第25話 隻眼
ケレミア・スヴィレッタは【悪魔】との戦いで独眼になった。
そう言うことにされている。
狙撃が得意だった彼女は、彼女専用に整備された【機鋼魔兵】『アンブレラ』に乗り、【聖霊】『ポピンズ』と共に、単騎で【悪魔】を遠距離から狙撃する戦法で、多大な功績を挙げてきた。
「素晴らしい戦果だ。 君ならきっと【悪魔】から世界を守れるだろう」
頑張って戦って戦い続けて、彼女は大聖女にまでなった。
それを祝う祭典の時に先輩の大聖女ルリアナから褒められた時は嬉しくて、彼女は誰よりも胸を張って答えたのだ。
「はい! 私が、世界も『お父さん』も守るんです!」
それからほんの数日後。
出撃の際、仲間だと信じていたフローラ・レッサや他の【聖女】によって、ケレミア達は背後から襲われた。
抵抗はしたものの、多勢に無勢。
しかも完全に不意を突かれたことで、『アンブレラ』は修理不能なまでに大破、ポピンズは完全喪失。
ケレミア自身も、命こそ助かったものの片目を失う重傷を負った。
医療施設でケレミアは大聖女ルリアナに訴えた。
【悪魔】にやられたのではない。
いきなり背後からフローラ・レッサ達に襲われた。
泣きじゃくりながらも、何度も何度も尊敬する彼女へ、そう訴えた。
大聖女ルリアナは静かに頷いて、「フローラ達には適切な処分を下しておく」と言った。
その結果が、ケレミアは【聖女委員会】本部から、ダジュ・タウンの大教会に転属。
ケレミア達より遙かに劣る実力しか持たないフローラ・レッサ達は、昇進した。
「どうして……?」
全員に裏切られたと今更気付いても、もはや失った方の眼窩が疼くのを一人で堪えるしかない。
あれほど頑張ってきたのに、ケレミアは独りぼっちになった。
それでもケレミアは内心――本心のところでは平気だった。
彼女にはダジュ・タウンの実家で暮らす『お父さん』がいる。
きっと『お父さん』だけは彼女がどうなっても受け入れてくれて、『辛かったな』『よく頑張った』『ずっとここにいなさい』と言ってくれるに違いないと。
◆
ダジュ・タウンに帰ったケレミアは、近隣一帯から集まった大勢の人達に歓迎された。
何人もの警邏兵が「押さないで下さい」と叫びながら群衆を押しとどめている中、わいわいと騒いでいた彼らだったが――車から片目を失ったケレミアが姿を見せた途端に、全員が声を失った。
「……ケレミアちゃん……」
「ああ……っ」
年老いた者の中には「若い子が何て痛ましい」と涙する者もいた。
しかし。
場違いに陽気な声が放たれる。
「おお! 俺の娘が! 何て名誉なんだあ!」
誰もがもう一度言葉を失う中、人混みを無遠慮にかき分けて酒臭い『お父さん』がやって来るなり、ケレミアを強く抱きしめた。
「おかげで新しくて大きな家が建ったんだあ! 新しい車もバイクも、何でもある! 本当にありがとうな! お前は自慢の娘だよ!」
「――」
ケレミアは涙さえ流せなかった。
最大に残酷な事実をこうやって目の前に突きつけられて、ようやく彼女は理解したのだ。
『お父さん』、お前もか。
お前も私を売ったのか。




