第33話 大立ち回り
包囲したこの時。
たった一つだけ、【聖騎士】達は誤解をしている。
『ミッドナイト』
『モルゲンローテ』
『トワイライト』
『アージェント』
『レイニーデイ』
大聖女ルリアナから、この5機の【聖霊】が戦闘の途中でシステムダウンするように仕組んであることは伝達されていた。
だから彼らは安心して襲いかかったのだ。
それが安心では無くて慢心だという誤解には、気付かぬまま。
最初にシステムダウンを起こしたのは、【聖女】達を庇って最前線に立っていた『モルゲンローテ』だった。
『何だ!? 魔法回路が止――!?』
がくりと機体が膝を突く。
もはやマジックシールドもマジックロングソードも持ち上げられない。
クラウスは【聖霊】を問い詰める。
「おい、『エコーズ』! どうした『エコーズ』! 何が起きているんだ!」
返事は無い。
次はやや遠方で待機していた『レイニーデイ』だった。
『何だこりゃ……弾詰まりか!? クソ、何でこんな時に……!』
続いて『アージェント』、やや遅れて『トワイライト』が行動不可の状態に陥る。
既に『ミッドナイト』は沈黙していて、ぴくりとも動かない。
ルリアナの語っていた好機が来たと知り、一気呵成の勢いで【聖騎士】の搭乗する全10機の【機鋼魔兵】が突撃した。
その瞬間。
突如『ミッドナイト』のマジックワイヤーランスが死角から飛んできたかと思うと、先頭にいた【機鋼魔兵】の脚部に絡みついた。
前のめりになった【機鋼魔兵】の魔法動力炉目がけて、魔砲が零距離で放たれて大穴を開ける。
『――だ、脱出する!』
搭乗していた【聖騎士】が緊急脱出した直後、機体は爆発した。
『っ……!』
【聖騎士】達が怯んだ瞬間、その爆発を突っ切って『ミッドナイト』の機影が迫った。
制圧射撃として魔砲を連続して放ちながらマジックワイヤーランスを駆使して攻撃。
見事なまでの機体制御で被弾をことごとく避け、距離を詰めるなり――。
『俺の娘に何しやがる!』
最寄りだった【機鋼魔兵】が『ミッドナイト』の片手で投げ飛ばされた。
人間の使う格闘術の一種かと思うほど鮮やかな動きだった。
【機鋼魔兵】の関節部分がねじ曲がり、火花を散らして行動不能に陥る。
そのまま隣の【機鋼魔兵】に激突した勢いで地べたに両者とも叩きつけられて、大破した。
この間に魔砲が地面に大穴を開け、凄まじい土埃が辺りを覆う。
『しまった!』
『撃て! 撃ちまくれ!』
残り7機の【機鋼魔兵】はその土埃を吹き飛ばすような、激しい魔砲撃を至近距離から行った。
少しずつ距離を取りながら、再び包囲するつもりだった。
それを許さず、『ミッドナイト』のもう片方の腕部で操る、マジックワイヤーランスが不規則に動く。
長さと硬度を操れるワイヤーの先端に槍の穂先が付いた、まるでサソリの尾のようなこの特殊兵装は、鞭のように、あるいは毒尾のように自在に動いた。
1機の【機鋼魔兵】の体にマジックワイヤーランスが不意に絡みつき、力に任せてもうもうたる土埃の中に引きずり込む。
搭乗者は悲鳴を上げた。
『止めろ!!! 放せ!』
『あっ!』
その悲鳴を聞いた【聖騎士】が怯んだ。
砲撃が、一瞬だけ止まった。
『駄目だ!!!』
『撃て! 撃ち続けろ!』
止めてはならないのに、止まってしまった。
『止めろ、止めてくれ! うわああああああああああああああ――!!!!! ………………………………………………』
土埃に引きずり込んだ【聖騎士】の通信途絶よりも早く『ミッドナイト』は次の動きに移っている。
『少し借りるぜ、シルバーちゃん』
一方的に告げるなり、『アージェント』のツインサーベルを拾った。
まるで柔らかなチーズをナイフで切るように、【機鋼魔兵】の魔鋼と魔法回路が難なく切断され、その両腕がずるりと地面に落ちて轟音を立てる。
隣の機体は頭部を飛ばされて動けなくなり、その背後から魔砲を撃っていた機体の胴体には投擲されたツインサーベルが2本とも貫通してくずおれる。
残存、3機。
2倍の数で襲いかかったのに、あっと言う間に3分の2以上が倒されてしまった。
たった1機に。
かつての最強に。
『所詮はおっさん』と密かに侮っていた、この男に!
威圧されるように、残った3機は後ずさった。
キール・ハルフィールド――【魔法使い】にはまともにやりあったとしても絶対に勝てない。
『ならば……!』
だが、この男にはたった1つ弱点だけがある。
マリ・ハルフィールドと言う名前の――。
『――うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!』
3機は雄叫びを上げながら機能停止している『トワイライト』目がけて突進した。
あの『トワイライト』さえ人質に取れば!
彼らにも十分、勝ち目はある!
『絶対にさせるか!』
果たして、その言葉が彼らに聞こえたかどうかは分からない。
緊急脱出するのに必死だったからだ。




