第36話 有為
その超加速に近い猛突進を『ミッドナイト』の左腕と魔砲1基を犠牲に回避できたのは、流石の腕前と言うべきだった。
レベッカが『ミッドナイト』の現状を伝える。
『あちゃー……残存兵装は魔砲1基。 魔砲に使用できる魔力も残り30%を切ったわ。 【聖騎士】相手に大暴れしたのが今更響いたわね。 うん、これは駄目ねー。 緊急弁まで封鎖したのに魔力漏れが止まらないわ。
どうするキール? 脱出する? それとも王太后様に抱きついて自爆する?』
『ミッドナイト』の潰れた断面から覗く魔法回路が火花を散らしている。
そこに漏れ出た魔力が引火すれば、『ミッドナイト』は誘爆して終わるだろう。
「……準備はしてくれ。 もう少しだけ足掻くぞ」
『ええ、了解!』
『ミッドナイト』のひしゃげた左腕をその顎から吐き出して、カルローニアは微笑む。
『逃がさないわ。 私は、あの子を取り戻すの』
『……っ!』
それを聞いて怯えたかのように、いきなり『トワイライト』が全速力で逃げていく。
逃げていくその背中を守るかのように『ミッドナイト』がカルローニアの前に立ちはだかった。
「たとえ王太后様でも、俺の娘はやらせねえさ」
『そう、なら』
貴方もお死になさい。
◆
まるで真夜中そのものが襲いかかってきたかのように【悪魔】が迫る。
キールはその体当たりを紙一重で回避。
すれ違いざまに最大火力の魔砲を連続で打ち込んだが、ノノーラ湖の時のように【悪魔】の体には何の傷も付いていなかった。
それでもキールは諦めない。
今や、娘の命がかかっているのだ。
回避行動を繰り返しながら、ありったけの悪あがきを続けた。
損壊しているのにも関わらず、中々仕留められないキールに対して業を煮やしたのか。
『本当に貴方は頑張りました。 だから、もう――』
【悪魔】は手中のルリアナを、空中高く放り投げた。
「――ッ!」
咄嗟にキールは右腕を差し伸べてルリアナの体を受け止める。
それが彼の最大の命取りとなった。
一基残っていた魔砲が引きちぎられ、胴体部分を掴まれて引き寄せられる。
『無理しないで、終わって良いわ』
【悪魔】はまるで泣きじゃくる我が子を抱きしめるかのように、『ミッドナイト』を抱きしめた。
『ミッドナイト』の機体は瞬く間に、断末魔のような音を立てて圧壊していく。
「……」
自爆までのカウントダウンと危険を知らせるアラートが鳴り響く中、キールは手元の『緊急脱出』のレバーを引こうとして、止めた。
ここで彼が脱出すればレベッカは――。
『本当にバカねえ。 ……愛しているわ、キール』
「俺もだ、レベッカ」
彼が死を覚悟した瞬間。
ケレミアの『レイニーデイ』が装備していたはずの対悪魔用ライフルが火を噴いた。
銃口から放たれた魔弾が鋭い光を放ちながら、まるで流れ星のように【悪魔】の額の真ん中を撃ち抜いたのだ。
『あたしがいるのに! 諦めんなよ!』
『大嫌い大嫌い大嫌い! マジでクサくてキモくてウザい!』
まるで風に溶けるように【悪魔】の巨躯が消えた。
その跡に残された王太后カルローニアは、眠っているようだった。
◆
宙ぶらりんだった『ミッドナイト』はどうにか着地に成功するが、そのまま後ろ倒しになってしまう。
半壊したハッチから必死に這い出たキールの元に、すぐに駆けつけた『トワイライト』が手を差し伸べてきた。
『ねえ、パパ。 パパなんか大嫌いだからね……だから』
死んじゃ嫌だ。
「参ったなあ……」
キールは頭を掻こうとして、その手も頭もべったりと血まみれなのに今更気付いた。
急に意識が遠くなり、目眩がして、彼は地面に倒れる。
「……父親なんて……娘が反抗期になったら……忌み嫌われるもん、だよな……」
『トワイライト』のハッチが開く音を聞きながら。
そのまま彼は目を閉じた。




