File.1:冒険者連続密室失踪事件(12)
「俺がさっき言った二つのポイントだが、実は一つ目の結界については、俺の中では早々に答えが出ていた。そしてこれこそが、大きな先入観が邪魔してる最も大きな謎なんだ」
結界に対しての先入観? そう言われても、エルメスにはピンとこない。他の面々も同様のようだ。
「パルマーの結界をどう突破するか、それが論点だったわけだが……そもそも、突破する必要なんかなかったんだよ」
「え? どういうことですか?」
「パルマー本人に自覚があるかはわからないが……」
アレスはパルマーを一瞥し、続ける。
「あの結界は、外からの侵入を防ぐことはできるが、中からの流出には効果がないんだ」
「ええ!?」
一同が驚いていたが、最も驚いたのはパルマーだ。彼自身、スキルがそんな効果になっているとは知らなかったらしい。
「結界の検証の時、最後に俺だけに許可を出してもらったよな?」
アレスがパルマーに確認すると、パルマーは動揺しながらも記憶を手繰り寄せて答える。
「え、ええ。そのとおりです」
「あの時、ノーマンはずっと室内にいたんだ。だが、何の問題もなく俺と一緒に外に出てこれた」
一同がハッとした。
エルメスもその時の状況を思い出す。最初はノーマンをランドロスに見立ててノーマンとパルマーのみが通れるように結界を張り、エルメスは入れなかった。その後アレスのみに通行許可を出し、アレスは無事入室。そしてその後は何も変更を加えることなく、ノーマンと一緒に部屋から出ていた。
「ということは、最初から部屋の中にいれば結界の影響を受けないってことですね!」
エルメスの推理に、アレスは頷いた。
「結界を張れるパルマー自身も含め、誰でも結界が張られる前に被害者の部屋に入り込むことはできたってわけだな。本当か気になるなら、後で検証しよう」
これで、ポイントの一つ目はクリアだ。実際に部屋に入り込んでおく難易度は相手や犯人によって差があるだろうが、それ自体にスキルは関係ないことが証明された。
あの検証の時、もしかしたらアレスはその仮説をすでに立てていたのかもしれない。スキルの効果に驚いていた自分に対してアレスはそんなところまで見ていたのかと、エルメスは感心していた。
こうなれば、あとは二つ目のポイントだけだ。その場合、容疑者は二人に絞られる。
エルメスの思考をトレースするように、アレスはその二つ目のポイントに言及していく。
「ポイント二つ目。それができるのは二人だけだな」
アレスだけでなく、一同の視線が二人に注がれる。もちろんその二人とは、マリアンとノーマンだ。特に厳しい目を向けられているのはマリアンである。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ! なんで私が!」
焦るマリアンに、コールはジトッと怪訝な目を向ける。
「だって、あんたしかありえないだろ。ノーマンはFランクだぜ? Aランクのランドロスを倒せる可能性があるのはあんただけだ」
「いやっ……で、でも……!」
マリアンはいい反論が思いつかず、焦燥感に駆られる中、モゴモゴと口を動かすことしかできない。
その場の全員がマリアンこそ犯人に違いないと確信する中、アレスが言った。
「落ち着け。俺はただ、戦った痕跡を残さず消し去れるのは二人だけだって言っただけだ」
エルメスはちょうど自分の背後にいるアレスへ首を向け、上目遣いで見上げる。
「え? でも、ノーマンさんには無理ですよ。となると、マリアンさんしかありえません」
「早とちりするな。そもそもマリアンには、最初の被害者への動機がねえだろ」
「そ、そうよ! サンディはコールの仇じゃない!」
「じゃあやっぱり、二人の共謀ってことなんじゃ――!?」
パルマーは興奮して立ち上がった。そしてコールまで立ち上がる。
「ちょ、ちょっと待てよ! 俺はやってねえ!」
「私だってやってないわよ!」
「だーから、早とちりするなって!」
アレスはエルメスと、そしてコール、マリアン、パルマーに対しても呆れたように言った。
「とにかく全員落ち着いて座れ。あと一品ある」
そう言ってアレスはまた場を仕切り直して、厨房からデザートとコーヒーを持ってきた。パリッとした焦げ目がキレイな、クレームブリュレだ。
「最後にデザートだ。それでクールダウンして、落ち着いて聞け」
滑らかで甘いクレームブリュレと、コーヒーの苦みがマッチしていて非常に美味しい。
全体の熱気がまた収まってきたころを見計らって、アレスは前掛けを外した。
「結論から言うぞ」
自然と食べる動きが止まり、アレスに注目が集まる。
アレスの指先、そこに示されたその人物に、エルメスは目を丸くした。
「この失踪事件の犯人は――ノーマン・ボーダー。お前だ」




