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第6話:物流王、ボロ倉庫を『100均の魔法』で聖域に変える

1. 呪われたゴミ倉庫と、スコルの絶望

 バルカスが「好きに使え」とニヤリと笑って貸し出したのは、街の北端、人気のない路地の奥にひっそりと佇む石造りの倉庫だった。

 かつては穀物庫だったらしいが、今では扉の蝶番は錆びつき、開けるたびに「ギギギィ……」と、呪われた館のような悲鳴を上げる。

「……うわっ、これは酷いな」

 一歩足を踏み入れると、舞い上がった埃が陽光に照らされ、まるで吹雪のように視界を遮った。蜘蛛の巣はカーテンのように天井から垂れ下がり、床には正体不明の油汚れが黒いシミとなってこびりついている。

『…………。おい、人間。貴様、我にこの不潔という名の牢獄で夜を明かせと言うのか? 我の銀色の毛並みは、埃一つでその神聖な輝きを失うのだぞ。ここで寝るくらいなら、我は再びエナジードリンクを煽って世界の果てまで逃亡してやる』

 スコルが露骨に嫌そうな顔をして、巨大な前足で鼻を覆っている。伝説の魔獣の嗅覚にとって、このカビ臭さと埃は物理的なダメージに近いらしい。

「落ち着けよスコル。俺を誰だと思ってる。……『物流』の真髄は、商品を届けるだけじゃない。環境を整えるのも仕事のうちだ」

2. 異世界の常識を破壊する『白い四角い塊』

 俺はスマホ型の端末を操作し、一気に「清掃用品カテゴリー」を検索する。

 異世界の掃除といえば、ボロ布で水拭きするか、魔法で風を吹かせて埃を散らす程度だ。だが、それでは「蓄積した数十年分の汚れ」には太刀打ちできない。

 俺が狙うのは、現代日本の化学と主婦の知恵が産んだ「汚れの天敵」たちだ。

【メラミンスポンジ・激落ちくん(メガサイズパック)】

【クイックルワイパー(立体吸着ドライ&ウェットシートセット)】

【強力消臭スプレー・ファブリーズ(除菌プラス)】

【重曹&クエン酸スプレー】

 ――合計:550pt。

 「ポチっ」という心地よい決定音。

 刹那、俺の目の前に段ボール箱が三つ重なって出現した。

「よし、まずはこの窓からだ」

 俺はバケツに水を汲み(それすらバルカスに用意させた)、真っ白なサイコロ状のスポンジ――激落ちくんを取り出した。

『……ふん、そんな小さな白い豆腐のようなもので、何ができる。その窓はもはや汚れと一体化し、石に等しい状態だぞ』

「見てろって」

 水を含ませたスポンジで、真っ黒に曇ったガラスを軽く、円を描くように擦る。

 キュッ、キュッ。

 その瞬間、まるで曇り空が晴れるように、そこだけが「真の透明」へと変わった。

「……え?」

 スコルの目が点になる。俺が数回往復させると、数十年分の油と埃がスポンジに吸い取られ、窓の向こう側の景色が鮮明に映し出された。

『……な、なんだと!? 研磨魔法も使わずに、ガラスを傷つけず汚れだけを……消し去っただと!? 貴様、その白い塊に「時間の巻き戻し」でも付与しているのか!?』

「ただのメラミンフォームだよ。細かい網目で汚れを削り落としてるだけだ」

3. 『静電気の狩人』と、香りの魔法

 次は床だ。俺はクイックルワイパーを組み立て、立体吸着シートを装着する。

「スコル、そこをどけ」

 俺がワイパーを滑らせると、ほうきでは舞い上がるだけだった細かい塵や獣の毛が、まるで磁石に吸い寄せられるように白いシートへと絡め取られていった。

『なっ……! 埃が……埃が逃げぬ! 普段なら風で舞い上がるはずの塵共が、その白い布の虜になっているではないか! これこそ「束縛の魔導具」の応用か……恐るべし!』

 仕上げに、カビ臭い空間に向かって消臭スプレーを噴射する。

 シュッ、シュッ。

 微細な霧が空気中に溶け込んだ瞬間、鼻を突く悪臭が消え、代わりに「清潔な石鹸」の香りが倉庫を満たした。

『おおお……! 空気が……空気が洗われている! 肺の奥まで澄み渡るようだ! 人間よ、貴様が聖者に見えてきたぞ! この場所なら、我の寝床として認めてやらんでもない!』

 伝説の銀狼が、ピカピカになった床にゴロンと寝転び、満足げに尻尾を振っている。その風圧でまた埃が舞いそうだが、クイックルワイパーが全てをキャッチしていた。

4. 噂は泡のように、光のように広がる

 その頃、街のギルドでは、一人の女性が周囲の視線を独占していた。

 受付嬢のセシリアだ。

 彼女は、エドワードから貰った「三色ボールペン」を胸ポケットに差し、さらに例の「石鹸」で洗った髪をなびかせていた。

「セシリアさん、その髪……! いつものボサボサは……失礼、いつもの疲れはどこへ!? まるで真珠のような光沢、それにこの清々しい香りは……!」

「ふふっ、これですか? これは『物流の王』を名乗る御方から授かった、奇跡の結晶ですわ」

 彼女がわざとらしく、書き損じを「修正テープ」で消して見せると、冒険者や職員たちが椅子から転げ落ちんばかりに驚愕した。

「魔法も使わずに文字が消えた!?」「あの男、やはり何らかの古代遺物の守護者か!?」

 セシリアの称賛と、商人バルカスの「あれは金の成る木だ」という確信。

 二つの思惑が街を駆け巡り、ついにその噂は、街の支配者の耳へと届く。

5. お嬢様の襲来と、新たなビジネスチャンス

 夜。俺とスコルが、ピカピカになった倉庫で「100円のレトルトカレー」を食べようとしていた時だった。

 ドォォォン! と、倉庫の扉が乱暴に叩かれた。

「開けなさい! この中に、あの『魔法の泡』と『時間を戻すペン』を持つという不届き者がいるのでしょう!?」

 扉を開けると、そこには豪華なフリルドレスを身にまとい、顔を真っ赤にして憤慨している美少女が立っていた。背後にはフルプレートメイルを装備した騎士たちが、仰々しく槍を構えている。

 彼女はこの街『バザール』を治める領主の愛娘、リリアーヌ・ド・バザールだった。

「あなたが、平民のくせにセシリアにだけあんな素晴らしいものを与えたという、不遜な男ね!? 私、あんなに良い匂いがするセシリアなんて認めませんわ! 今すぐ私にも、それ以上のものを献上なさい!」

 どうやら、女のプライドに火をつけてしまったらしい。

 スコルはカレーの匂いを楽しみながら、横目でリリアーヌを一瞥した。

『……相棒。また面倒なのが来たな。今度は「ポテチ」では誤魔化せそうにないぞ。どうする?』

「……いいや、絶好のチャンスだ。お嬢様、そんなに綺麗になりたいなら……『現代の美容技術』の真髄、見せてやろうじゃないか」

 魔力ゼロの追放者が、今度は「一国の権力」すらも物流で掌握し始める

(第6話 完)

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