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今宵、図書館で逢いましょう。  作者: さきみやめぐ
第五夜

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香織エピソード 私が思うこと 1

 香織と運命的な出会いした大学2年生の夏。

とんとん拍子で仲良くなったことを今でも覚えている。


ちなみに、出会うきっかけとなった本は無事に貸すことができた。

同時に「本を返すのに連絡先、教えてもらうことってできますか?」とさりげなく僕の連絡先を聞いてきてくれた香織。

透き通るような声で言う香織の頼みを断れるはずがなく、即座に連絡先を交換した。


本を返すまでの期間も、何度か図書館で香織と偶然会うことがあった。

自習しに来ているのに……内心は「香織に会えるかもしれない」なんて思っていたのだ。


当時の香織はどう思っていたかは知らないけど……。

僕自身の気持ちは高ぶっていても、いざ目の前にすると緊張で上手く話せない。

そんな自分が情けなかった。


にもかかわらず、香織は僕に気がつくと、必ず声を掛けてきてくれたのだ。

図書館という場所だったので、2人だけにしか聞こえないボリュームで会話をする。

香織と話すたびに、僕は彼女への恋心を募らせていた。


そして、本を僕に返却する日が来た時。


『彼女との接点が無くなってしまうな……』


なんて気を落としていた僕に「次、会う時は図書館以外で会わない?」なんて言われてしまったのだ。

敬語交じりで喋っていた香織が、初めてタメ口で話しかける。

この一言に、僕はまたしても心臓を射抜かれた。


***


 図書館ではなく「別の場所」で初めて香織と会ったあの日。

僕は気持ちが舞い上がって、集合時間の30分前に来てしまった。


僕が到着したとき、香織から「少し遅れる」と連絡が入る。

僕と会う時間の前に、用事があったことは前もって知っていたので、むしろ想定内だった。


この日は地元で人気のイタリアンレストランでのご飯を約束していた。

20時に予約をしていたので「先にお店入って待っているね」と返事をする。

何か彼女を気遣える言葉を探した結果「慌てなくていいから、気をつけて来てね」と文字を打った。


僕って今まで生きていて、こんな風に女の人に対して思いやりを持って接したことあったかな……。

ぼんやり考えながら、お水を飲んだ。


改めて思うが……。

我ながら彼女との出会いは奇跡に感じるのだ。

一目彼女を見たときに「この人と何かある」という直感から、気がつけば「この人のことが好きだ」に変換されて……。

恋愛にはかなり奥手の僕が、彼女の表情や言葉、どれを取っても惹かれていくばかりだった。


でもそれは……「僕の前だけ」とは限らないのだろうか。

快晴だった心が、しだいに雲に浸食していくようだった。


悶々と頭を悩ませていると、離れたところから僕の名前を呼ぶ声が。

このときはまだ「誠司くん」「香織ちゃん」だった気がする。

そう呼ばれていた昔を思い返すと、今の僕にとっては少々恥ずかしいような、懐かしいような……。

そのくらいお互いにまだ初々しさがあった時期だった。


「ごめん! 待たせちゃって」


集合時間の3分後だ。

小走りで息を切らしながら彼女は僕に謝ってきた。


「バイトだったんでしょう? お疲れ様」


眉を寄せ、申し訳なさそうに僕の目の前に座った。

バイトがあったにもかかわらず、時間をこうして作ってくれたことがとても嬉しい。

遅れたことなんて1ミリも気にならなかった。


「そうなの、授業が押しちゃっていて……」

「授業?」

「うん。 家庭教師のバイトをしているの」

「え、そうなの? 人に勉強教えているなんてすごい!」


口下手で人見知りの自分では、考えられないバイトだ。


「そんなことないよ。 私は中学生までの学年しか担当していないし、元々家庭教師してもらっていたから……ずっとお世話になっている先生から声を掛けてもらって、雇ってくれているんだ」

「そうだったんだ。 なんか、あまり元気なさそうだけど大丈夫?」


いつもより声が小さく、言葉が途切れていることも気になった。

やはりバイト後に約束をしないほうが良かったかな……そんな申し訳ない気持ちが増してくる。


「あのね……お腹空いているんだ!」


自分の言葉に笑いながら答える彼女。

まさかの答えに僕も吹いてしまった。


「そっか、バイト終わりだもんね! 食べようか!」


注文を促すと、彼女はメニューとにらめっこをし始めた。

彼女の癖だろうか、単に表情が豊かなのか。

困ったとき、謝るとき、笑いかけそうなとき……眉間にシワを寄せることがやたらと多い。


「そんなに悩む?」


彼女の顔を見るだけで面白かった。


「そりゃ悩むよ! 甘いものも食べたいし、お肉も捨てがたいし、野菜も外せないし……」


図書館以外の場所で会ったことで、彼女の素顔をこうして見られたのが妙に嬉しかった。


ちなみに彼女が僕の本を借りたかった理由は、資格試験の勉強で使いたかったらしい。

その試験には見事合格したが……僕の本はあまり役に立たなかったオチまでこの前聞かされた。


僕が他に知っている彼女についての情報は、経済学部に通う大学2年生で、家も図書館から近いとのこと。

一番聞いていて嬉しかったのは、僕と同い年だったということ。


「私、すごい食べるからな……誠司くんびっくりさせちゃうかも……」


本人曰く、小柄なわりにしっかり食べるらしい。


「全部食べればいいじゃん!」

「え、でも……」


僕の反応を気にしているようだが……また眉間にシワが寄っている。


「野菜もお肉も食べよう! デザートはまた後に頼む?」


客席にあったボタンを押す。

彼女は「え! ちょっと!」と言っているが、店員さんはやって来た。

結局、お肉と野菜のどちらも頼んだ。


「昨日の夜、焼き肉だったのに……2日連続のお肉は罪深いよね」


注文後に謎のカミングアウトをしてきた。

後悔しているのか……さっきよりも声が小さく、猫背になっていた彼女。


「そうだったの? 別にいいんじゃないの? 好きなもの食べて」


僕は気にしないが、女性は気にするものなのだろうか。


「そうだよね! 好きなもの食べてこそ正義だよね!」


僕の一声でコロッと表情を変え、食べてもいないのに急に元気になりだした。


「はははっ!」


変わらずドキドキしているが、彼女を見ていて飽きないし、無意識のうちに僕も笑顔になる。


「でも、さすがに引かない? 女子がお肉でワイワイ騒ぐなんて」


少し眉を寄せ、僕の目を見て問いかけてきた。

今の表情が若干、上目遣いに見えて一瞬狼狽する。


『可愛すぎるんですけど!!』


「え……そんな風には思ったことないよ?」


ニヤニヤした顔を見せないよう、手で隠しながらそう言う。


「本当に? 私の家、毎週日曜日は焼き肉って決まっているくらい肉好き一家なんだよね。 変わってるでしょ?」

「そこ、カレーじゃないんだ」


このときは知らなかったが、後に姉妹だと聞いたとき「え。 で、日曜は焼き肉?」と、2回驚いた僕。

男兄弟ならまだしも、そのルールは強烈に驚いたし面白かった。


「お待たせいたしました。 お先にシーザーサラダでお待ちのお客様」

「はいっ!」


さっきまで少し後悔していたように見えたが、今では「待ってました!」と言っているようだった。

元気よく返事をして、小さく右手を挙げている姿が可愛い。

本人が良いなら、家族が良いなら……。


「いいんじゃない? 好きなんでしょ?」


フォークを彼女に差し出すと、コクッと小さく頷き頬を染めながら、


「うん、好き」


「肉が好き」という意味なのに……なんだか自分に向けて言われたようで……。

「僕も……」と言いかけそうになり、今度は両手で目から口を覆う。

落ち着け……自分。


「いただきます!」


僕のキモい勘違いは悟られず、彼女は嬉しそうに野菜を食べ始めていた。

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