第14話 友達
夜遅くに帰ってきたマリが『友達』を連れてきた上、今夜は一緒に泊めて欲しいと言った。
マリにここでも『友達』が出来たのか!
キールはくたくたに疲れていた事もすっかり忘れて有頂天になった。
その勢いのまま、彼はいそいそとクローゼットから掛け布団と枕をもう1つ引っ張り出したのだった。
「おじさん嬉しいよ! マリに友達が出来たなんて! シルバーちゃん本当にありがとうな……」
けれどシルバーは例のごとくの態度で、
「『友達』では無い。 その表現は、不適切。 マリとわたしは、同盟を締結しただけ」
そう言われたキールも面食らうだけだったが、どうにか言葉を絞り出した。
「ええと……同盟って……?」
「マリもわたしも、『先輩達』に反抗した。 今後は彼女達から、命に関わる加害行為を、2人とも繰り返される。 よって、わたし達の、生存のための同盟」
青くなったキールはマリに詰め寄るようにして訊ねた。
「マリ、何があったんだ!?」
◆
「……パパはマリがこんなにも誇らしくって、こんなにも不安に思えた事は無いなあ……」
事情を聞いたキールは冷蔵庫からミルクを3つカップに注いでぬるめに温めると、それぞれ2人に差し出したのだった。
「パパ、怖い?」
マリは飲みながら小声で呟いた。キールは真顔で答える。
「怖いさ。 自分が死ぬより怖い」
「クサいパパにも怖いものがあったんだね」
ちょっと笑ってマリは言った。
「マリが元気でいてくれたら、クサいパパだって何にも怖くないんだけどな」
それはキールの本音だった。
十数年前のあの時、浮気されて泣いていたキールが踏みとどまれたのは、ただマリが彼の側にいて、彼が側にいないとマリが死んでしまったからだった。
無我夢中でマリを育てて、時にはどうしようもなく辛くて悲しくて疲れて泣いたりしても、マリが笑って元気でいる。
それだけで彼は最後の最後の所で、誰よりも何よりも救われていたのだから。
「なあ、シルバーちゃん。 おじさんは大それたことは出来ないけれどさ、もしも『もう限界だ!』って事があったらさ、マリとシルバーちゃんを連れて田舎に逃げるくらいは出来るから」
シルバーは淡々と指摘した。
「その発言は、夢想的。 あなたは、【聖女委員会】の権力の、行使範囲を、知らない?」
「それでもだよ。 俺はマリの親だから、世界中が敵になってもマリの味方でいるんだ」
「……」
シルバーは少し沈黙した後で言った。
「それより。 マリ、今後の計画について、意見はある?」
うん、とマリは頷いて、シルバーの目を見つめた。
「シルバー、まずはこれから何をされるのか教えて欲しい。 アイツら、何の嫌がらせをしてくるの?」
「【悪魔】討伐の時、わたし達を最前線に押しやった上、妨害行動をしてくるのは、確定」
「【聖女】の癖に【機鋼魔兵】で戦わないんだね。 サイテーじゃん!」
キールは嫌な予感がした。
ヘレネの事を思い出したのだ。
あんなにも優秀な【近衛機兵】出身の【聖女】だったのに、どうして呆気なく散ったのか。
同時にキールは、セイがどうしてここまで聖女の在り方を改革しようとしているのか、薄々と合点も行き始めた。
――頭が良い彼の事だ。
否が応でもすぐに察知したのだろう。
ヘレネが『どうして死んだのか』を。
だからセイは荊の道と分かっていても、【聖女委員会】と密かに対立する事を選んだのだ。
このままでは『ヘレネ』が繰り返されてしまうから。
何度も、何人も。
人の悪意に際限なんて有りはしない。
黙ったままキールが考えている前で、マリとシルバーは話し合っている。
「彼女達の【聖女】としての力は、とても低い。 どうして【聖女】なのか、分からないくらい。 今までわたしは、大体の場合、単独で【悪魔】を討伐した」
「じゃあ、今度からは二人で【悪魔】をやっつけよう。 足を引っ張らないように、あたしもやるよ」
「……マリ。 あなたの訓練成績ならば、可能だと判断」
「前はパパだったけど、今度はシルバーだ。 一緒に助け合って生き延びるよ!」
――話し合う内に一緒のベッドで寝てしまった2人にふわふわの毛布を掛けて、灯りを消してから。
そっとキールは部屋を出た。




