第5話:物流王、商談の席で『現代の王族(高級石鹸)』を披露する
1. ギルド裏の秘密会議室
ギルドの喧騒を離れ、俺とスコル(ポテチで機嫌がいい)は、バルカスに連れられてギルドの奥にある応接室へと通された。
重厚なマホガニーの机、壁には高価そうな絵画。いかにも「金と権力」の匂いがする部屋だ。
「さて、エドワード君。単刀直入に言おう。その『ペン』と『修正具』、独占販売権をわしに譲らぬか? 金貨ならいくらでも積もう」
バルカスの目は、獲物を狙う鷹のそれだ。だが、俺は動じない。ここで安売りしては、1200話続く「物流王」の物語が、10話で「商人の手先」に成り下がってしまう。
「断る。あれは俺の『商売道具』だ。権利を売るつもりはない。だが……バルカスさん。あんたが『本物の価値』がわかる商人なら、別の提案がある」
2. 宿屋の「絶望」と現代の清潔革命
「別の提案だと?」
「ああ。この街の一番いい宿を紹介してくれ。……それと、この世界の『石鹸』を見せてほしい」
バルカスが怪訝な顔をしながら差し出したのは、動物の脂の臭いが鼻をつく、ザラザラとした灰色の塊だった。この世界では、これでも貴族が使う高級品らしい。
(……やっぱりか。これで体を洗うのは、修行以外の何物でもないな)
俺はスマホを操作し、ポイントを消費した。
狙うのは、現代日本の技術が詰まった、香り高き清潔の結晶。
【某有名メーカーの泡ハンドソープ&ボディソープセット】
――価格:300pt。
シュッ、と空間が裂け、そこには純白のボトルと、淡いフローラルの香りが漂う液体が現れた。
3. 泡の魔法と、バルカスの驚愕
「これは『ソープ』……いや、我々の言葉で言えば『至高の洗浄液』だ」
俺はボトルのポンプを押し、バルカスの手のひらに真っ白な、キメの細かい「泡」を乗せた。
「な……なんだ、この雲のような感触は!? 魔法の煙か!? それに、この香りは……王都の薔薇園でもこれほど清々しい香りはせぬぞ!」
「洗ってみろ。水で流せば、あんたのその脂ぎった手の汚れも、商人の苦悩も一瞬で消えるぜ」
バルカスが震える手で泡を馴染ませ、水魔法の使い手が用意した水で洗い流す。
タオルで拭いた後の彼の手は、白く、滑らかで、そして何より「良い匂い」がしていた。
「信じられん……。肌を傷めず、汚れだけを根こそぎ奪い去るとは……。エドワード君。お主、これはペンどころの話ではないぞ! 王族……いや、世界中の女性たちが、これを手に入れるために戦争を起こすレベルだ!」
4. スコルの「グルーミング」とポテチの対価
その頃、外ではスコルが子供たちに囲まれていた。
伝説の銀狼が、あろうことか子供たちに「お座り」や「お手」を披露している。……いや、違う。よく見ると、子供たちが持っている「干し肉」や「お菓子」と引き換えに、芸を売っているのだ!
『……む。人間の子よ、その茶色のクッキー、なかなかやるではないか。だが、主がくれた「コンソメアッパー」には遠く及ばぬな。……おい相棒、商談はまだか? 我はそろそろ「別の味」を試したいのだが』
脳内に響く、欲望に忠実なテレパシー。
俺はバルカスに告げた。
「この洗浄液のサンプルを、この街で一番影響力のある人物に届けてくれ。……ただし、俺の『物流ルート』の名前を添えてな」
5. 「エドワード・エクスプレス」の設立
バルカスは、俺という存在の底知れなさに恐怖し、同時に歓喜していた。
「わかった……。わしの全財産を賭けて、この『革命』に乗りましょう。お主の望みはなんだ?」
「簡単なことだ。俺に『通行許可証』と、この街の『大型倉庫』を一つ貸してくれ。それから、スコルの餌……いや、最高級の肉を用意してくれればいい」
俺は窓の外で、子供たちにモフられている銀狼を見た。
魔力ゼロの追放者が、現代日本の「石鹸」一つで、この街の経済の頂点に手をかけた。
「バルカス。俺の商売は、ただ売るだけじゃない。世界中の不便を、俺の『ポチり』で解決する。……それが、俺の物流だ」
エドワードの「物流王」への道は、このバザールの街から、泡の香りと共に加速していく。
(第5話 完)




