第9話 本部
「久しぶりだな、キール」
聖女委員会本部では意外な人物が待っていた。
セイである。
その背後には筋骨隆々の【聖騎士】達が立っていた。
「セイ……お前、まさか」
小声で言いかけたキールを睨み付けながら、【聖騎士】の一人が告げた。
「この御方はセイジュール・アルベ・エルディブルグ殿下であらせられるぞ!」
「……そうか、だからあの時……王宮の中庭で……」
少し呟いた後でキールは敬礼して、ハキハキとした声で挨拶する。
「王弟殿下にあらせられましては、ご健勝とご清栄の程」
「良い、止めろ」
だがセイは短く言い捨てると、指示を出してから背中を向けた。
「ベルデッガー団長、聖女見習いのマリ様を大聖女様の下へご案内するように。 キール、お前は俺に付いてこい」
「はっ!」
一際大柄な聖騎士団長ベルデッガーは恭しくマリの前で跪いた。
「大聖女様の元へご案内いたします、マリ様。 どうぞご同道下さい」
「パパ……」
不安そうに見上げてくるマリの頭を撫でて、キールは言った。
「すぐにパパも古い友達との話を終わらせてマリの所に行くから。 大丈夫」
「……分かった」
小さく頷いてマリはベルデッガーと一緒に【聖女委員会】本部の奥へと進んでいった。
◆
「……さて、何から話したものかな」
第6会議室と書かれた看板は名ばかりのものだった。
殆ど物置に近いその部屋でキールとセイは向かい合う。
「なあ、マリは誰の子なんだ」
キールは真っ先にそれを訊ねた。
この15年の間、一度も聞かなかった質問を。
「まだ、それを話す事は出来ない」
重苦しい顔でセイは答える。
「彼女に余計な危険が及ぶ可能性があるからな」
それを言われるとキールは一切の反論も質問も出来ないのだった。
「分かったよ。 ところでセイ、お前はどうしてここに?」
どうして王弟が【聖女委員会】の本部にいるのだ?
「ハルビ公爵から大凡の事情を聞いた、と言うのもある」
セイは壁により掛かって、遠い目をした。
「ケレミアがお前を拷問しようとした事もな。 彼女も私の協力者だが、如何せん血の気が多すぎる」
「……やっぱりとは思っていたけど、ハルビ公爵はお前の仲間か」
でなければノノ・タウンのような隅っこの田舎の街に毎年来るわけが無い。
ミック翁だってそうだ。
赤ん坊を抱えて困っていたキールの事情を見透かしたかのように現れて、丁度良い空き家を貸してくれた。
「仲間と言うより、私の考えに賛同してくれている者の一人だな」
「考え?」
「【聖女】だけに戦わせるのは如何なものか、と私はずっと考えている」
「ヘレネちゃんの事、まだ……」と言いかけて、キールはすぐさま「ごめん」と謝った。
まだじゃない。
何が『まだ』なものか。
セイにとっては『だからこそ!』なのだ。
「私の運命の女だ、今だってな」
軽く笑ってからセイは顔を改めた。
「マリについて心配だろう? もしお前が良ければ【聖騎士】にならないか。 現段階では聖女のサポート役だが、一番危ない時に側にいてやれるぞ」
「ああ。 俺でも動かせそうな【機鋼魔兵】はあるか?」
待っていた、とセイは微笑んだ。
「そう来ると思って最新型を用意させている。 お前が乗っていた頃の型式より相当進んでいるから、しばらくはマニュアルとシミュレータ漬けになって貰うぞ」
「どうせ辞典みたいに分厚いんだろうが、もう嫌だなんて言っていられない。 マリの危機だ」
セイは酷く眩しいものを見るようにキールを見た。
「……キール、お前は良い意味でプライドが無い男だ。 臨機応変に『意地』や『矜持』を捨てられる。 大事なもののために、幾らだって。 あの子は、お前にとって本当にかけがえのない家族なんだな」
そうだよ、とキールは素直に肯いた。
「反抗期で辛いけどな、世界一可愛い娘だよ」
◆
【機鋼魔兵】
魔法工学がずば抜けているエルディブルース王国の誇る、最強にして最新鋭の兵器の総称だった。
複雑な魔法回路と強力な兵装が組み込まれた巨大人型兵器を、自在に操って駆けることができる者はほんの一握り。
特に国王直属の彼らは【近衛機兵】と呼ばれ、畏敬と憧憬の目で周りから見られたのだった。
キール・ハルフィールド。
かつて【近衛機兵】だった時、最強と称された男である。




