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まだ幕は降ろされない

 そして井島一己という男は、常に爆心地にいるような奴なのである。


 俺は、すっかり油断していた。

 いつも遅刻ぎりぎりまで寝ている片割れが、俺が起きたときには既に家を出ていた時点で、おかしいと思わなければならなかったのだ。


 


「あ、奥野。おはよう。足は大丈夫?」

「井島君! うん、ちょっとひねっただけだから。あの……井島君こそ、大丈夫だった?」

「警察の取り調べが大変だった」

「わあ……お疲れさま……」

「あ。自腹ならカツ丼頼めるって聞いたことあったけど、駄目だった。なんでだろう」

「ふふっ。そうなんだ。井島君らしいね」

「それより、奥野。二巳がごめん」

「えっ! ……な、なにが?」

「俺に遠慮して逃げ回ってたみたいだから、怒っておいた」

「ええ!?」

「あ、遠慮って言うのは、俺が奥野を好きだからってことなんだけど」

「えええ!?」

「とりあえず返事はいらないんですが、よろしくご検討ください」

「え、ええっ……えええええ!?」


 


 ――後半、「え」しか言ってない。


 奥野とのやりとりを一己からの伝聞で教えられた俺は、怒っていいのやら脱力していいのやらで、とりあえず頭を抱える羽目になった。


 やばい。奥野と顔あわせたくねえ。逃げたい。


 せめても人のいない場面を選んだことを褒めるべきなのか。もし真弓やネヴィヤが聞いてみろ、大騒ぎになるのは間違いない。


「……なんっで昨日の話の後で、そんな真似に出るんだお前は……!」


 むしろ、やれるならなぜもっと早く動かなかったのかと問いつめたい。

 今までのもだもだした片思いは一体何だったんだ。できるならさっさとやっておけば、俺がこんなに悩む必要もなかっただろうに。

 ……いや、どっちでも同じかもしれないが。


 俺の心からの慟哭めいたうめきに、一己はしれっと胸を張った。


「とりあえず、同じ土俵に立とうと思って頑張った」

「……つーかお前、さっきのそのまんま言ったわけじゃねえだろ。絶対省略しすぎだろ! 何言ったんだよ!」

「それは……うん、企業秘密」

「照れてんじゃねえよ! ムカつくわその顔! ……くそっ、この、主人公野郎が!」


 きょとんと目を瞬く片割れに、その自覚は、いまだもって存在していなかった。


 


 


 


 かくして本日も、俺は脇役でいられない。

 無理矢理引き込まれた舞台の上。くそったれな片割れが、どうにもそれを許してくれそうにない。


「お前なんぞ、いっそ異世界に召喚されちまえ……!」

「異世界は困るなー。どうやって戻ってこよう」


 ――それがフラグにならないことを、今は心から願うばかりだ。

 


お付き合いありがとうございました。


 

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