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今宵、図書館で逢いましょう。  作者: さきみやめぐ
第四夜

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38/70

羨ましい気持ち 1

 図書館で大女優との遭遇から、早くも翌週を迎えた。

僕は興味本位から、今晩も図書館を訪ねることに。

果たして三木愛花は再び現れるのだろうか……。


「最近、よく来てくださりますね」


コーヒーを飲む僕に近づいてきたのは香菜子さんだった。


「こんばんは。 コーヒー、いつもご馳走になっています……」


久しぶりに香菜子さんを見た気がした。

間が空いてしまったせいか、挨拶に恥じらいが出てしまう。

人見知りの僕にはよくある現象だ。


軽くお辞儀をした直後、いつもと様子が違う香菜子さんに気がつく。


「赤ちゃん?」


小柄な香菜子さんの両腕には、赤ちゃんが抱かれていた。


「はい。 今はぐっすり眠っています」


そっと覗くと、心地よさそうに眠る赤ちゃんがいた。

香菜子さんは赤ちゃんの寝顔を優しく見守り、ゆりかごのように左右にゆっくりと動かす。

これだけ小さい子をじっくりと見たのは久しぶりだった。


「付き合っていた彼女に姪っ子がいて、よく一緒に遊んでいました。 わぁ……かわいいですね」


香織には花音ちゃんという4歳の姪っ子がいる。

こうして赤ちゃんを見ていると、生後間もない花音ちゃんを抱っこした日のことが浮かんでくる。


「ふふっ。 寝顔は特にかわいいですよね」


今日の香菜子さんは、優しさに満ち溢れた雰囲気が強く伝わってきた。


「あの、香菜子さん。 今日って僕以外来ている人、いますか?」


寝ている赤ちゃんのことを考え、小声で質問してみた。


「そうですね……今日は誠司さん以外お見えになってないと思いますが」


残念ながら誰もいないようだった。


「そうでしたか……実は先週、女優の三木愛花が来ていたんですよ!」


声量は小さいままだったが、少し気分を高揚させて香菜子さんに伝えてみた。


「あ、愛花さん! たまにいらっしゃるんですよね」


香菜子さんも声量に気遣いながら話をする。


「ふらっと寄ったり、撮影期間だと台本を読みに来ていたり……人目を気にしてか、2週連続ってことはないですけど、私も稀にお見かけします」


とすると、先週来ていた愛花さんは今夜来ないことが確実だった。

ちょっと残念だなと思っていると、


「私の予想ですけど……愛花さん、しばらくいらっしゃらないと思います」


香菜子さんはハッキリとした口調で僕に言い放つ。


「え、どうしてですか?」


僕の返答に対し、香菜子さんは慎重に言葉を選ぶように話を続けた。


「週刊誌に愛花さんの記事が載ってから、かなり身動きが取れないと思うんです。 私の予想なので、断言はできませんが……あぁ見えてすごく気にされていると思います」


両手が塞がっていた香菜子さんは、雑誌コーナーに目線を向ける。

香菜子さんに言われて、記事のことを思い出した。


先週の夜、本人にお願いされ、目の前で記事を読み上げた僕。

おまけに僕は何もできず、女優に自らの記事を読ませることになってしまった。


「僕もその記事見ました。 愛花さんと一緒に読んだとき、気丈に見えましたけど……」


三木愛花の「何か」を香菜子さんは見抜いているようだった。


「普段は気丈に振る舞っていますけど、本当はそんなことないんです。 ずっと苦労されている方だから、私としては胸が痛いです」


香菜子さんはそう言いながら片手で椅子を引き、ゆっくりと腰を掛けた。

僕も同じように椅子に座る。


「私から多く語れませんが……子役時代からお仕事されているのはご存じでしょう? それはお金のためだったみたいです。 お父様からの家庭内暴力があって、ご両親は離婚。 それでも生活が苦しかったみたいで、芸能活動を続けるために単身で上京したとか……」


三木愛花という名前は、僕が小学生の頃から知っている名前だ。

僕よりも少し年下。

それなのに、芝居には定評があって、多くの女優の幼少時代を演じ分けた天才子役だった。


成長するにつれて美少女と化して、高校卒業時に出版した写真集は反響が大きく、子役出身から国民的女優として名を轟かせていった彼女。

僕から見て、マイナスなイメージは微塵も無い。

順風満帆な芸能生活を送っていると思いきや、そのイメージを覆す衝撃の過去があったのだった。


「……初めて知りました」

「昔そんな話をしたことがあったんです。 このことはご内密にお願いします」


念を押すよう、香菜子さんは僕に言ってきた。

当然のことだ。

僕の頷きを確認し、香菜子さんは目線をずらして話を続けた。


「考えすぎも良くないですが……ふとした時に思います。 この世の中は、人が人を傷つけることが絶えない残酷なものだなと……」

「香菜子さん?」


香菜子さんは深いため息をつく。


「愛花さんを見ていると尚更のことです。 幼少期はお父様に虐げられて、今はマスコミに追われていて……それに週刊誌だけではありません。 ネットでも有ること無いことを書かれてしまって、誹謗中傷も後を絶ちません」

「週刊誌だけではないって、一体どういう……」


この前の三木愛花は「迷惑な他己分析だ」「マスコミは嫌い」と、怒りと呆れを露わにしていた。

三木愛花を悩ませるものは他にもあるのか。

香菜子さんは赤ちゃんを抱きながらも、片手でスマートフォンを器用に操っていた。


「これです」


見せられたのは三木愛花の横顔を撮った写真。

あまりの綺麗さに目を奪われそうだったが、


「下を見てください」


画面をスクロールすると……。


『今は恋愛している場合じゃないのに。 男できたら変わっちゃいそう』

『国民的女優もやっぱり男に溺れるのかな』

『熱愛報道の相手って一般の人? 俺も彼氏になれるチャンスある?』

『三木愛花って、男ウケ良くて、女からめっちゃ嫌われてそう!』

『正直、他人の熱愛とかどうでもいい!』

『マスコミ、騒ぎすぎじゃない? 放っておけばいいのに』

『よく見るとそんなに美人じゃないよね』

『このまま女優引退でもするんじゃない?』


全部を読もうとすると、見ているこっちまで傷つくほどのコメントが無数にあった。

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