第4話 確認
このノノ・タウンの近く――特にノノーラ湖で魔獣狩りをする時は幾つかの決まり事がある。
国の法律で保護されている魔獣ホワイトオウルを誤って撃つ事の無いように、狩猟用の散弾銃は禁止されている。
また、持ち込める銃の数や弾薬の数にも制限が設けられているのだ。
違反すると罰金である。
その辺りの詳しい確認をして狩猟許可証を発行するのが、今日のキールの最大の仕事であった。
幸いにも、ハルビ公爵はその辺りをややこしくした事も我が儘をごねた事も無い、上客にして常客である。
「――はい、散弾銃は無し、弾薬も本数も規定通り、と。 では、今年も狩猟されるのは公爵様だけですか?」
確認したところ、今年も公爵が狩猟をするにあたっての問題は無さそうである。
それなのに、キールがわざとそう訊いたのには訳がある。
ハルビ公爵には一人息子がいて、そろそろ成人に近い年頃なので今年は一緒にやるのかも知れない、と思ったのだ。
「いいや、今年は息子もやると張り切っているのだ」
案の定、公爵はご機嫌そうに顎髭を撫でてそう答えた。
すると聞いていたミック翁が笑って、
「ああ、ちい若様もですか。 もう18になられましたからなあ」
「うむ、実は息子にも婚約者が出来てな。 朝方の景色はとても綺麗だからと、今頃ノノーラ湖で2人きりでデートしている頃だろう」
「若いと言う事は素晴らしい事じゃ! 青春ですのう!」
ミック翁が笑うと、公爵もつられて鷹揚に笑った。
キールも微笑んで、
「それじゃ、公爵様とご子息様の狩猟許可証を――」
教会の鐘が割れるかのように激しく打ち鳴らされたのはその瞬間である。
ほぼ同時に詰め所の非常用のサイレンがけたたましく鳴った。
「こんな田舎に【魔災警報】!?」
キールは詰め所に飛び込んで鳴り響く通信機を手にした。
「はい、こちらノノ・タウン詰め所の警邏兵キール!」
『こちら聖女教会直属聖騎士団長ベルデッガー。 予知では【魔災】の中心地は半時間後のノノーラ湖だそうだ。 急ぎ民間人を避難させろ!』
「はっ!直ちに!」
キールはミック翁と公爵の元へ駆け寄ると、今から半時間後にノノーラ湖に【悪魔】が出現すると予知があった事を話した。
「ミックさん、ノノ・タウンのみんなを隣のダジュ・タウンまで避難させて下さい。 半時間後にノノーラ湖に【悪魔】が出現するそうです。 俺はこれからノノーラ湖に行って、ご子息達を連れてきますから!」
「分かったぞい!」
承諾するなり、ミック翁は年寄りとは思えない足の速さで大混乱のノノ・タウンの方へ向かっていく。
キールは青い顔をしている公爵に言った。
「すぐに俺がご子息達を迎えに行きますから、公爵様もダジュ・タウンにお逃げ下さい!」
「分かった、だがあそこのミニバイクでは足が遅いだろう。 おい、そのバイクを貸してやれ!」
すぐに頷いて、護衛の一人が大型バイクを降りた。
有り難くキールはそれにまたがると、フルスロットルで走り出した。
全速力で大型バイクを走らせながら、彼は痛切に思わずにはいられなかった。
――もしも、この詰め所に【機鋼魔兵】があったなら。
安全かつ確実、迅速にご子息達だって助けられたのに、と。




