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聖女のパパも楽じゃない  作者: 2626


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第9話 本部

 「久しぶりだな、キール」


 聖女委員会本部では意外な人物が待っていた。

セイである。

その背後には筋骨隆々の【聖騎士】達が立っていた。


 「セイ……お前、まさか」

小声で言いかけたキールを睨み付けながら、【聖騎士】の一人が告げた。

「この御方はセイジュール・アルベ・エルディブルグ殿下であらせられるぞ!」

「……そうか、だからあの時……王宮の中庭で……」


 少し呟いた後でキールは敬礼して、ハキハキとした声で挨拶する。

「王弟殿下にあらせられましては、ご健勝とご清栄の程」

「良い、止めろ」

だがセイは短く言い捨てると、指示を出してから背中を向けた。

「ベルデッガー団長、聖女見習いのマリ様を大聖女様の下へご案内するように。 キール、お前は俺に付いてこい」

「はっ!」

一際大柄な聖騎士団長ベルデッガーは恭しくマリの前で跪いた。

「大聖女様の元へご案内いたします、マリ様。 どうぞご同道下さい」

「パパ……」

不安そうに見上げてくるマリの頭を撫でて、キールは言った。

「すぐにパパも古い友達との話を終わらせてマリの所に行くから。 大丈夫」

「……分かった」

小さく頷いてマリはベルデッガーと一緒に【聖女委員会】本部の奥へと進んでいった。



 「……さて、何から話したものかな」

第6会議室と書かれた看板は名ばかりのものだった。

殆ど物置に近いその部屋でキールとセイは向かい合う。


 「なあ、マリは誰の子なんだ」

キールは真っ先にそれを訊ねた。

この15年の間、一度も聞かなかった質問を。

「まだ、それを話す事は出来ない」

重苦しい顔でセイは答える。

「彼女に余計な危険が及ぶ可能性があるからな」

それを言われるとキールは一切の反論も質問も出来ないのだった。

「分かったよ。 ところでセイ、お前はどうしてここに?」


 どうして王弟が【聖女委員会】の本部にいるのだ?


 「ハルビ公爵から大凡の事情を聞いた、と言うのもある」

セイは壁により掛かって、遠い目をした。

「ケレミアがお前を拷問しようとした事もな。 彼女も私の協力者だが、如何せん血の気が多すぎる」

「……やっぱりとは思っていたけど、ハルビ公爵はお前の仲間か」


 でなければノノ・タウンのような隅っこの田舎の街に毎年来るわけが無い。

ミック翁だってそうだ。

赤ん坊を抱えて困っていたキールの事情を見透かしたかのように現れて、丁度良い空き家を貸してくれた。


 「仲間と言うより、私の考えに賛同してくれている者の一人だな」

「考え?」

「【聖女】だけに戦わせるのは如何なものか、と私はずっと考えている」

「ヘレネちゃんの事、まだ……」と言いかけて、キールはすぐさま「ごめん」と謝った。


 まだじゃない。

 何が『まだ』なものか。

 セイにとっては『だからこそ!』なのだ。


 「私の運命の女だ、今だってな」

軽く笑ってからセイは顔を改めた。

「マリについて心配だろう? もしお前が良ければ【聖騎士】にならないか。 現段階では聖女のサポート役だが、一番危ない時に側にいてやれるぞ」

「ああ。 俺でも動かせそうな【機鋼魔兵】はあるか?」

待っていた、とセイは微笑んだ。

「そう来ると思って最新型を用意させている。 お前が乗っていた頃の型式より相当進んでいるから、しばらくはマニュアルとシミュレータ漬けになって貰うぞ」

「どうせ辞典みたいに分厚いんだろうが、もう嫌だなんて言っていられない。 マリの危機だ」

セイは酷く眩しいものを見るようにキールを見た。

「……キール、お前は良い意味でプライドが無い男だ。 臨機応変に『意地』や『矜持』を捨てられる。 大事なもののために、幾らだって。 あの子は、お前にとって本当にかけがえのない家族なんだな」

そうだよ、とキールは素直に肯いた。


 「反抗期で辛いけどな、世界一可愛い娘だよ」



 【機鋼魔兵】

魔法工学がずば抜けているエルディブルース王国の誇る、最強にして最新鋭の兵器の総称だった。

複雑な魔法回路と強力な兵装が組み込まれた巨大人型兵器を、自在に操って駆けることができる者はほんの一握り。

特に国王直属の彼らは【近衛機兵】と呼ばれ、畏敬と憧憬の目で周りから見られたのだった。




 キール・ハルフィールド。

かつて【近衛機兵】だった時、最強と称された男である。

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