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File.1:冒険者連続密室失踪事件(6)

「ああ、お帰りなさい」

 パルマーは眉を八の字にして彼らを出迎えた。どうやら宿泊客のようだが、この状況でどのように迎え入れるべきかと困っているようだ。

 活発そうな青年は腰にナイフや短い剣をいくつか携え、妙齢の女性は自身の背丈ほどもある木製の杖を持っている。

「あの方たちは?」

「うちのお客さんです。三日前から連泊しておられまして」

 佇まいや雰囲気からも、確かにクエスト帰りの冒険者らしいとエルメスは思った。三日前からの連泊ということだが、クエストによっては数日かかることもあるだろう。

 青年の方がエルメスとアレスに気づき、小さく首を傾げた。

「珍しい客人だな。冒険者じゃなさそうだし、ここらじゃ見たことない」

 逆に言えば、彼は常連ということだ。エルメスは事件の参考人になりうると思い、パルマーに代わって自らが動いた。

「はじめまして。私は冒険者ギルドから来ました、エルメス・ティーポットと言います」

「冒険者ギルド?」

 そう言った青年だけでなく、横にいる女性も眉をしかめた。ギルドの外で職員に出くわすなんて、どうせろくなもんじゃないだろうという不信感が表れている。

 パルマーは観念した様子で本日何度目かのため息を漏らして、自ら説明を買って出た。

「ある事件の捜査でいらっしゃったんだ」

「事件?」

「ああ……昨日、ランドロスが消息を絶った」

「え!?」

 青年と、隣の女性もともに驚いていた。と同時に、青年は怒りで拳を握りしめる。

「あの野郎、無賃宿泊かよ! 大口叩いてたくせに情けねえ……!」

「いや、そうじゃないんだ」

 なんと説明したものかとパルマーはしばし逡巡(しゅんじゅん)したが、ランドロスは荷物をすべて残してその身体(からだ)のみが部屋から消えていたこと、そして同様の件がこの一ヶ月で二度起きていたことを説明した。それを聞いた冒険者二人は、さらに目を丸くしていた。

「ギルドは一連の失踪を事件とみなし、私と――」

 エルメスは横に立つアレスを手で示して、

「アレスさんで調査にうかがったんです」

 と彼らに紹介した。

 なるほど、と青年は神妙な顔をしていた。

「俺はコール・ブリッジ。冒険者です」

「私はマリアン・リベイラ。同じく冒険者よ」

 コールと名乗った青年に続き、女性の方も名を告げた。

 エルメスは資料をめくり、冒険者リストを確認する。

「コールさんと、マリアンさん……たしかに。おふたりとも登録がありますね」

 コール・ブリッジはDランク、マリアン・リベイラはBランクだった。特記事項はなく、書類上は至ってまともな冒険者に見える。

「しかしまさか、世(・)界(・)一(・)安(・)全(・)な(・)宿(・)でそんなことが起きていたなんて……」

 コールは怪訝(けげん)な表情でパルマーを睨(にら)み、パルマーは気まずそうにうつむいていた。

「世界一安全な宿、ですか?」

「ええ。冒険者の間では有名なのよ、ここセレニス亭は。今はもう、世界一安全だ(・)っ(・)た(・)宿になってしまったみたいだけど」

 両手を上げて皮肉交じりに、マリアンは呆れた表情を見せた。

「主人のスキルで、宿泊中の安全が保証されてたの。特に新米の冒険者には評判だった。いつも危険と隣り合わせの仕事をする中で、ここに泊まってる間は変に気を張らなくてもよかったからね」

「ご主人のスキル……」

 エルメスはチラッとパルマーに視線を送って、説明を促す。

「私のスキルは《結界(セーフルーム)》と言って、結界を張ることで、外部からの干渉を受けない空間、を作り出すことができる……んです」

 歯切れの悪いパルマーの説明を引き継いで、マリアンが補足した。

「結界の中に入れば突然モンスターに襲われることはないし……あんまりないけど、冒険者同士のいざこざがあっても結界が守ってくれる。だから世界一安全な宿ってわけ」

「ああ、だからあんたはギルドに報告したくなかったのか」

 アレスの指摘が図星だったのか、パルマーは肩を震わせた。

「安全なことが一番のウリだとしたら、何かトラブルがあったってだけでその信用が崩れちまうからな」

「ええ、そうです……。ウチみたいなボロ宿は、それくらいの利点がないと使ってもらえません。立地は悪くないですが、ほんの数分街の方へ歩けばもっときれいな宿はたくさんありますし……」

 パルマーの悲痛な思いは、エルメスに伝わっていた。宿の状態からも経営に余裕があるようには見えないし、生き残るために必死だったのだろう。

 パルマーに同情しかけていたエルメスの腕を、アレスが肘でつついた。そして顔を近づけてそっと耳打ちする。

「頃合いを見て、パルマーのスキルを確認しておいてくれ」

 エルメスはハッとした。確かに、パルマーの言っていることが事実かどうかは確かめる必要がある。なんなら、そのために今ここにいると言ってもよかった。

「あと、他の奴らもな」

 エルメスは小さく頷いた。

「さて、それじゃあ現場検証といこう」

 アレスが全員に向けてそう切り出した。

「密室失踪とかなんとからしいが、あんたのスキルについても実際に見てみないとわからないしな」

 エルメスのスキルでわかることもあるが、実際にその挙動を見てみないとわからないことも多い。アレスの提案で、一同は場を移すことになった。

 最後尾について、エルメスはアレスに小声で尋ねた。

「あの、アレスさん。外部犯っていう可能性はないんですか?」

「それはない――いや正しくは、まだ考えなくていい」

「どういうことです?」

 エルメスは小首を傾げる。

「失踪した時、つまり一昨日の夜から昨日の明け方にかけて、このあたりは大雨だった。だが宿の周辺を見たところ、特に足跡のようなものは残ってなかったからな」

「でも、何かスキルとかで侵入したとしたら……」

「確かにその可能性は捨てきれないが、不明なスキルまで考慮に入れてたらキリがない。それは内部犯の可能性が完全に消えてから考えれば十分だ」

「あの人たちも三日連泊していると言ってましたよね。と、言うことは……」

 エルメスは前を行く面々の背中を見て、ひとつ唾を飲み込んだ。

「ああ。容疑者は揃ってる」

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