第11話 最新式古女房
【聖女委員会】本部の巨大な格納庫の1つ。
セイとベルデッガーに連れられてキールが格納庫に入ると、その各格納庫の中でずらりと整列している【機鋼魔兵】を調整・整備していた整備員達が3人に向けて、次々と敬礼した。
セイ達も敬礼で返してから、視線を最奥に向ける。
「キール、あれだ」
まるで大岩を人型へと乱暴にそぎ落としたような無骨なシルエット。
既定色である迷彩色に塗られた機体。
主武装は遠距離、中距離向けに火力を切り替えられる両肩搭載の大型魔砲。
副武装は中・近距離対応のマジックワイヤーランス。
魔法工学が何処よりも発展したエルディブルース王国が保有する、魔法工学技術の精髄と潤沢な資材を惜しみなくつぎ込んだ【機鋼魔兵】の最新型の一機である。
「機体名は?」
搭乗用の簡易エレベーターの中から機体を見上げながら、キールはセイに訊ねていた。
「機体名ZD13‐O199‐α。 試験運用中のザドキエル型の実験機体を貰い受けた。 搭乗した【近衛機兵】を3人とも病院送りにした、曰くつきの暴れ馬だ」
【近衛機兵】の要望と主任研究者の願望を、採算と操縦性を犠牲にして全てこの一機に詰め込んだ結果、怪物が誕生してしまったのだとセイは語った。
「【聖霊】は?」
キールが訊ねたのは、機体の仮想人格搭載型のメイン制御システムの総称である。
「お前の昔馴染みを入れてある。 本来ならばお前が辞職した時に彼女のメモリーはリセットするはずだったんだが、ヘイゾー博士が研究用として勝手に所持していたんだ」
「……怒っているだろうな」
懐かしそうに。
やや戯けたように笑いながら、キールはエレベーターから降りると、慣れた動作でハッチをくぐりコックピットに乗った。
ハッチがゆっくりと閉じていく中、セイの声が聞こえた。
「そうだ。 精々怒られてこい。 お前の古女房に、な――」
◆
搭乗者の魔術認証が完了して【聖霊】が【機鋼魔兵】の状態を説明しながら、メインモニターを起動させる。
『各システムチェック完了。 本機体に損傷並びに異常ありません。 搭乗者のバイタルチェック完了……【聖騎士】キール・ハルフィールド…………。
え?
ええっ?!!!!!!
ちょっとアンタ! この裏切り者! よくも一方的にアタシを弄んで捨てたわね!? ここで会ったが百年目だわ、この【機鋼魔兵】諸共ぶっ殺してやる!』
逃げ場のないコックピットの中なのに最大音量で怒鳴られるので、キールは耳を塞ぎながら謝るしかない。
「ごめん……ごめん……! 謝るから許してくれ、レベッカ!」
『ハッ! アンタの「ごめん」は石ころ1つより安いのよ!
で、どの面下げてアタシに会いに来た訳? 確か婚約者に浮気されたって理由で、15年前にアンタはアタシを見捨てて田舎に逃げたんだっけ?』
「その、む、娘のマリが……【聖女】だって判明して……」
『は?』
「お願いします……力を貸して下さい……レベッカさん……」
女の恨みをまともに受けて、キールは怯えている。
かつては気安く呼び捨てていたのに『さん』付けして、少しでもご機嫌を取ろうと必死になっているのだ。
『あーあ、弄んだ挙げ句に捨てたはずの女相手に、俺の娘のために力を貸してくれ、か。 どこの鬼畜生の発言かって思わない?』
歯に衣着せぬと言えば聞こえは良いが、毒舌な【聖霊】である。
「はい、仰る通りです……」
昔の彼だったら『うるせえ、黙って俺に従え!』くらいは言ったが、今の彼には絶対に出来ない。
おっさんになると言うことは、若者特有のごり押しや無理が出来なくなると言うことでもある。
『アタシが人間でなくて【聖霊】だったことを女神様に感謝しなさいよ、アンタ。 これが人間だったら夜道で背後から刺されても文句は言えないわよ?』
体が自由だったら、本気で夜道で襲撃するつもりだ。
キールはそれを悟って平身低頭する。
かつての相棒の性格は彼が誰よりも分かっていたから。
何より、本音では彼は満更でもないのだ。
ここまで相棒は、彼に対して赤裸々とも呼べる感情をぶつけてくれる。
一度棄てられたのにも関わらず、まだ彼に対して内心では甘えてくれているのだろう。
「はい、はい、申し訳ございません。 どうか自爆だけは勘弁して下さい……」
『……チッ!』
舌打ちまでしてから、【聖霊】――愛称レベッカは露骨に嫌そうな態度で従うのだった。
『それで? これからどうするのさ?』
「……この【機鋼魔兵】を乗りこなせるよう、訓練にお付き合いいただけないでしょうか」
『別に良いけど。 運が良ければアンタを事故に見せかけてぶっ殺せるかも知れないし』
確かにこの【機鋼魔兵】は危険なじゃじゃ馬だわ、とレベッカは笑った。
このアタシでさえ上手に制御できるか分からないもの、と。
キールは平謝りしながらも、これだけは、と言った。
「お怒りはごもっともですが、娘を守る前に死にたくは無いです……」




