前のパーテーションに近い場所だったので、少し手を伸ばして拾おうとする。
すると、ライトの先に見えたのが……誰かの手だった。
「え!」
気のせいであってほしいと願いながらライトを照らすと……階段の踊り場で、人が倒れているのを発見した。
「ひぇっ!」
「どうした!?」
自分の情けない声に、月岡さんを驚かせてしまった。
「……って、これは……」
月岡さんも人が倒れていることに気づき、2人で階段を上がって近づく。
「だっ、大丈夫ですか?」
肩を軽く叩き、月岡さんは相手に声をかける。
しかし、反応がない。
震える手でライトを照らしていると、相手の顔は見覚えのある人だった。
「……香菜子さん?」
「え?」
顔が横向きの状態で倒れていたので、体ごとを少し回転させると、
「香菜子さん!」
2人で呼ぶが、香菜子さんに返事がなかった。
「ここじゃあれだし、下に降りようか」
「はい、僕が香菜子さん抱えます」
「ありがとう。 足元気をつけてね」
僕はスマートフォンを月岡さんに渡し、香菜子さんを抱き上げる。
今度は月岡さんがライトを照らしてくれた。
さっきの音は、香菜子さんが倒れた音だろう……階段で足を踏み外したとか?
考えているうちに、1階のテーブル席に戻ってきた。




