第13話 魔女
その【聖女】は年齢の割に酷く幼く見えるのに、全くと言って良いほど感情を出さなかったので、マリは【機鋼魔兵】の操縦訓練の終わった後に、思い切って声をかけたのだった。
彼女が同じ訓練に励む【聖女】の中で誰よりも強かった事も、マリの興味をそそった。
「あの、どうやったらそんなに強くなれるの?」
少しの沈黙の後に、少女は小さな声で答えた。
「殺すだけ」
「感情を……?」
「【悪魔】を」
「そう……」
慰めも憧れも違うような気がした。
上手く言葉が出てこなくて、マリは曖昧に頷くしかなかった。
己と完全に異なった異質な存在のような気がしたが、ここで少女を異物だと邪魔にして排斥するほどマリは追い詰められてはいなかった。
「貴方はそうやって【悪魔】から誰かを守ったんだね」
考えてからマリがそう言うと、少女は首を傾げた。
「あなたには、家族がいる?」
「パパがいるよ」
「あなたのパパは、人間?」
その質問をされた瞬間、マリには何も分からないのに嫌な予感だけがした。
「人間……だけど」
「わたし、【悪魔】に育てられた。 だから覚醒した時に、処分した。 なので、守ったと言う表現は、不適切だと判断する」
「……そうだね、何もかも良くなかったし失礼だった。 貴方にごめんなさい」
少女はぼんやりとした表情のまま、マリに告げる。
「謝罪は、特に必要ない。 わたしは、【聖女】。 【悪魔】は、殺す」
その時通りがかった先輩の【聖女】達が、怪訝そうな顔をしてマリに近づいてきた。
「何を『魔女』と話してんの、『新入り』? そんなのと話していると頭おかしくなるよ?」
彼女達の唇の端に乗せられた、露骨なまでの差別感情。
蔑みの眼差し。
――マリはゾッとする。
「『魔女』って……?」
「ソイツ【悪魔】の血を引いているの。 【聖女】の癖に。 話し方もキモいし意味分かんないし、嫌われたくなかったら近寄らない方が良いよー?」
マリが嫌々ながらも『はい』と頷こうとした時、父親の顔が突然思い浮かんだ。
毎日毎日、朝早くから夜遅くまで真面目にやっているのに、彼女達に一方的に嘲られていた父親の顔が。
……ごめん、パパ。
マリは内心で土下座して謝った後、
「そうですね、先輩方には嫌われたいのであたしは近寄っておきます」
形相を歪める先輩方を睨み付けながら、きっぱりと言ったのだった。
「【聖女】だからって、あり得ないくらいに傲慢になって他人を見下すなんて、あたしは絶対に嫌ですから」
「……。 覚えてろよ」
不気味な捨て台詞を残して先輩の聖女達は急ぎ足で立ち去っていった。
残された『魔女』はしばらく瞬きだけを繰り返していたが、ややあってマリに言った。
「あなた、頭悪いの? 死にたいの? 殺されるよ?」
「あたし、あんな気持ち悪い生き物になってまで生きたくない」
「あなた、とても変だね」
ぽつりと呟いた『魔女』へ、マリはとびっきりの笑顔で訊ねた。
「ねえ、貴方の名前は? あたしはマリ。 マリ・ハルフィールド」
「……」
『魔女』は小声で、「わたしの、名前」と不思議そうに呟いてから、言った。
「……シルバー・バロユと名付けられた」
「凄くいい名前だね。 貴方の綺麗な銀色の髪の毛と瞳の色だ」
「その発言は、正確。 わたしの、親だった【悪魔】が名付けた理由と、一致している」




