私はただ貴方とダンスを踊りたいだけなのです。
「芸術祭、ミシェルは何を選ぶんだ?」
勿論貴方と同じ物を!
午後には芸術祭の個人選択決定の時間を控えたランチタイム。
1人クラブハウスサンドを頬張っていた私の元に現れたのはローランド様だった。
ちなみに1人でランチタイムをしているのは、別に友達がいないからって訳じゃないのよ?
キチンと今までのガーデンパーティとかで作った交友関係もあるし、きっかけが有ればお話出来る知り合いのご令嬢もいますから。
今日はちょっと1人だけど、本当にお友達がいないんじゃないんだから……
ほら、1人の方が色々融通が利くし、それに急な展開にも対応出来るじゃない?
だから、あの子少し変わってらっしゃるわよね、なんて陰口を叩かれたりなんかしてないのよ、ええ……
「ミシェル?」
「え? あ、はい。芸術祭、ですわよね。私まだ決めかねておりますの。ローランド様はもうお決まりですか?」
ローランド様はダンスを選択されるだろうと高を括っていたものの、実際現実でもゲームと同じ選択をなされるか少し不安だった私は、このチャンスを逃すまいと必死だった。
正直私自身ダンスは余り得意ではないと言うのに、ローランド様まで他の発表を選択をなさったら踏んだり蹴ったりも良いところだものね。
「俺はユリオットと一緒にダンスを選択するつもりだよ。そうだ、ミシェルも良かったらダンスを選ばないか?」
「え……?わ、私を誘って下さるんですか?」
「勿論だよ。きっとミシェルと一緒ならきっと練習も楽しくなるだろうね。俺だけだったら不安かもしれないけれど、ユリオットもいるし、どうかな?嫌なら無理にとは言わないけれど」
これは何てご褒美ですか?
ローランド様の御意志を確認してから、シレッと私もそれにしようかしら〜なんて便乗するつもりが、まさかローランド様自らお誘い下さるなんてっ……
嫌な訳ありません!
絶対、絶対ローランド様と一緒にダンスを選びますわ!
「とても嬉しいです。喜んでご一緒させて頂きますわ!」
「そっか、良かった。実は断られたら悲しいなって思ってたから」
「そんな、私には勿体無いくらいのお誘いですのに、お断りするなんてご無礼な事出来る訳が御座いませんわ」
はにかみ屋さんですか⁉︎
笑顔が素敵すぎます、ローランド様。
私と一緒にダンスが出来るのが嬉しいんですか?
いいえ、調子に乗りました。
私がローランド様とダンスが出来て嬉しいんです!
ありがとう、芸術祭。
感涙が溢れてしまいそうだわ。
「またそんな謙遜して、俺にそんな気を使わなくていいのに」
「そんな……気を使っている訳じゃ無いんですけれど、でも嬉しいのは本当の気持ちです」
「ミシェル……あの、良かったら俺と……って、ん?あれ? おい、ユリオット!」
ああ、折角2人の空間だったのに……
何かを言いかけたローランド様はその途中でどうやらユリオット様の姿を見つけてしまったらしく、声を張り上げた。
ローランド様の視線の先を追えば、何やら鬼気迫る表情でこちらに近づいていらっしゃるユリオット様。
そのただならぬ雰囲気に私は首を傾げる。
一体如何されたのかしら?
「ユリオット、ミシェルもダンスを選択してくれるみたいだ」
「ローランド、それは僥倖だ!ミシェル嬢久しぶり、いきなりで申し訳ないが付き合ってくれ!」
「え?えぇ、ちょっと待って下さっ……ひゃっ!」
数メートルの距離を1分足らずで詰めていらっしゃったユリオット様は、ローランド様の言葉にニヤッと笑みを浮かべると、私の腕を掴んで立ち上がらせた。
そして、クルリと身を翻す。
突然の展開に蹌踉つつも何とか体勢を取り直して、そこで漸く私も状況の異常さに気がつく。
なんと、ユリオット様の背後には数人のご令嬢がゾロゾロと列を為していたのだ。
と言うか、これって……
「皆さん、悪いが僕はこちらのミシェル嬢と練習をする事になったので、貴方達の練習相手にはなれそうにも無い。どうか他の相手を当たってくれるかな?」
ああ、やっぱりイベントじゃない!
でもコレって発表題目決定後に起こるんじゃなかったの?
あわよくば、イベントが起こる前にローランド様に練習のお相手を申し込んで仕舞おうかと思っていたのに、これじゃ全部台無しよ。
別に練習相手にならなくてもある程度のイベントは発生するからいいかなって安心していたのに、してやられたわ。
戸惑いの中キッと鋭い視線の数々に晒されて私は身を竦ませた。
皆さんユリオット様とダンスの練習がしたかったんでしょうね。
そうでしょうよ……私だってしたかったわローランド様と!
「ええと、皆様申し訳御座いません。私どうしても発表が不安でして、ユリオット様はダンスがお上手と伺ったものですから、ご迷惑を承知でついお願いしてしまったんですの。皆様きっと本番ではユリオット様と踊る機会も御座いますでしょう? その時は私は遠慮させて頂きますので、どうか今回だけはお許し頂けませんでしょうか?」
憤るご令嬢方に向かって私は静々と頭を垂れた。
もうここまで来たらイベントに乗っかるしかないわよね。
抵抗してユリオット様の好感度を下げてしまうのも恐ろしいし、ローランド様が見ているのにみっともない真似は出来ないもの。
それに、こんな状況でユリオット様を見捨ててしまうのは不憫だものね。
「そ、そう言う事情でしたら仕方がありませんわね。先にお願いしていた方を優先するのは当然ですもの。ファランドールさんの練習が上手くいくことを願っておりますわ。それでは、ユリオット様本番を楽しみにしております。失礼致しました、御機嫌よう」
鋭い視線はそのままに、口調だけは何とか納得した様子を取り繕って先頭のご令嬢が立ち去ると、他のご令嬢もバラバラにその場を後にしていった。
これでまたご令嬢方の反感を買ってしまったことだけは確かね、やれやれ。
「ミシェル嬢、助かった。咄嗟に口裏を合わせてくれる機転、流石だったよ」
「いいえ、ユリオット様のお役に少しでも立てたなら幸いですわ」
「少しだなんてとんでもない、本当にありがとう。それで……」
ゴモゴモと言いづらそうにしているユリオット様が言いたい事は聞かずとも分かる。
まさか他でもないローランド様の目の前でこんな約束をする羽目になってしまうなんて、本当に災難だわ。
でも、それも致し方ない事よね。
「言われずとも分かっております。先程の方々の手前今更他の方を練習相手に選ぶ訳にはいきませんわよね。これも乗りかかった船ですわ。力不足で申し訳ありませんが、できる限りユリオット様の練習相手を務めさせて頂くつもりです」
「ああ、本当にありがとう。咄嗟に頼んだのがミシェル嬢で本当に良かった」
まぁ、正直な話ユリオット様があの中から1人をお選びになられれば良かった話だと思うのですが、言うだけ野暮な話ですよね。
実際ゲームでもヒロインが他の選択をした場合は適当な練習相手が充てがわれていた訳ですし。
「あー、ユリオットに先を越されちゃったな。俺もミシェルに練習相手を頼もうと思ってたのに」
「えっ⁉︎」
何ですって⁉︎
社交辞令とかではなく、本気ですかローランド様。
何て、何て勿体無いことを私は……
もしかすれば、ローランド様とのダンス練習のめくるめく素晴らしい日々があり得たかもしれなかったのに……
「そ、それは悪かった。僕はやっぱり今からでも他の相手を探すよ」
「いえ、ローランド様のお気持ちは嬉しいです……本当に、本当に心から嬉しいですし、お受けしたかったですが。それでも先程のご令嬢方にこれ以上不義理な真似は出来ませんわ。ただでさえ最初の話が嘘だったのですから。せめて他の言葉位はキチンと守らなくては余りにも失礼です。それに、私ユリオット様と練習が出来て嬉しいですわ、だからよろしくお願いいたします」
「そうだよ、ユリオット。俺は他の練習相手を探すさ、それにミシェルが暇な時は俺の相手もしてくれるよね?」
「勿論っ!喜んでお相手致します!」
女に二言はありません。
ユリオット様の練習相手はキチンと務めて、出来れば……社交辞令かもしれないですけれども、いつか私と練習をして下さいますか、ローランド様。
そして、あわよくば本番でも……
「やった、楽しみにしてるよミシェル。さて、そろそろランチタイムも終わりかな。教室に戻ろうか」
「そうですわね」
そうして私達はその場を後にしたのだった。
教室へ向かう道中私は1人小さく笑みを浮かべる。
いずれ訪れるだろう、ローランド様との夢の様なひと時を思い浮かべて。




