第23話 リベンジ
「ヘイゾー博士! おい、ヘイゾー博士! 何てことをしてくれたんだ!」
訓練の昼休憩の時間、キールはパイロットスーツ姿のままで王立フォロガルッサ魔法工学研究所に向かった。
ヘイゾー博士は激しく破壊された一番の外壁にあたる防壁の傍に立ち、工業用の【機鋼魔兵】が残骸を片付けるのを見守っていた。
キールが喚きながら近付くと、ニンマリとした邪悪な顔で振り返る。
「やぁやぁ! こりゃぁキールちゃんじゃあないかぁ! レベッカの新しい体はどうだったぁ? 楽しんだぁ?」
研究所の警備員達に制止されながらキールは怒鳴る。
「今すぐレベッカを元に戻せ! 元に戻しやがれ! おかげさまで俺は娘に軽蔑されたんだぞ!」
「えぇ、何でぇ?」
白々しい態度で博士は首をかしげてから、
「――あ、分かったぁ! 身長とむっちむちが足りなかったかぁ! キールちゃんってば身長高くってむっちむちな女性が好きだもんなぁ。 あぁ本当に悪いことをしたぁ、今すぐにレベッカの外見を改造してぇ――」
ついにキールは膝をついて、そのまま土下座した。
「頼むからもう止めてください……! あの時は本当にごめんなさい……!」
その頭をぐりぐりと安全靴で踏みつけながら、ヘイゾー博士は首をかしげる。
「あの時ってぇー、えぇとぉ?
もっと強い兵装を寄こせって僕ちゃんの胸ぐらを掴んで恫喝した時ぃ? あり得ない動作をさせてピッカピカの【機鋼魔兵】を大破させた時ぃ? あぁ、自分で壊した癖に今すぐに修理しろってウチのスタッフに31回も無茶苦茶を言った時のどれかなぁ? それともぉ――」
今になってみれば、キール本人にとっても『何で俺はあんな酷いことが出来たんだ?』と思える所業ばかりである。
「ごめんなさい、ごめんなさい、本当にごめんなさい……」
謝り倒すキールの頭を最後に蹴飛ばして、ヘイゾー博士は宣告した。
「『ごめんなさい』と本気で思っているのならぁ、この程度の復讐くらい甘んじて受け取ってよぉ? ねぇ? キールちゃぁん?」
「は、はい……」
そのくらいにしてやれ。
呆れた様子で研究所の中から顔を見せたのはセイである。
「博士、気持ちは分かる。 だが今はそれどころじゃないだろう。 キール、研究所の中の片付けを手伝ってくれないか」
人手はあった方が助かる。
昼休憩の終わりまでには返すから、とセイは続けて言った。
抵抗したくとも、既にキールの反抗心は草一本もない焼け野原と化している。
「はい……」
◆
「この研究所の中枢区が無事で良かった。 【聖女委員会】には知られたくない機密情報が詰まっていたからな」
セイはヘイゾー博士の特別ラボの中に入ってから、安堵した顔で呟いた。
厳重なセキュリティに守られた特別ラボの中には、培養槽やら魔法システムやらがすし詰めになっている。
「……これは、何だ?」
培養槽の中に浮かんでいる物体を見て、キールは顔つきを険しくする。
彼の予測が正しければ、これは――。
「うん、先日この研究所を襲った【悪魔】の組織片だよぉ」
ヘイゾー博士は培養槽に貼られたラベルを指差す。
『フローラ・レッサ』
「この研究所が襲われた時にぃ。 ケレミアちゃんが倒してくれたでしょぉ? こっそり体組織を採取したんだよぉ。 身元確認したらね、やっぱり彼女だったんだよぉー」
暢気だったヘイゾー博士の声ががらりと変わった。
「フローラ・レッサ。 ――ほんの半年前まで本部にいた【聖女】だった子さぁ」
キールは拳を握りしめたまま、ヘイゾー博士を、次いでセイを見つめた。
「説明してくれるな、セイ?」
セイはラボの壁に寄りかかる。
「元よりそのつもりでお前をここに連れてきた。 長い話になるが、最後まで聞け」




