あの時の真実を話して頂きます。
「3日後からは個人選択の課題練習が開始致します。それまでにご自分の練習内容について良く考えて、練習開始時に速やかに取り掛かれる様心がけて下さい」
「はい」
正直課題だらけなのですが、先生。
何から取り組めばいいんでしょう。
「あれ、ミシェルどうしたんだ。帰らないのか?」
「ええ、少々……あのローランド様、イリア様はどちらに?」
先生は去り、生徒達が各々帰路に着いたり、友人達と集まって談笑していたりと思い思いに過ごす放課後。
当の私は帰り支度を整えてイリア様の席に向かった。
けれど、既にそこにはイリア様の姿はなく、お隣の席であるローランド様に尋ねてみた。
「さぁ……先生が教室を出た後、すぐに姿が見えなくなった気がするけど。え?ミシェルもうイリア君と仲良くなったのか?」
「そんな、仲良くという訳では無いのですが……先日少しお話しする機会がございまして、その時にハンカチを貸して頂いたので、洗濯した物を今日返そうと思っていましたの」
「そうか……結局、こうなるんだな」
「え?何か仰いました?」
「いや、それより今更だけどミシェルごめんね」
何か思案する様な表情を作られた後、ローランド様は突然謝罪の言葉を口にした。
一体何に対する謝罪なのか検討がつかない私はキョトン顔。
だって本当に謝られる様なことをされた記憶なんてないんだもの、それに比べて逆なら幾らでも思いつくのに。
「実は、その……前ミシェルに頼まれた事なんだけど。イリア君に伝えて欲しいって言われていたやつ」
「え、ええ。その節はお世話になりました。不躾なお願いにも関わらず快諾して頂けて本当に助かりましたわ。しかし、謝られる様な事なんて……」
「いや、俺はそのお願いを完璧に熟せなかったんだ。ミシェルの名前をイリア君に伝えられなかったんだよ」
「あら、その事ですか。確かに先日イリア様とお話しした時にもそう伺いましたが、ローランド様はキチンと私の気持ちをお伝えして下さってますし、うっかり名前を伝え忘れてしまっても、気にされる事なんて何も御座いませんわ」
勿論伝えてくれるに越した事は無かったけれど、最終的には上手くいった訳ですし。
と言うか、完璧に無駄足だったと言いますか……ただの私の勇み足なので本当にローランド様が気にされる事はないのです。
それなのにそんな事を今までずっと気にしていたのか、わざわざ謝罪して下さるなんて、ローランド様良い人過ぎないですか?
「違うんだよ」
「え、違う?」
「うん、うっかり忘れたとかじゃなくて……その、わざとなんだ」
「そんな……どうして……」
ローランド様がわざとそんな事をする様な方だとは到底思えなくて、驚きが隠せない。
けれど、そんな嘘を今ここで吐く理由も思い当たらないし、本当にどうしてそんな事を?
「俺も最初は自分の気持ちが自分で分からなかったんだけど、良く考えてみたら……俺、ちょっとやきもちを妬いていたみたいだ」
「へ?」
やきもち? やきもちって……あの、やきもちですか?
私が知っているやきもちで間違いないでしょうか?
え、誰が? ローランド様が?
誰に? 私?
も、もしかして……イリア様に……?
「多分俺は、せっかくミシェルと仲良くなれたのに、その矢先にイリア君に取られてしまうかもと思って……だからあの時、どうしてもミシェルの名前を口に出来なかった。なんか言葉に出してしまうと本当女々しいな、俺。とにかく、本当にごめん。ミシェルの優しい気持ちを無視する様な卑怯な真似をしてしまった」
「そっ……そんな、そんな事って……」
どうしましょう……嬉しい、嬉しいですローランド様。
だってそれって一種の独占欲じゃないですか?
私、少しはローランド様に好かれてると自惚れてしまっても良いですか?
あぁ、喜びで今にも心が、気持ちが、溢れてしまいそう。
「っ⁉︎ ごめん! 気持ち悪い事を言ってしまって本当にすまない。嫌ならもうミシェルに話しかけたり、近づいたりしないから、だから泣かないでくれっ……」
「え、私……泣いて……? ちがっ、違いますの! ローランド様のせいで泣いている訳ではなくて……いえ、厳密に言えばローランド様の所為なんですけども……」
「やっぱり……ごめん」
「そうではなくて! 私、怒ったり、悲しんでいる訳ではないのです。むしろ嬉しいんです。ローランド様がそんな風に思って下さった事がどうしようもなく嬉しくて、だからお願いですから離れていかないで下さい。ローランド様とお話し出来なくなってしまったら私、本当に悲しくてそれこそ泣いてしまいます。そんなの辛すぎますもの」
本当に。
ローランド様ともう話せなくなってしまったらと考えるだけで絶望感に襲われる。
頰を伝っていた涙を拭うと、私はニコリと笑顔を作りローランド様に見せた。
今の言葉が本心で、嘘ではないと分かってもらう為に。
「ミシェルは優しい過ぎるよ……もっと、怒ったり、嫌がられると思ってたのに。そんな優しさが甘過ぎて、俺は……」
「ローランド様、私は優しくなんてないですわ。きっと貴方が思うよりずっと自分勝手な人間です。それに、わざわざそんな事を面と向かって謝罪してくれるローランド様の方がずっとずっと優しくて、誠実です。ありがとうございます」
大好きです。
そう続けたくて、唇を噛んだ。
まだ伝えられない。
せめてちゃんと王国を救ってからじゃないと、この言葉を口にする資格が私にはないから。
でも心の中だけは許して下さい。
大好きです、ローランド様。
「ミシェルにかかれば、どんな悪人でも良い人に変わってしまいそうだ」
「買い被りですわ」
私達はお互いの顔を見合わせて笑いあった。
「さ、イリア君を探しに行くんだろ? 早く行かないと彼、帰ってしまうかも。俺も出来れば手伝ってあげたかったんだけど、今日はフィル兄の所に行かなくちゃ」
「私の用事ですからお気になさらず。それでは失礼致します」
気がつけば室内に残っていたのは私達だけで。
でも、逆に良かった。
泣いているところをローランド様以外の人間に見られるのは恥ずかしかったし、まかり間違ってもローランド様が私を流していただなんて勘違いされてしまったら申し訳がないもの。
「あ、そうだ。ミシェル5日後の放課後は空いてる?」
「5日後、ですか? 多分何も予定はなかったかと」
「じゃあ、この前の約束。フィル兄の家に稽古を観に来ないか? 師匠には俺から許可を取っておくからさ。ご令嬢には退屈かもって思ってたけど、体術の心得があるミシェルなら少しは楽しめるかもだし」
「勿論喜んで、楽しみですわ! ありがとうございます」
「俺も楽しみにしてるよ、じゃあ今度こそまた明日」
「ええ、また明日」
そして私達はお互い教室を後にした。
道中、私は軽やかな足取りで進む。
絶対に王国を無事救済してみせますからね。
その気持ちを再度強く心に刻む。
そうしてわ、いつかローランド様に私の気持ちをお伝えしたい。
その為にも、まずはイリア様!
一体何処に居るんですか?




