表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖女のパパも楽じゃない  作者: 2626


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/34

第24話 協定

 「ヘレネが死んでから、私はこの国の代表として【聖女委員会】と幾つかの協定を結んだ。 【聖女】に【機鋼魔兵】や【聖騎士】を貸与する代わりに、ある程度、私達へ融通を利かせるという内容も含まれている。 それらの協定の元、それまでは【聖女委員会】だけが独占していた【悪魔】の情報を、こちらにも共有させた。

――そうやって入手した情報を元にヘイゾー博士の協力も仰いで、私達はこの15年の間、密かに、独自に動いていたんだ」


 ヘイゾー博士が呟いた。

「びっくりしたよぉ。 僕ちゃん本当に殺されるって思ったからねぇ。 あの時の殿下の様子は、正に鬼気迫る感じだったからなぁ。 いつもフラフラ遊んでいた殿下がさぁ……」


 キールはその理由を知っている。

セイが誰よりも愛したヘレネは、【悪魔】との戦いの結果、遺骸さえ見つからなかった。


 死体が見つかると言うことは確かに残酷ではあるが、目に見える形で一つの結果が出た、と言うことでもある。

結果が出てしまったからには、希望もそこですっぱりと途絶えるのだ。

しかし結果が見つからねば、数十年以上――下手をすれば己が死ぬまで――『もしかしたら何処かで生きているかもしれない』と心の片隅に希望を抱いたまま、諦めることも出来ず生きていかねばならないのだ。

まるで死ねない人間が永遠に地上をさ迷い続けるように。


 どちらの方が残酷なのか、見え透いたようなことを言う傲慢をキールは持っていなかった。




 「15年かけてようやく、一つの事実が分かった。 【悪魔】と【聖女】は同族だ」

目を見開いて、キールはセイの言葉をオウムのように繰り返す。

「同族……? あんな化物と【聖女】が!?」

そうだ、とセイは深く頷いた。

「私もこのラボで博士のレポートを読むまでは中々信じられなかったんだが。

――キール、お前も【魔法使い(ウィザード)】の伝説は聞いたことがあるだろう。 1000年以上の昔、この世界には【魔法使い】達がいた。 彼らは圧倒的な魔法の力によって全世界を支配下に置いていたが、己の文明と魔法技術に驕った結果、一夜にして滅びた……」


 その話は有名だ。

しかし、今となっては小さな子供に『傲慢は良くない』と戒める時に使われる、半ばおとぎ話に近い伝説だった。


 「その伝説が、【悪魔】と【聖女】にどう関係してくるんだ?」

キールが訊ねると、ヘイゾー博士が答えた。

「いやぁ、全然、伝説じゃなかったりするんだよねぇ。 実は僕ちゃん、かの文明の技術で作られた人造生命体(ホムンクルス)の1体なんだよぉ。 半世紀前にこの王国がたまたま僕ちゃんが眠っていた遺跡を発掘してぇ。 それまでは遺跡の中でコールドスリープしていたんだよねぇ。

要するに、この王国の魔法工学の技術がずば抜けているのは、かの文明の生き証人である僕ちゃんが見つかったからなんだよぉ?」


 あっさりと言いながらヘイゾー博士は白衣をめくって、腹部に刻印された『HE-1-Z0』の刻印を見せる。

それを痛ましいような目で見てからセイは壁から体を起こし、ヘイゾー博士に目で合図した。


 「で、これぇ――」

博士が手元のコンソールを操作すると、モニターに遺伝子の塩基配列や数字の羅列が浮かぶ。

キールは背筋が寒くなりながらも、じっとその情報を見つめた。




 「さてぇ、キールちゃん。 かの文明は何でも出来たぁ。 まぁ、僕ちゃんみたいな人造生命体も作れた訳だしねぇ。 アイツら【魔法使い】にとってはその文明の技術力を応用して、人の遺伝子の中に色んなモノや不思議な力を植え付けることも――簡単に出来た訳だねぇ」


 モニターに示されたのは、【悪魔】の遺伝子の中に組み込まれた『己の欲望と願望を叶える因子』の存在――。

否。


 『【種子】という名称の何か』の存在証明だった。


 「僕ちゃんがこれを【種子】と名付けたんだぁ。 

この【種子】なんだけれどぉ、染色体がXXオンリー――簡単に言えば『性別:女』の場合にのみ発生するんだよねぇ。 もっとも、大多数の『性別:女』の場合は自然に枯れていって、ほとんどの場合で【種子】になる前に自然に消え去ってしまうんだぁ。

だけどぉ、本当に極々小さな偶然が重なってぇ、【種子】を体内に抱え込んでしまう『性別:女』がたまに現れるぅ……」


 それが【聖女】であり、【悪魔】なんだよぉ。


 「……」

キールは戦慄きがらも、一言も漏らさずに聞いている。

忙しなくコンソールをいじりながら、ヘイゾー博士は説明を続けた。


 「ならば、【聖女】と【悪魔】の最たる違いは何かぁ? 僕ちゃんが今まで調べたところでは、【種子】そのものの強弱と、【種子】が発芽したかしていないかだけの違いなんだよねぇ。

【聖女】の【種子】は一般的に【悪魔】のソレより圧倒的に強いんだぁ。 けれど彼女達の【種子】はまだ発芽していないんだよぉ。 殿下と一緒に出した推測では、【種子】に何らかの外的・心因的要素が加わって発芽したことで、彼女達は【悪魔】になるぅ……」


 つまり()()()()()()()()()()()()()()よぉ。


 「じゃあ、マリも……【悪魔】に……」

青い顔をして立っているキールに、セイは告げた。

「良いか、キール。 この程度で(ひる)むな。 ここからが本番だ」




 セイは続けてモニターに映し出された、【聖女委員会】本部の地下に存在する【魔災警報】の予知システム。

別名【託宣機構(オラクル)】を遠い目で見やりながら――ほんの僅かに震えるような声で言った。


 「その【聖女】が支配する【聖女委員会】。 ならば一体何のために存在しているのか?

いや、こう言い換えても良いだろう。 何故【聖騎士】や【機鋼魔兵】を戦力に加えてもなお、【聖女】の戦死者や行方不明者数は一向に減らないのか?」


 「――」

キールは完全に絶句している。

何故ならモニターの中の、【託宣機構】に無数に繋がれた培養槽の内部には――。


 「――私達は知ってしまった。 15年かけて真実を突き止めてしまったんだ。

歴代の大聖女は【発芽】しそうな【聖女】を選び、【魔災警報】の予知システムに捧げる生贄として【託宣機構】の中で監禁し続けている――」




 私の愛したヘレネも、あそこにいる(・・)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ