第2話 託児
雪の日の夜とあって、高級なバーには彼ら以外に客はいなかった。
隣同士に腰かけて、うんと強い、焼けただれるような酒を溺れるように飲みながら、キールは何があったかをつまびらかに話し出した。
2年付き合っていたユギ伯爵家の娘ソラリーテにプロポーズしに行った事。
そうしたら若くてハンサムな男と熱烈に抱き合っていた事。
男はサルトゥ公爵家の跡取り息子で、もうお腹に子供もいると言われた事。
それからずっと、あの公園で一人泣いていた事。
「『平民の癖におこがましい』とか言われちゃあね……。 『平民だけれど貴方が好き』って言われて交際していたのにさ、ありゃあ無いよ」
「まさかとは思うが、お前の子じゃないだろうな」
バーのカウンターに半ば突っ伏すようにしてキールは呟く。
「キスしかしてねえよ……」
「悪かった」
しかし、とセイは困った顔をして、
「あのサルトゥ公爵家が相手だ、お前は確実に仕事も馘首になるだろう。 今後どうするつもりだ」
「そうだなあ……何処かの田舎に引っ込もうかな。 なあセイ、良い田舎知らないか?」
「紹介しても良いが、頼みがある」
頼み?
キールは机の上に乗せていた頭をどうにか持ち上げて、グラグラするのを堪えながら、
「何だよ、頼みって……?」
「さる高貴なお方の火遊びの後始末だ」
「出来……ちゃったのか?」
子供が、である。
「……生まれたばかりの女の赤ん坊だ」と案の定の返事だった。
そう言えば――。
キールはこれだけ親しくしているにも関わらず、セイの素性をほぼ知らない事を今更思い出した。
王宮で出会ったいかにも貴族らしい青年だと思っていたが、まさかそこまで偉いご身分だったとは。
「お前が田舎で育ててくれないか。 育ててくれるなら色々と支援してやれるんだが」
「……」キールは黙って酒をなめた。「父親も母親も、その子を要らないって言ったのか?」
「そんな所だ」
その言葉を聞くなり、キールは楽しそうに笑い出した。
きっとその子が生まれた時、誰も彼もが顔をしかめていたのだろう。
だったら、彼だけはとびっきりに笑ってやらなければと思ったのだ。
「じゃあその子くれよ。 俺には絶対に、絶対に必要だからさ」
数日後。
キールは生まれたばかりの小さな小さな赤ん坊を大事に抱きかかえて、片田舎にあるノノ・タウンに引っ越したのだった。




