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今宵、図書館で逢いましょう。  作者: さきみやめぐ
第七夜

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香菜子エピソード 初恋だったあの人

 あの人は幼い頃から、私の傍に必ずいてくれた。


保育園生だった頃、私が公園のブランコで延々と乗っていた記憶がある。

「10回漕いだら次の人に交代しなさい」と先生に言われていても、私は頑なにブランコから降りなかった。

それに反してあの人は……。


『香菜子ちゃんの代わりに僕が代わるよ』


いつもそう言っていた彼に、私は常に甘えていた。

幼い当時から、あの事件が起こるまでずっと……。


***


 古びたブランコに1人、私は座っていた。


「んー」


ぼんやりしていた私を呼ぶように、おくるみに包まる小さい息子が声を出してきた。

息子の様子を伺うと、ニコニコと笑う。

まるで息子が「大丈夫?」と言ってくれたみたいだった。


「結翔はパパにそっくりね」


息子に釣られて私も表情が綻んだ。


すると、さっきまで一切無かった風が大きく吹いた。

日中は煌々とした秋晴れだったけれど、夕方になれば多少の冷気を感じる。


「寒いね……お家に帰ろうか」


結翔にそう優しく話しかけ、ゆっくりと重い腰を上げる。


「よいしょっと……」


私は昔から家に帰ることが嫌いだった。

17時を知らせる鐘が鳴ると、周りの友達は一斉に家へ帰っていく。

一方の私は拒絶反応なのか、鐘の音と同時にお腹が痛くなる。

すると、あの人はにっこり笑って、


『香菜子ちゃん、僕と一緒に帰ろう』


彼が手を差し伸べてくれたお陰で、なんとか家に帰っていた。

あの頃が懐かしい……。

手を繋いで帰った当時を思い出し、柔らかく笑みを浮かべた。


人は一生に一度、誰かしら好きになる。

その中で、初恋は特別だと思う。

自分の親、兄弟や祖父母も、はたまた友達にも「初恋」というものがあるはずなんだけど……。


「初恋は成就しない」


よく周りからそう言われて「そんなはずない」と思っていた私。

でも、それは本当だった。


帰り道、近所の子供たちがシャボン玉で遊んでいるところを見かける。

なんだか、初恋ってシャボン玉みたい。

フワフワと上に上がったと思えば、呆気なく消えていく。


「……」


ときどき考えてしまう。

私とあの人は、最初から出会うべきではなかったんじゃないかと……。

そうすれば、あの人は私の前からいなくなることは決してなかった。


出会ったとしても、あの人にワガママを言ったり、甘えたり、そんなことをしなければ……。

関係を遠ざけることができたと思う。

今さら手遅れなのに、ずっとそんなことを考えていた。


涙が突然、ポロポロと流れていく。

私、結翔よりも泣いているんじゃないかな。


「……っ」


結翔の顔を見て、慌てて涙を拭う。

泣き虫なお母さんでごめんね。


鼻をすすっていると、スマートフォンの振動が体に伝わってきた。


「もしもし……」


珍しいことに、祖父の秘書からの着信だった。


「……何て……仰いました?」


視界が一気に真っ暗になる。

まるで、あの人を失ったときと同じ気分だった。

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