予想だにしていなかった展開に慌てます。
「やぁ、ミシェル。先に待っていてくれたんだね」
「セドリック様をお待たせする訳には行きませんので」
本音では出来れば今すぐ逃げ出したい気分ですけれども。
否が応でも時計の針は進み、とうとう迎えた放課後。
私は丁度一週間前セドリック様に言われた通り、あの教室でお二人を待ち構えていた。
セドリック様は攻略対象である以前にこの国の王子様、そんな方の相手をするのにはどうしても一挙手一投足に気を使わなくてはならない。
正直肩が凝って仕方がないのよね。
どうにかしてお二人と関わらずに王国を救う手立ては無いものかしら、と散々思考を巡らせてみたものの、結局その答えは見つからなかった。
あぁ、嫌だ。
お父様の出世したくないと言う気持ちが今になって良く分かったわ。
こんな面倒臭い思いを望んでしたがる人間の気が知れない。
きっと我が家は生粋の権力アレルギーなんだわ!
「そういえば、先日は芸術祭の選択課題を決めたよね。君は何を選んだんだい? 私の方が何回か経験を積んでいる分アドバイス位はしてあげられると思うけれど」
「え、えぇ……ダンス、ですわ」
確か、セドリック様の選択は演奏発表……だったかしら。
大抵のことは何でも熟してしまうセドリック様。
それは当然楽器の演奏にも適用される。
リュート等の弦楽器に留まらず、管楽器、果てはオルガンまでも弾きこなす。
そこまでできれば一層1人オーケストラも夢じゃないのではないかしら。
余談だけど、セドリック様の演奏がプロ級である事はこれまでの芸術祭でも周知の事実になっているから、基本的に彼は練習期間他の選択者の指導に回るのよ。
お陰で例年演奏発表の人気は凄まじいもので、しかもそのほとんどはセドリック様と少しでもお近づきになりたい下心を有した御令嬢なのだ。
まぁ、ゲームだとヒロインはそんな事全くつゆ知らずその選択をしてしまう訳で。
ゲーム内の設定だと彼女の実家は貧乏だから、普段ならば触れる事が出来ない楽器に触れてみたい一心で演奏発表を選ぶの。
勿論触った事もない楽器がいきなり弾ける訳もないから他の誰よりも演奏が下手で、必然的にセドリック様が付きっ切りで演奏の仕方を教える様な形になってしまうのよね。
そうして多くの時間を共有する事で、真剣に練習に取り組むヒロインを見守るセドリックとヒロインの仲はどんどん深まっていくのだけど。
「へぇ、じゃあ私と一緒だね」
「「え⁉︎」」
あら? 今私の驚きの声とマルクス様の声が被った気がしたのだけど……
でも聞き間違いかしらね。
だってマルクス様がセドリック様の選択をご存知ない筈が無いもの。
そんな事はさて置き、セドリック様がダンス?
どうして、演奏発表を選択していらっしゃらないの⁉︎
「あれ、どうしたんだい? 私がダンスを選択した事がそんなに意外だったかな? 」
「あ……あの、失礼ながらセドリック様は演奏発表をご選択では……?」
「あれ、何でそう思ったんだい? 私だってダンスを踊りたいと思う時だってあるさ」
「え、ええと……その」
またこのパターン⁉︎
ゲームで見たから演奏発表を選ぶと思いました、何て言える訳ないじゃない。
でも、本当にどうしてなの?
ローランド様も、ユリオット様も、イリア様も、フィリクス様は……まだ確認していないけれど、皆んなゲームと同じ選択をしていたと言うのに、セドリック様だけ……いえ、多分セドリック様がダンスならマルクス様もそうなのでしょうね。
兎に角、何故お2人はゲームと違う選択を⁉︎
これまではずっと演奏発表を選択されていたのに今年に限ってダンスを選択された……?
いいえ、それとも今までも演奏発表ではなくダンスを選択されていたの?
どうしましょう、分からないわ。
きっと他の方と一緒でゲームで見た情報と同じなのだろうと高を括っていたから、セドリック様が去年まで演奏発表を選択していたのか、それともダンスやそれ以外の選択をしていたのかすらわからない。
失敗した。
こんなことならば最低限の情報収集位はしておくべきだったわ。
「あの……セドリック様は楽器がお上手だと噂で伺った事が……あったような気がした様な。ああ、でも勘違いだったのかもしれません。変な事を口走ってしまい申し訳ありません」
「いや、多分勘違いじゃないよ。私は去年まではずっと演奏発表を選択してきたし、楽器はどちらかといえば得意な方だと自負しているからね」
ふぅ、何とか上手く切り抜けられたわ。
でも、やはり去年まではゲームと同じく演奏発表を選択なさっていたのね。
それなら余計に何故今年に限ってダンスを?
単なる気まぐれでゲームと違う選択になってしまうものなの?
「っくく……すまない。少し意地悪だったかな、でも君の反応が面白くて。本当は私は今年も演奏発表を選択していたんだ。けれど、偶然にも君がダンスを選んだと耳にしてね。だから、先生にお願いをしてダンスの選択を追加して貰ったんだ。それにしても、君は私に全く興味が無いのだとばかり思っていたけれど、少しは意識してくれたのかな? そのお陰で私が演奏発表を選択したと知っていた。そうだろう?」
「な、そんな、私がダンスを選択したからセドリック様もダンスを追加選択なさったと仰るのですか? 何で、そんな事……」
「言っただろう? 私は君に興味があるんだ。君が頼むから友人だという事は公にしないでいる。けれど、それじゃあ交流出来る機会が極めて限られてしまうじゃないか。だったら、こちらから無理にでも関われる可能性を増やしていかないと。あ、約束通り君と私が友人だという事は内密にしておくよ。でも、練習や発表に関して不可抗力で関わることになってしまっても、友人だとバレない限りは君との約束を破った事にはならないよね? まぁ、それにやっぱりこういうイベントは友人と一緒に参加出来た方が楽しいだろう?」
やられた!
まさかセドリック様がそこまで私に関心を抱いている何て完全に想定外だったわ。
私の事なんてちょっと珍しい物を見つけたから気まぐれに構っている程度の興味だと思っていたのに、わざわざ学内の行事で追いかけて来るまでに気に入っていたなんて……
それに、もしかして先程の反応を見るにマルクス様はその事を聞かされていなかった?
と言うことはこれはセドリック様の独断なのかしら。
確かに、マルクス様が知ったらこんな事を許す筈がないもの。
だとしても絶対にマルクス様はセドリック様についていらっしゃるだろうし、既にセドリック様がマルクス様の分まで先生に話を通しているかもしれない。
そう思うと、何だかマルクス様の私に向ける視線が鋭くなった気が……
えええ、私は悪くないでしょう……どちらかと言えば私は被害者の方だと思うのですが。
これで、マルクス様からの好感度がまた下がってしまっていたらセドリック様、恨みますからね……
でもどうしましょう、これでは今後ゲームと展開がガラッと変わってしまう可能性もあるじゃない。
ただでさえ、これからは一番のイベントラッシュを迎える時。
そんな中、私の唯一のアドバンテージはゲームの知識だけだと言うのに、ゲームからかけ離れてしまってはそれも効力を失われてしまうかも知れない。
展開が読めない不安に襲われる。
一体これから私はどうなってしまうの……?




