第32話 あのね
河岸で待機しながら、マリは背後に控えているクラウスに通信を繋げた。
『ねえ、クラウス君。 パパと喧嘩したの?』
『喧嘩ではありません、マリ様』
落ち着いた返答に、マリは微笑む。
『そっか。 男同士の会話って言うのかな?』
『……恐らく、そんなところです』
『あたしとは年も近いんだし、タメ口で良いよ。 この【機鋼魔兵】に乗って【悪魔】と戦う仲間じゃんか』
『そう言う訳には参りません』
固いんだから、とマリは楽しそうに笑った。
『だから、良いんだってば。 だってさー……』
マリはモニターの片隅に映し出された【託宣機構】の正体を見る。
『もう【聖女委員会】はお終いだよ? 大聖女主導で、こんな酷いことをずっとしていたなんて――ああ、もう!』
彼女は怒鳴った。
『ふざけんな! マジでふざけんなよ!! あたしは良いよ、まだ戻れる、ほんのちょっと失っただけ! でもシルバーやケレミアさんはどうしたら良いの!? あんなに体中が傷痕まみれになるくらい頑張ったのに! いつか自分も【悪魔】になるかも知れないなんて! 頑張っても【託宣機構】の生贄にされるなんて! マジでふざけんな!!!!』
『マリ……』
クラウスが息を呑むのが伝わってきて、マリは少し冷静になった。
『……ごめんね、クラウス。 貴方に怒るべきじゃないって分かっているんだけど。 どうしても叫びたくてたまらなくなった』
『いや、良いんだ。 ……マリは、自分のためじゃなくて友達のために怒るんだな』
何だか気恥ずかしくなって、マリは頭を掻く。
『えーと……あのね。 パパがね、いつもこうなの。 パパってね、信じられないくらいにおバカでおマヌケでお人好しで、自己犠牲的すぎるから。 自分のために怒るとかあんまり無くて、いつもいつも「マリ、マリ、マリ」ばっかりで……』
『……』
黙ってクラウスは操縦桿を握りしめた。
それに気付かず、彼女は言葉を続ける。
『だからね、あたしがパパを守らなきゃいけないんだ。 そうでもしないとパパはお人好しと自己犠牲ですぐ死んじゃうから』
『マリ』
クラウスはマジックロングソードとマジックシールドを構えた。
『避けろ!』
襲いかかってきたのは背後に控えていた【聖騎士】が駆る【機鋼魔兵】であった。
『っ!?』
咄嗟に回避した『トワイライト』の代わりに『モルゲンローテ』のマジックシールドが攻撃を弾き飛ばす。
『どうして……!?』
マリは目を見開いた。
クラウスは彼女に告げる。
『まだ【聖女委員会】は終わっていない! 少なくとも! 大聖女ルリアナは今も残っている!』
クラウスはモニター越しに、少年とは思えないような声で襲ってきた【機鋼魔兵】達を大喝した。
『貴様ら! ルリアナの指図か!』
返答の代わりに、【機鋼魔兵】10機が彼ら5機を囲んだ。




