第5話 悪魔
この世界では、【魔災】と呼ばれる災害が発生する。
恐ろしい魔物【悪魔】が突如として現れ、そこにいる人々を無差別に襲うのだ。
圧倒的なまでの暴力を振るうその【悪魔】達に対抗するのは、ただの人々には難しい。
しかし、人々もただ【悪魔】達に蹂躙されるだけではなかった。
【悪魔】に太刀打ち出来る不思議な力を持った者【聖女】を結集して【聖女委員会】を組織。
その出現を予知して、直ちに現地に【聖女】率いる【機鋼魔兵】達が直行して討伐すると言うシステムを構築したのだ。
◆
逃げまどうノノ・タウンの人々の間をバイクで走り抜け、舗装されていない狭い道に出ればノノーラ湖はもうすぐだ。
焦りながらもキールはノノーラ湖のほとりをバイクで走りながら探し回る。
いた!
高級車が止まっていて、その近くでいかにも貴族の令嬢らしい日傘を差した女の子と青年が、とても良い雰囲気で戯れていた……。
「ハルビ公爵令息!」
キールはありったけの大声を出した。
「なっ!? 何だ貴様は!」
「きゃっ!?」
エンジン音を響かせて登場したキールに青年と令嬢は、それぞれ焦りと驚きが半々の顔を向ける。
キールはバイクを止めて急いで伝えた。
「このノノーラ湖で間もなく【魔災】が起きるんです!」
「「っ!?」」
二人の顔が見る間に青ざめ、公爵の息子の方は止めてあった車にすぐに駆け込んだ。
燃料である魔力があることを確認してから、窓から顔を出して令嬢に呼びかける。
「ジネッテ、車に乗ってくれ!」
ええ、と令嬢もすぐさま助手席に乗り込んだ。
シートベルトもそこそこに、息子はすぐさまエンジンをかけようとした――のに。
「どうしてだ、どうしてかからない!?」
「嫌っ!」
いくらやってもエンジンがかからなかったのだ。
見ていられなくて、キールはバイクを飛び降りた。
「こっちのバイクに乗れますか!? 2人で!」
「だ、だが!」
「そんな事をしたら、貴方は!」
戸惑う顔の2人に、時間が惜しくてキールは車のドアをこじ開けて迫った。
彼の人生の半分も生きていない若者を見捨てるなんて、彼にはとても出来ないのだった。
「俺は走っていきますから、さあ急いで! ダジュ・タウンへ!」
◆
何度もこちらを振り返りながら走っていくバイクの後を追いかけながら、キールは己がもう年老いた事を自覚せざるを得なかった。
若かった時はいくらだって走れたのに、今となってはすぐに息が上がって体が重くなる。
それでも必死に走っていると、やがてノノ・タウンに通じる街道に出た。
既に、ノノ・タウンの方に人気はない。
どうやらミック翁がみんなを率いて、聖女ケレミアのいるダジュ・タウンへ逃げてくれたらしい。
そのほんの一瞬の安堵で、彼の体はちっとも――どうしようもなく動かせなくなってしまった。
『この先ノノ・タウン』と書かれた分かれ道の看板に寄りかかって、キールがゼイゼイと荒い息を整えていた時だった。
「パパ」
――ぞっとキールは総毛立った。
思わず振り返ると、ノノーラ湖の方からマリが歩いてきていた。
違う。
コレはマリじゃない。




