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聖女のパパも楽じゃない  作者: 2626


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第36話 有為

 その超加速に近い猛突進を『ミッドナイト』の左腕と魔砲1基を犠牲に回避できたのは、流石の腕前と言うべきだった。




 レベッカが『ミッドナイト』の現状を伝える。

『あちゃー……残存兵装は魔砲1基。 魔砲に使用できる魔力も残り30%を切ったわ。 【聖騎士】相手に大暴れしたのが今更響いたわね。 うん、これは駄目ねー。 緊急弁まで封鎖したのに魔力漏れが止まらないわ。

どうするキール? 脱出する? それとも王太后様に抱きついて自爆する?』


 『ミッドナイト』の潰れた断面から覗く魔法回路が火花を散らしている。

 そこに漏れ出た魔力が引火すれば、『ミッドナイト』は誘爆して終わるだろう。


 「……準備はしてくれ。 もう少しだけ足掻くぞ」

 『ええ、了解!』




 『ミッドナイト』のひしゃげた左腕をその(あぎと)から吐き出して、カルローニアは微笑む。


 『逃がさないわ。 私は、あの子を取り戻すの』


 『……っ!』

それを聞いて怯えたかのように、いきなり『トワイライト』が全速力で逃げていく。

逃げていくその背中を守るかのように『ミッドナイト』がカルローニアの前に立ちはだかった。


 「たとえ王太后様でも、俺の娘はやらせねえさ」

 『そう、なら』


 貴方もお死になさい。



 まるで真夜中そのものが襲いかかってきたかのように【悪魔】が迫る。

キールはその体当たりを紙一重で回避。

すれ違いざまに最大火力の魔砲を連続で打ち込んだが、ノノーラ湖の時のように【悪魔】の体には何の傷も付いていなかった。


 それでもキールは諦めない。

今や、娘の命がかかっているのだ。


回避行動を繰り返しながら、ありったけの悪あがきを続けた。




 損壊しているのにも関わらず、中々仕留められないキールに対して業を煮やしたのか。


 『本当に貴方は頑張りました。 だから、もう――』


 【悪魔】は手中のルリアナを、空中高く放り投げた。


 「――ッ!」

咄嗟にキールは右腕を差し伸べてルリアナの体を受け止める。


 それが彼の最大の命取りとなった。


 一基残っていた魔砲が引きちぎられ、胴体部分を掴まれて引き寄せられる。


 『無理しないで、終わって良いわ』


 【悪魔】はまるで泣きじゃくる我が子を抱きしめるかのように、『ミッドナイト』を抱きしめた。

『ミッドナイト』の機体は瞬く間に、断末魔のような音を立てて圧壊していく。




 「……」

自爆までのカウントダウンと危険を知らせるアラートが鳴り響く中、キールは手元の『緊急脱出』のレバーを引こうとして、止めた。

ここで彼が脱出すればレベッカは――。


 『本当にバカねえ。 ……愛しているわ、キール』

 「俺もだ、レベッカ」




 彼が死を覚悟した瞬間。

ケレミアの『レイニーデイ』が装備していたはずの対悪魔用ライフルが火を噴いた。

銃口から放たれた魔弾が鋭い光を放ちながら、まるで流れ星のように【悪魔】の額の真ん中を撃ち抜いたのだ。


 『あたしがいるのに! 諦めんなよ!』

 『大嫌い大嫌い大嫌い! マジでクサくてキモくてウザい!』




 まるで風に溶けるように【悪魔】の巨躯が消えた。

 その跡に残された王太后カルローニアは、眠っているようだった。



 宙ぶらりんだった『ミッドナイト』はどうにか着地に成功するが、そのまま後ろ倒しになってしまう。

半壊したハッチから必死に這い出たキールの元に、すぐに駆けつけた『トワイライト』が手を差し伸べてきた。


 『ねえ、パパ。 パパなんか大嫌いだからね……だから』


 死んじゃ嫌だ。


 「参ったなあ……」

キールは頭を掻こうとして、その手も頭もべったりと血まみれなのに今更気付いた。

急に意識が遠くなり、目眩がして、彼は地面に倒れる。


 「……父親なんて……娘が反抗期になったら……忌み嫌われるもん、だよな……」




 『トワイライト』のハッチが開く音を聞きながら。

 そのまま彼は目を閉じた。

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