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今宵、図書館で逢いましょう。  作者: さきみやめぐ
第四夜

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お忍び 2

僕とは反して、彼女は一点を見つめたままゆっくりコーヒーを飲んでいる。

こちらの様子などお構いなし。


それにしても、顔が小さくて目が大きい。

サングラスをかけていたせいか、素顔が露わになって余計に感じる。

陶器のように、美しい肌。

鼻筋も通っている。

よく分からないけれど、全身から神々しいオーラまで感じる。

流石、芸能人だ。


「何か、気になることでも?」


三木愛花から不意打ちで呼び掛けられ、心臓が飛び出しそうだった。


「すみません! 何でもないです! 失礼しました!」


自分の行動に再び反省し、週刊誌を棚に戻そうと椅子を引きかけたその時。


「……何って書いてありますか? その週刊誌」


大女優から再び話しかけられた。


「しゅっ……週刊誌ですか?」


問いかけに動揺してしまって声が裏返る。


「できれば記事、読み上げていただきたいんですけど」

「あ、はい! 分かりました! えっと……読みます!」


週刊誌を最初から読み上げようとした。

女優も今の時事情報を知りたいのだなと親近感が湧く。


「15日、米中両政府は来週開催される国連総会に合わせ……」

「あ、ごめんなさい。 それじゃなくて」


やっと僕のほうに視線を向けてくれた。

言葉は丁寧なのに、感情はさほどこもっていない。

大女優からの依頼に必死すぎて、僕はそれどころじゃなかった。


「あ、すみません……ってどれを読めば?」


開いた最初のページは政治に関する記事だった。

読み上げたものは、残念ながらお望みのものではなかったようで……。


「私の記事です。 さっき開いていたやつ」


自分のスキャンダル記事だった。


「え、その記事でいいんですか?」


逆に内容を聞いて傷つかないかと思い、念を押すように聞き返す。


「そんな記事ぐらいでメンタル折れませんから」


昔、香織と『三木愛花』の話をしたとき『彼女はサバサバしていて、男勝りだ』と言っていたが、本当なんだなと思った。

奇妙なほどお美しいのに、中身は男顔負けかもしれない。

男の僕なんかよりも……。


「わ、分かりました」


言われた記事は、思いの外すぐに見つけることができた。

絶大な人気女優のタレコミとあってか、表紙から数ページ捲ったところにあった。


「……都内某所の高級マンションの一室に招かれた客。 彼は国民的女優、三木愛花の幼馴染であり、彼女にとって意中の人Aさんである」

「……」


コーヒーを飲みながら無言で聞いている女優。

緊張しながらも、僕は読み進める。


「Aさんと三木を知る共通の友人はこう言っている。 『三木は竹を割ったような性格だが、人一倍気疲れをしてしまう。 Aさんとは旧知の仲で、穏やかで包容力のあるAさんに三木は心を許している様子が見られます』と」

「迷惑な他己分析なこと」


溜め息交じりに記事を揶揄した三木愛花。


「三木がイメージキャラクターを務める商品の広報担当だったAさん。 打ち合わせのときに再会を果たしたとのことだ」

「……」


また無言になってしまった三木愛花。

僕が今読んだ一文はひょっとして事実なのか。


「Aさんが三木のマンションに入ってから約1時間後。 Aさんは再び姿を現した。 入ったときよりも足取りが重そうにも見えたAさん。 後ろを振り返り、マンションをじっと見つめる素振りもあった。 2人の間に一体何かあったのだろうか」


三木愛花の様子を見ようと、視線を雑誌から反らすと……。

目線を下げて、さっきよりも悲しそうな表情。

何か言いたげそうだった。


読み間違いがないよう、指で文章を追って、ページの境目までいったと思ったが……どの方向に文章が行っているのか分からなくなってしまった。

27歳とそれなりに大人の野上誠司は、現在も音読が苦手だと再認識する。


「……」


下の段なのか、隣のページなのか。

あたふたと迷っていると、


「あれ?」


三木愛花が僕の異変に気づく。

声のトーンはそこまで冷たくなかったが、


「す、すみません。 僕、活字恐怖症で音読とか、本読むのが苦手で」


緊張感が増していく。

彼女は席から立ち、僕のところに近づいてきた。


「そうだったの。 苦手なことを無理強いさせてしまったのね。 ごめんなさい、本当に」


冷たくあしらわれるかと思いきや、とても丁寧に謝罪されたのだ。


「あ、いや、そんな! むしろ僕のほうこそすみません」


謝るべきなのは僕のほうだ。

まともに本も読めなくて、大女優を不快にさせて、貴重なプライベートを取り乱している。

頭を深く下げると、三木愛花は優しく笑っていた。


「優しいのね。 あの人に似て……」

「え?」

「貸してください。 私が読み上げますから」

「あっ!」


週刊誌を持って、すぐさま僕が読んだところまで目で追い、


「この日、三木は久々の休日。 Aさんは手土産にワインらしきものを持っていた。 三木の好みを知っていて持ってきたのだろうか。 彼女も上機嫌だったに違いない」


まるで、台本の読み合わせをしているかのようで、スラスラと読み上げる彼女の姿に見入ってしまった。


「人様のプライベートを勝手に干渉してきて……いい加減にしてほしいわ。 これだからマスコミは嫌いなのよ」


綺麗な声から一転し、再び凍り付くような顔で感想を言っていた。

雑誌から離れ、僕の方に顔を向けて、


「ごめんなさいね。 巻き込んでしまって」


ちょっと前まで怒っていた様子だったのに……。

別人のような三木愛花に驚いていた。


「いえ、そんな! とんでもないです!」


国民的女優に2回も謝ってもらっている状況に、ものすごい申し訳なく感じた。

僕の言動に優しく微笑む。


「もしお帰りになるならお気をつけて。 私はもう少しここにいるので」


と軽く頭を下げて、元々いた席に戻っていく。

何とも言えないほど清々しく、さっぱりとした三木愛花に頭が上がらなかった。


でも、雑誌を見つめたまま。

やはり悲しそうな顔を覗かせていた。

撮られた写真を撫でているようにも見えて……。


僕が手にしていたコーヒーは、すでに飲み切っていた。

多分、三木愛花は1人にさせてあげたほうがいいのかもしれない。

僕は席を立ち、彼女に向かって頭を下げて静かに図書館を後にした。

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