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今宵、図書館で逢いましょう。  作者: さきみやめぐ
第五夜

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巡り合い 1

 関谷くんが来てから、ちょうど2週間が経った。

1週目は長く感じたが、2週目は思いの外あっという間に過ぎていた。

恐らく関谷くんの前で、人見知りをしなくなったことが大きいと思う。


そして僕だけでなく、他の先生や事務員さんとも会話が弾むほど、人受けが良い関谷くん。

どうしても背格好が片瀬に似ているので、ときどき僕が1人で笑ってしまうが……関谷くんの実習が順調にできていてホッとしていた。


「関谷くんに教えてもらったスタンプ、同期に送ったらびっくりしていた」

「え! 本当ですか?」


先週教えてくれたスタンプは、休憩中に実物を見せてもらい、その場で購入した。

大きな目をした妖精のキャラクターで、かなり癖になる一言が添えられていた。


『恥を知れ』

『この戯け者』

『黙れ』


普段の僕が絶対に言わないような一言ばかり。

会話に合わせてそのスタンプを送ると、片瀬が電話を掛けてまで「あのスタンプ!どうした!?」とリアクションされたほどだった。


「『野上がこんなスタンプを買うとはびっくりだよ』って言われたよ」

「それなら良かったです!」


関谷くんは「嬉しくてたまらない」とでも言っているような表情だった。

関谷くんと話しているのに、片瀬と向かい合って話しているみたい。

ここまでくると、頭では思っていなくても、本当は片瀬本人に会いたいのかもしれない。

僕がクスクスと笑っていると、関谷くんは不思議そうに見つめてきた。


「関谷くんを見ていると、僕の同期にすごく似ていてさ、勝手に親近感湧いちゃって。 不快に思わせたらごめんね」


最初の頃よりも、僕は随分と話せるようになった。


「そんなことないです。 親近感だなんて嬉しいです」


優しい返答に少し安心した。

ふと目線を外すと、関谷くんのお弁当に目が留まる。


「お昼は自分で作るの?」

「はい、昨日の残り物ですけど、大したことないですよ。 1人暮らしなので、自分でどうにかするしかないので……」


関谷くんはそう言うが、コンビニで済ませるアラサーの僕よりも上出来すぎる。

大学生だった頃の僕は、お弁当を持参したことは何回あっただろうか……。


「僕なんか毎回コンビニで買っちゃうからすごいよ!」


そこまで食欲がない僕は、コンビニ弁当のほうが手っ取り早かった。


「でも、コンビニって何でも美味しいですし、行ったらつい買っちゃうんですよね。 友達がコンビニでバイトしていて、ちょっと羨ましいなって思いますもん」


僕の話に合わせてくれた関谷くんに、心の中で「ありがとう」と呟く。

咀嚼が落ち着いたタイミングで、会話を切り出した。


「関谷くんは何かバイト、しているの?」


「バイト」という単語が出てきたので、おもむろに聞いてみた。


「家庭教師のバイトです。 主に理数系がメインですけど」


香織も学生時代やっていたことが頭によぎり、リアクションも大きくなっていた。


「そうなんだ! 人に勉強教えるなんてすごいことだよ!」


コミュニケーション力がある関谷くんなら、きっと良い先生なんだろうな……そう思っていた。


「そんなことないですよ。 中学生のときに僕も家庭教師してもらったことがあって。 いつかバイトで家庭教師をやりたいと思っていたんです」


自分が生徒だったときのことをきっかけに、家庭教師のバイトをやるとは。

とても良い先生に恵まれたのだろう。


「僕、中学3年生のときに、進路についてちょっと迷っていたんです。 野球を続けるのにスポーツ推薦で行くか、進学校に実力で行くか悩んでいて」

「そんなことが……」


すると関谷くんは笑顔で、


「でも、そのときの家庭教師の先生に軽い気持ちで話を振ったら、ものすごい熱く語られちゃって」


香織本人が家庭教師の話をしていた当時のことが蘇ってくる。

懐かしむ関谷くんを見て、僕の心も熱くなった。


「最初は先生の勢いに圧倒されちゃいましたけど。 学校の先生には言ってもらえなかったこととか、考え方に納得できて……」

「勉強だけじゃなくて、生徒の進路に寄り添ってくれるなんて良い先生だね!」


関谷くんが話してくれる家庭教師が香織と重なってしまい、泣きそうになる。


「はい、本当に良い先生でした」


静かに答えた関谷くんは、なぜか悲しげに笑っていた。

もしかすると、僕の返し方があまり良くなかったのかもしれない。

しんみりした空気が続かないよう、僕は口を開いた。


「僕もね、学生時代に付き合っていた彼女が家庭教師のバイトやっていてさ! 大変そうだったけれど、一生懸命やっていたのを思い出して」


だが、関谷くんは「そうだったんですね」と、弱めなリアクションにとどまっていた。


「今の関谷くんの話聞いたら、彼女も嬉しいだろうなと思ってさ……」

「……」


関谷くんは僕の目を見たまま、箸を持っていた手を止めて固まっていた。

見かけない関谷くんの様子に違和感を覚え「どうかした?」と尋ねてみる。


「あの、差し支えなければ……野上先生の出身大学はどちらですか?」

「大学? えっと、神奈川にある……」


言うことに抵抗はないが、自慢するほど偏差値の高い大学ではない。

関谷くんに大学名を言うと、今度は目をより大きくし、


「間違っていたらすみません。 下のお名前って誠司さんでしたよね?」

「そ、そうだけど? どうして?」


薬局で初めて会ったとき、フルネームで自己紹介をしたはずだ。

疑問しか出てこない僕をよそに、関谷くんは体を前のめりにしてきた。


「僕、香織先生の教え子です! 聞いたことないですか?」

「あ! えっ?」


かなり大きい声でリアクションをしてしまった。

無意識に出た声に自分でも驚き、とっさに口を手で塞ぐ。

そして、今知った事実を受け止めるうちに、目の前に映る関谷くんを見て泣きそうになる。


「やっぱり、そうだったんですか……」


関谷くんも感動のあまり目を潤ませていた。

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