File.1:冒険者連続密室失踪事件(9)
「あ! どちらの日も、コールさんとマリアンさんも宿泊してますね」
その発言に、場が一瞬凍りついた。そしてコールとマリアンはお互いに睨み合う。
「マリアン、お前まさか……!」
「あんたこそ……あいつのこと恨んでたわよね!」
そこに、パルマーまで加わった。今まで最も怪しまれていたからこそ、反撃のチャンスとばかりに意気揚々に責め立てる。
「まさか二人が犯人だったんですか!? なんでよりによってうちの宿でそんなこと!」
お互いがお互いを容疑者として疑っていた。そしてそれは、エルメスも同様だった。
コールとマリアンはそれぞれ失踪者に対して恨みがあった。さらに現場となった宿の主人であり結界を自由にできるパルマーには、冒険者の遺留品が手に入るという実益がある。全員に動機があり、全員が容疑者たり得ると思えた。
言い争う三人を尻目に、アレスがエルメスにそっと耳打ちした。
「エルメス。ノーマンも含めて、あいつら全員のスキル内容を教えてくれ」
エルメスは先程《冷視》で確認したそれぞれのスキルを説明した。
◯コールのスキル
スキル名:瞬間移動
効果:目に見えている場所に、一瞬にして移動することができる
制約:障害物は貫通できず、移動直後は平衡感覚を失う
◯マリアンのスキル
スキル名:亜空間
効果:亜空間へつながるゲートを作り出し、その中に物を所蔵できる
制約:物理的な実体があるものしか所蔵できず、発生させた場所の周囲にあるモノを無差別に取り込む
◯ノーマンのスキル
スキル名:接食
効果:対象に5秒間直接触れ続けることで、その対象を即座に体内の消化空間に取り込み、徐々にエネルギーとして吸収することができる
制約:吸収して数分後に消化吸収が始まり、24時間は初期消化のために活動力が著しく低下する。完全吸収にかかる時間は対象による
「ふむ、なるほどな……」
エルメスの説明を聞いて、アレスは腕組みして考え込んでいる。
アレスに話しながら、エルメスも整理を進めていた。
まずはコールについて。Dランクの冒険者で、ギルドの記録によると、スキルと短剣を組み合わせた高速でトリッキーな戦いを得意とするらしい。
続いてマリアン。Bランクの冒険者。モノを吸い込み亜空間に送り込む、魔法のようなスキルを持つ実力者だ。彼女のスキルなら、Aランクの冒険者相手でも隙をつけば亜空間に送り込むことで行方不明にさせることができるかもしれない。
最後にノーマン。この中で最低のFランク冒険者で、ギルドの記録でも彼の実績はないに等しい。しかもかなり病弱で、おそらくこの中でもっとも弱い。
「うーん……」
整理して考えてはみたが、考えれば考えるほどわからなくなってきた。
エルメスは所在なくペラペラと宿の帳簿をめくっていたのだが、ふとある部分が気になった。特に何かアイデアがあるわけではないが、行き詰まった中での雑談くらいの気持ちだ。
「あの、パルマーさん」
言い争うパルマーに、エルメスは帳簿を示しながら声をかける。パルマーは意表を突かれたように裏返った声で返事をして、エルメスの方を向いた。
「へ? あ、えーっと、なんでしょう?」
「この印なんですけど」
エルメスが示したのは、ノーマンの宿泊履歴のところだ。言っていた通り連日宿泊しているようだが、日によって丸印がついていたりいなかったりしている。
「これってなんですか?」
「ああ、それはノーマンの稼働日です。荷物持ちや食堂で手伝いをしてもらってるんですが、毎日とはいかないので稼働日だけチェックして手当を渡してるんです。彼は病弱ですから、その印の通りまちまちですけどね」
「なるほど」
確かに、印はバラけていた。二、三日連続でついているところもあれば、一日おきのところもある。直近で言えばランドロスが失踪した日の夜まで三日連続で印がつき、その翌日は無印。そして今日には再び印がついていた。
「ん? ちょっと見せてくれ」
横からアレスが手を伸ばしたので、エルメスは帳簿をアレスに手渡した。
アレスはペラペラとページをめくったあと、ニッと口角を上げる。
「……なるほどな」
パンッ、とアレスは音を立てて帳簿を閉じ、立ち上がった。
その音につられてコールとマリアンの口論が止まり、アレスに注目が集まった。
アレスは窓の外の夕暮れを眺めて、独り言のようにつぶやく。
「飯にするか」
アレスは胸元からメモ用紙を取り出すと、サラサラと何かを書いてエルメスに渡した。エルメスも含め、その場の全員が小首をかしげてクエスチョンを浮かべている。
「これを用意してくれ」
「え? あ、はい……」
メモ用紙には、食材が書かれていた。




