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今宵、図書館で逢いましょう。  作者: さきみやめぐ
第五夜

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香織エピソード 弱い貴方も 1

 好奇心旺盛で行動力のある香織は、デートの提案をよくしてくれた。

そのお陰で、僕は楽しい思い出が作れて、色んな経験もさせてもらえた。


主に「和服を着てデートがしたい」「冬はスノボ旅行をする」など、提案はすべて香織。

僕は純粋に香織がしたいことを叶えたいし、喜んでほしいの思いで提案を大賛成していた。


そんな香織の提案の1つ「彼氏とライブに行く」という計画は、今の季節と同じくらいの頃……。

僕は大学5年生で、香織は大学を卒業して社会人になった年だった。


蒸し暑さが残る夕方、僕らは日比谷野外音楽堂にやって来た。


「楽しみ過ぎて吐きそう」


この日も独特な表現で話す香織は絶好調に見えた。


「僕も楽しみ。 生で聞くの初めてだからドキドキする」


香織がファンだという、シンガーソングライターのライブを見に来た今日。

僕も小学生の頃から馴染みがあるアーティストさんなので、代表曲は知っている。

元気を貰えるような明るい曲から、感動的な恋愛ソングと幅広い。

僕らが大人になっても、ドラマの主題歌に選ばれたり、エッセイストとしても活躍していたりしている。


「昔と変わらずかわいいよね」

「うん。 というより、化粧が自然で綺麗になった感じがする」


最近発売された曲を聴きながら、ジャケット写真を見ていた。

昔は目元の化粧がバッチリだった記憶だ。

今見ている写真は、ほんのり色がつくアイメイクと、艶感のあるリップぐらいの化粧。

きっと時代による流行もあったのだろう。


「誠司って人の変化によく気がつくよね」

「そうかな? 逆に変じゃない?」


香織が言ったように、周囲の様子や空気、環境の変化には過敏に反応しやすいのは本当。

それでいて、悪い予感は大方当たっている。

一方で、何においても反応する自分に「細かすぎないか?」とマイナスに捉えてしまうことがあった。


「え、どうして? むしろ気がつくのは良いことじゃないの?」


きょとんとした顔で僕を見つめる香織。


「女の人の変化に気づいて『良いね』って褒めてもらえて、悪い気分になる訳無いじゃん。 私だったら言われて嬉しいよ! 『前髪切ったんだ、かわいいじゃん』って」


昔、自分で前髪を切った香織。

眉毛が出るほど短く切ってしまい、本人は失敗したと嘆いていた。

そのときのことを思い出す。


「案外、人の変化に気づかないことあるから。 思ったことは口に出したほうがいいなって最近特に思う。 相手のことを褒めたり、自分の悩みを話したり」


繋いでいた手が一瞬強く握ってきた感覚がした。

真横から見た香織の顔はいつも通り綺麗なのに、ちょっと疲れているようにも見える。


彼女は社会人になって、半年が経ったタイミング。

仕事に慣れてきた反面、別のところで大変なのかもしれないと悟った。


「確かに……悩みを声に出すことで、救われることってあるからね」


こういう香織の言葉で、狭い視野で物事を考えてしまう僕は、新たな価値観を見つめることができる。


「まぁ、そうは言ってもなかなか難しいよね。 社会人になると尚更……」


溜め息をつきながらそう言った香織。


このとき、香織には一から十まで話していないが……僕は当時、病院で実習中だった。

大学ではなく、病院という実地での日々を送っていて、僕も香織と近い感じで、学校と病院では訳が違う。


「実習中の大学生」という肩書きがあるが、本当にただそれだけ。

薬剤師さんが目の前にいて、患者さんもいて……。

何とか実習をこなしているが、僕の中でも社会人の感覚を経験しているような……そんな近況だった。


香織は社会人になり、人間関係から仕事や生活すべてが変わった状況。

僕のちょっとした苦労なんて、比べ物にならないかもしれない。

そう思って、僕自身のことを全部話していなかった。


「あぁ、もう! 重たい話はよそう! そもそも私から話を振ったのか。 ごめん!」


香織は自分から話を終わらせようと、少し大袈裟にそう言ってきた。

さらに続けて「会場入る前に何か飲み物買っておこうよ!」と振ってくる。


切り替えができるのは良いことだが、無理してほしくないなと思う。

今日のライブで、気分転換になったらいいなと願っていると……。


僕の心の声を知らず、香織はいつの間にかジュースとホットスナックに夢中だった。

口いっぱいに頬張る様子を見て、少し笑ってみせる。

まだ座席についてないのに……大きな一口で立ち食いとは豪快なことだ。


「香織、座ってからにしよう!」


手招きして、香織に声を掛ける。

大きい目を見開いて、ちょこちょこと僕のところに向かってきた。


香織との身長差は23センチ。

女性で見ると、香織は平均身長らしいが、僕と並ぶとハッキリとした差になる。

普段はキビキビ動く人だが、たまに見せる小動物みたいなところは本当に可愛らしい。


「日が暮れるね。 そろそろ始まるから席に行こう」


香織が買ってきたものを僕が預かり、チケットを見ながら席へと向かう。


「ここであっている?」


ステージから3列目。

さらにほぼ真ん中。

香織は何度もライブに行ったことがあるらしいが、ここまでステージに近いのは初めてらしい。


「絶対、目が合っちゃうよ!」


そう興奮していた香織だが、右手にはメロンソーダ。

左手に骨付きチキンを持ちながら話すので、僕は笑いが止まらなかった。


「そんなに食べて大丈夫?」

「大丈夫! これからエネルギー使うから、今のうち食べておかないと!」


すると、バンドの演奏者たちがステージに入ってきて、楽器の音が徐々に聴こえ始めてきた。

ドラムやギター、ベース、キーボードなど……普段イヤホンで聞くのとはまるっきり違う音に釘付けだった僕。


そして、僕らサイドの客席から歓声が沸き上がる。

本日の主役がお出ましになった。

溢れんばかりの笑顔で、ファンの人に手を振っている。


ステージの真ん中に立って尚更感じる……距離が途轍もなく近い。

2時間半のライブまで、色々と保てるだろうか。


ライトたちが煌びやかにステージを照らす中、


「始まるね!」


いつの間にか食事を終えていた香織が椅子から立って、目を輝かせていた。


演出の都合で、たまに当たるステージ用のライトが僕ら周辺の席にやってくる。

右横を見ると、香織の姿が美しく映るのだった。


感動したのは当然だけど……。

隣で感極まって涙する香織にも目が離せなかった。

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