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第7話:物流王、お嬢様の『お肌の悩み』を現代の泥パックで完封する

1. 高飛車お嬢様の襲来と、謎の空中ウィンドウ

「ちょっと! 平民の分際で私を待たせるなんて、どういう教育を受けてきましたの!?」

 倉庫の入り口で仁王立ちするリリアーヌ・ド・バザール。彼女の背後には、領主直属の騎士たちが四人、威圧感のある鎧の音を響かせている。

 対する俺は、優雅に(ふりをして)レトルトカレーを飲み込み、手元の空中モニターを操作した。


俺の視界には、黄金の矢印がニヤリと笑うようなロゴが特徴的な、【A◯azonアマゾン】という名のスキル画面が浮かんでいる。


『……おい相棒、また騒がしいのが来たぞ。この小娘、なかなかの剣幕だが……お前の「ポチり」で黙らせられるのか?』

 スコルが横で退屈そうにあくびをする。その牙を見た騎士たちが「ひっ……伝説の銀狼か!?」と震え上がるが、プライドの高いお嬢様だけは止まらない。


「エドワード! あなた、セシリアにだけ『魔法の泡』や『時間を戻すペン』を渡したんですってね! 私、あんなに良い匂いがする部下なんて認めませんわ! 今すぐ私にも、それ以上のものを献上なさい!」


「お嬢様、そんなに大声を出すと、せっかくの綺麗な顔に『シワ』が寄りますよ。……あ、今、『よく一緒に購入されている商品』に『眉間のシワ取りテープ』が推奨されました」


「なっ!?!? な、なぜそれを……! 私、まだ十六歳ですわよ!」


「年齢は関係ありません。この街の強い日差し、そして不十分な洗浄……。お嬢様の肌は悲鳴を上げています。さっきから扇子で隠しているのは……鼻の頭の『黒ずみ』を気にしてのことでしょう?」


「ッ!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?」

 リリアーヌが凍りついた。図星だったらしい。


2. スキル:【A◯azon】のプライム会員級の決断

俺は彼女の反応を見ながら、空中のメニューをフリックした。

 画面には、「ベストセラー1位」「過去1ヶ月に5万点以上購入されました」という、現代日本の信頼の証が並んでいる。


「さて、お嬢様の悩みを解決するカスタマーレビュー★4.8の逸品は……これだな」


俺は脳内で決定ボタン――【今すぐ買う】をタップした。


【クレイ洗顔・漆黒の泥パックフォーム(炭&ガスール配合)】

【ホイップ泡立てネット(洗顔用・リング付き)】

【精製水 500ml(24本入りケース)】

 ――合計:1,280pt。


決定した瞬間、空中から「A◯azon」のロゴが入った、あの見覚えのあるデザインの段ボール箱が、重力に従って「ストン」と俺の手に落ちてきた。

 ガムテープをベリベリと剥がす音に、リリアーヌたちは目を丸くしている。


「な、なんですのその箱は……。空間を裂いて荷物が届くなんて、王宮の転送魔導師でも不可能ですわ!」

「これは『お急ぎ便』です。追加料金はポイントで払ってますから」


3. 濃密泡の魔法と、お嬢様の「レビュー」

俺はボウルに精製水を入れ、泡立てネットに少量の泥洗顔料を絞り出す。

 シャカシャカ、シャカシャカ。

 数秒後、そこには手のひらを逆さにしても、激しく振っても落ちないほど、弾力のある「純白の濃密泡」が山盛りになっていた。


「お嬢様、顔を洗いますよ。騎士たちは、お嬢様が『昇天』しても手を出さないように」

「しょ、昇天……!? ちょ、ちょっと何をするつも――っ、ふわぁぁぁ……!?」


抵抗するリリアーヌの顔に、俺はたっぷりと泡を乗せた。

 炭の成分が毛穴の奥の脂を吸着し、泥が古い角質を絡め取る。

「ひゃ……っ! つめた……くて、でも、綿菓子に包まれているみたいで……。お、お肌が、呼吸を始めたような感覚ですわ……」


そのまま数分待つ。

 その間、俺は段ボールの中に同封されていた『返品・交換のご案内』というチラシを眺めた。……異世界で返品されたらどこへ行くんだろうな、これ。


4. 真実の肌と、衝撃の「カスタマーサクセス」

「さあ、流してください」

 精製水で丁寧に洗い流し、『超吸水マイクロファイバータオル』で優しく水分を拭き取る。


リリアーヌが恐る恐る、俺が手渡した『LEDライト付き三面鏡』を覗き込んだ。

「………………。え?」


鏡の中にいたのは、自分でも見たことがないほど、陶器のように滑らかで透き通った肌をした少女だった。

 気になっていた小鼻の黒ずみは「キャンセル」されたかのように跡形もなく、肌のトーンが加工アプリを通したかのように輝いている。


「これが……私……? 魔法の化粧品を使っても、高名な治癒術師に頼んでもダメだったのに……。たった数分の『お急ぎ便』で、こんなに……?」


「お、お嬢様……! 眩しすぎます! 肌が発光している!」

 騎士たちが跪き、倉庫の中に場違いな称賛の嵐が巻き起こる。


5. 「エドワード・エクスプレス」の独占契約

リリアーヌは、俺の腕を掴み、目を血走らせて詰め寄ってきた。

「エドワード! これ、これ毎日使いなさい! いえ、使わせてください! 定期購入はできませんの!? 金貨ならいくらでも積みますわ!」


「残念ながら、お嬢様。これは非常に希少な『期間限定品』でして。……ですが、あなたがこの倉庫を『A◯azon公式配送センター』として認め、俺の商売の後ろ盾になってくれるなら、【プライム会員】として優先的に届けてもいいですよ」


「プライム……? 意味はわかりませんが、最高級の扱いということね! もちろんですわ! この一帯を特区に指定します! 警備も、補給も、全て我がド・バザール家が保証します!」


こうして、魔力ゼロの追放者が拠点とするボロ倉庫は、わずか一日で、領主公認の「最重要物流基地」へと進化した。


『……ふん。相棒、あの小娘の顔……さっきの「コンソメキック」を食べた我と同じ顔をしておるぞ。完全に『星5評価』だな』

 スコルが感心したように、空っぽになったポテチの袋を前足で弄んでいる。


俺は、リリアーヌが大事そうに洗顔チューブを抱きしめる姿を見て、心中でガッツポーズをした。

 俺の「物流」は、A◯azonのシステムを武器に、この異世界の欲望を全て「カートに入れる」まで止まらない。


(第7話 完)

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