第15話 何だと!?
その翌朝。
起きてきたマリはいつも通り、顔を洗って服を着替えてから、キールの作ったカリカリのベーコンと半熟卵の乗ったチーズトースト、野菜ジュース、デザートの果物入りヨーグルトを食べようとしたのだが。
「何……これ?」
向かいのテーブルに座ったシルバーが、らしくもなく困惑した様子で言った。
「うん? シルバーちゃん、アレルギーで食べられないものでもあったのか?」
洗濯機を回しながら、忙しなく自分もトーストをかじっていたキールが訊ねる。
「飲食可能、だけど……」
「だったら好き嫌いは良くないぞ」
自他共に認めるおっさんならではの発言である。
そうでは、ない……とシルバーは首を横に振った。
「好き嫌い、ではなくて。 わたしは、常時、軍用携帯保存食で栄養を補給していた、から……」
「な、何だと――!?」
キールの顔が露骨に引きつった。
「若い子が非常時以外にあんな人間の心を削るものを食べちゃ駄目だ! シルバーちゃん、これからはおじさんが作るから、人間らしい食事を食べなさい!」
こくりと頷いて、シルバーはトーストをかじった。
「……興味深い、味。 懐かしいような、気がする……」
そんなことを言いながら、彼女は朝食を残さず平らげた。
「ええー、パパのご飯がそこまで美味しいとか……。 ねえ、どんだけ美味しくないの?」
興味津々。
マリは身を乗り出したが、キールは激しく否定した。
「パパも食べたことあるけれど、あれは駄目だ! 味とか食感とか匂いとかそう言うのを全部差し置いて、食べているだけで精神が削られていくんだぞ……」
毒では無いが、人の心をゴリゴリと無慈悲にそぎ落としていく食べ物なのである。
「逆に気になる!」
「なら、マリ。 今日の12時からの休憩は、軍用携帯保存食で栄養補給、しよう」
シルバーが言うとマリは二つ返事で頷いて、キールは額を押さえた。
その夜、帰ってきたマリは可哀そうなくらいに意気消沈していたし、シルバーはキールの作ったオニオングラタンスープを3杯もお代わりした。
◆
キールがどうにか【機鋼魔兵】の初心者のような緩慢な動きが出来るようになった、ある日。
【聖女委員会】本部に、【魔災警報】を告げるサイレンが鳴り響いた。
予知された【悪魔】の出現場所は、王都エルディブレム間近の王立フォロガルッサ魔法工学研究所だった。




