File.1:冒険者連続密室失踪事件(11)
自信満々に宣言するエルメスに、アレスは目を細める。他の面々もざわめきだした。特に、パルマーとコールは前のめりになった。
「ほ、本当ですか? まさか、私だなんて言いませんよね!?」
「おい、誰なんだ!?」
注目を一身に受け、エルメスはまるでこの場が自分の独壇場になったような気持ちになっていた。エルメスは一つ咳払いして、ゆっくりと口を開く。
「まず、私たちは大きな思い違いをしていました」
「というと?」
アレスは試すような目で、エルメスに先を促す。お株を奪って申し訳ないと思いつつも、エルメスの饒舌は止まらない。
「結界の問題と、戦闘力の問題。これらを一気に解決できる人はこの中にいないと、私も含めみんな思っていました。それは、そもそもの大きな先入観が邪魔をしていたからなんです。それは――」
エルメスが溜めを入れると、周りは息を呑む。エルメスはその受け入れ準備を確認した上で、高らかに宣言した。
「犯人は単独犯だと思いこんでいたことです!」
ビシッ、という効果音が聞こえそうな勢いで、エルメスは人差し指を立てていた。観衆、もとい容疑者の面々から、おお、というような感嘆が漏れる。
「結界を突破しうる人と、冒険者を消しうる人はそれぞれいます。その二人が手を組んでいたとしたら……この問題はすべて解決されるんです! つまり犯人は――」
一気にまくし立て、いよいよクライマックスだ。犯人を名指しするフェーズを迎え、会場のボルテージはマックスまで上がっていた。
「あなたたちです!」
またしても、ビシッ、という効果音が聞こえそうな勢いで、エルメスは隣同士のある人物二人を指さした。
「お、俺!?」
「私!?」
その二人とは、コールとマリアンだった。二人とも、そんなわけないと全力で否定する。
「おい、ちょっと待てよ! なんで俺なんだよ!」
「ほんと、いい加減にして! 私は何もしてないわよ!」
激しい剣幕でエルメスに反論する二人に、思わずエルメスは気圧されてしまった。だが、ここで弱気になってはいけないと自分を鼓舞して、呼吸を整える。
「コールさんのスキルを使えば、パルマーさんの目を欺いて部屋に入り込むことは可能です」
「パルマーの目を欺いてって言うが、ここの廊下はかなりオンボロだぞ! 近づいたら絶対音が鳴っちまうだろ!」
「廊下からじゃなくても、例えば外の窓から、とか」
エルメスにそう反論されて、コールは唸る。さらに、エルメスは畳み掛けた。
「それにコールさん、瞬間移動の人数はスキルの制約にありませんよね? 具体的な人数はわかりませんが、マリアンさん一人くらいなら、一緒に跳べるのではないですか?」
納得いかないといった雰囲気だが、エルメスにスキルの図星を突かれてコールは少し青ざめた。
「た、確かに、俺と二人までなら一緒に跳べるけどよ……!」
一方、マリアンはまだまだ反論する。
「だからって、なんで私がやったことになるのよ! 私のスキルじゃ不可能よ!」
「先ほどコールさんも言ってたじゃないですか。細かいコントロールは効くって。服装についても、例えば入浴中とかで服を着ていない状態なら冒険者のみを吸い込むことも可能なはずです」
「でも、私は、私はやってないわ……!」
反論するコールとマリアンだが、エルメスはさらに畳み掛ける。
「お二人が共謀したとすれば、被害者の三人すべてに動機が成立します! コールさんの仇はサンディさん。マリアンさんの仇はチェルシーさん。それと、共に因縁があったランドロスさんです」
エルメスの推理を聞いて、パルマーは感動して拍手までしている。事実がわかったことと、自身の潔白が証明されたことの両方を喜んでいるようだ。
「なんと……! そうだったんですね!」
コールとマリアンはまだまだ何か言いたげだが、よい言い訳が出てこないようで口をパクパクして声を発せていない。
「どうですか、アレスさん!」
エルメスは勝ち誇った表情で、アレスの顔を見た。だが、アレスは真顔のままだ。
「……とりあえず、座って待ってろ」
冷たい目でアレスにそう言われ、エルメスの背筋が凍った。
まさか、間違えた? だが、かなり筋の通る説明をしたはずだ。
アレスは厨房へ行って、すぐに戻ってきた。
「メインディッシュの、ターボボアの赤ワイン煮込みだ。今回は時短版だが、ハチミツを使ったことでかなり柔らかく仕上がっているはずだ」
アレスは肉料理を運んできた。それぞれの前に、ソースのかかった大きなターボボアの塊肉が置かれていく。もはやさすがと言うべきか、その一皿はよだれが落ちそうなほど美味しそうで、かつ芸術的に美しい。
だがそれ以上に、エルメスは自身の推理がどう間違っているのかが気になっていた。エルメスは不貞腐れたようにジトッとした目でアレスを睨みつける。
「じゃあ、アレスさんの推理はどうなんですか?」
言いながら、エルメスは雑な手つきで肉にナイフを入れていく。ガッと頬張ると、溶けそうなほど柔らかい肉の塊から、ジューシーな肉汁が溢れ出した。これは流通量の多いイノシシ型のモンスター、ターボボアの肉で、安くて硬い天然ジャーキーと言われるほどランクの低い肉のはずだ。それなのに、こんなにも柔らかく煮込むことができるものなのか。料理が美味しいのが、今のエルメスには一層憎たらしかった。
「エルメスの推理も悪くはないが、それじゃあただ可能性を示唆するだけだな」
「うっ……で、でも!」
さらに反論しようとするエルメスを、アレスは手で制した。
「だが、エルメスが言っていた大きな先入観があったってのは大正解だ」
アレスは全員の背後をゆっくり歩きながら、自身の推理を話し始めた。




