第3話:伝説の銀狼、150円の『エナドリ』で限界突破バキバキになる
1. 伝説の魔獣の目覚め
森の朝は早い。
木々の隙間から差し込む鋭い陽光が、俺――エドワードのまぶたを叩いた。だが、俺を完全に覚醒させたのは太陽の光ではなく、顔面にのしかかる「圧倒的な質量」と「獣の吐息」だった。
「……んぐっ、苦しい……」
目を開けると、そこには銀色に輝く巨大な肉球があった。俺の顔面を半分ほど覆い隠している。視線を上げれば、そこには昨日「メンチカツ」一つで俺と契約を交わした伝説の銀狼、スコルがいた。
『……人間よ。太陽はすでに昇った。我の腹の虫は、一刻も早い「黄金の衣」の再来を告げておるぞ。さあ、あの異界の儀式を執り行うのだ』
脳内に響く威厳のあるテレパシー。だが、その内容はあまりにも食いしん坊すぎる。
俺はため息をつきながら、顔の上の肉球をどかして身を起こした。
「おはよう、スコル。……でもな、悪い。今はあの『メンチカツ』はポチれないんだ」
『……なっ!? 何ゆえだ! 貴様、我を騙したのか!? あのサクサクとした快楽、溢れ出す肉汁のワルツ……あれを食わねば、我の一日は始まらんのだぞ!』
スコルが狼狽し、長い尻尾を不安げにバタバタと振る。その勢いで周囲の草木がなぎ倒されているが、本人(本狼?)は必死だ。
「落ち着けよ。昨日も言っただろ? 俺のスキルには『ポイント』が必要なんだ。今の俺は、魔力ゼロで追放されたばかりの無一文。メンチカツを量産できるほどの余裕はないんだよ」
俺はスマホ型の端末を開き、現在の残高を見せた。昨日、スコルを仲間にしたことでランクアップし、利用限度額は増えたが、まだ自由に使えるポイントは限られている。
『……なんたる……。太陽を呑むと謳われた我が、たかだか異界の数字という名の鎖に食を阻まれるとは。人間の世とは、かくも無慈悲なものなのか』
スコルは前足で地面を掘り、露骨に耳を垂らした。伝説の魔獣としての威厳が、空腹という本能の前に霧散していく。
2. 100円の「保存食」という革命
「まあ、そう落ち込むな。メンチカツは無理だけど、朝飯にぴったりの『別のもの』なら買える」
『別のもの……? あの黄金の衣に勝るものなど、この世に存在するのか?』
「食ってみてのお楽しみだ」
俺は画面を操作し、100ptで買える【お徳用ビーフジャーキー(大容量パック)】を選択。決定ボタンを「ポチっ」と押した。
刹那、空間が歪み、俺の目の前に茶色のパッケージに包まれた物体が出現する。
『ぬおっ!? いつ見ても理解しがたい術理よな……。して、これは何だ? 昨日のような熱気も、香ばしい油の匂いもせぬが』
「これは『ビーフジャーキー』。俺の故郷じゃ、保存食としても、酒のつまみとしても超一流の品だ。ほら、口を開けろ」
俺がパッケージを開封し、一枚のジャーキーを放り投げる。スコルはそれを空中で鮮やかにキャッチし、不審げに咀嚼を始めた。
『……ふむ。硬いな。昨日のメンチカツのような柔らかさがない。まるで古びた革を噛んでいるよう――ッ!?』
数秒後、スコルの動きが止まった。
その瞳が、驚愕に大きく見開かれる。
『……なんだこれはっ!? 噛めば噛むほど……噛めば噛むほどに、凝縮された「牛の魂」が溢れ出してくるではないか! 乾いているはずなのに、旨味が枯れるどころか増していく……! 貴様、もしやこの肉に、時空凍結の魔法でもかけて鮮度を閉じ込めたのか!?』
「ただの乾燥肉だよ。でも、スパイスと調味料でじっくり味付けされてるんだ」
『恐ろしい……。我はこれまで数多の冒険者を喰ら……いや、数多の魔物を見てきたが、これほどまでに洗練された保存食は見たことがない! これ一袋あれば、我が一族なら一冬を越せてしまうぞ!』
スコルは夢中でジャーキーを咀嚼し続けた。伝説の魔獣が、わずか100円(相当)の駄菓子にこれほど感動するとは。この世界の「食」がいかに貧相か、あるいは現代日本の「加工技術」がいかに狂っているかを思い知らされる。
3. 街道の現実と、迫りくる限界
食事を終えた俺たちは、森を抜け、隣国『アステリア王国』へと続く街道に出た。
スコルは当初、俺を背中に乗せることを拒んでいた。「我は伝説の魔獣。人間を乗せるのは王に限る」だそうだ。メンチカツ一つでは、まだプライドの壁は高いらしい。
だが、歩き始めて三時間。俺の体は限界を迎えていた。
「はぁ……はぁ……、待ってくれ……。もう足が動かない……」
『……情けないぞ人間。わずか数里歩いただけでそれか。我はまだ準備運動も終わっておらんぞ』
「お前は四つ足だろ……。俺は魔力ゼロなんだ。身体強化の魔法も使えない一般人に、この山道はキツすぎる……」
俺はその場に座り込んだ。喉はカラカラで、筋肉は悲鳴を上げている。おまけにスコルも、昨日の戦いで負った古傷が少し痛むのか、時折足を引きずっているように見えた。
『ふん。魔力なき者は、ただ朽ちるのみか。……仕方ない、貴様のその「取り寄せ」で、何か回復の薬でも出すがよい。我の傷を癒すほどのものがあれば、背を貸してやらんでもないぞ』
「回復の薬、か……。ポーションは高いんだよな。でも、これなら今のポイントでも買える。……俺たちの故郷で『魔薬』とか『黄金の液体』って呼ばれてるやつをな」
4. 150円の「劇薬」ゴリラバースト
俺は震える指でスマホを操作した。
狙うのは、現代社会で戦う社畜たちの血と涙の結晶。
【超強力エナジードリンク:ゴリラバースト(400ml缶)】
――価格:150pt。
「ポチっ」と、昨日より少し重みのある音が響く。
二本の黒いアルミ缶が、空中に現れた。
「まずは俺からだ……」
プルタブを引き、一気に煽る。
カアァッ! と喉を焼くような炭酸の刺激と、合成着色料全開の甘い香りが脳を叩く。カフェイン、タウリン、アルギニン……現代の科学が産んだ「元気の前借り」が、俺の末梢神経を強制的に覚醒させていく。
「ふぅ……! 効くぜ……。さあ、スコル、お前の分だ」
『……ほう。その小さな筒の中に、我を癒す力があるというのか。ポーションのような不快な苦味はせぬだろうな?』
「苦くないぞ。むしろ、身体がバチバチする感じだ」
俺はスコルの大きな口の中に、ドリンクを流し込んだ。
その瞬間――。
「――――ッ!?!?!?!?!?!?!?!?」
街道の空気が一変した。
スコルの全身を覆う銀色の毛が、まるで高電圧を浴びたかのようにバチバチと逆立ち、青白い火花を散らす。
『な、ななな、なんだこれはぁぁぁぁぁっっ!?!?』
スコルの咆哮が山々に響き渡り、近くの鳥たちが一斉に逃げ出した。
『喉を突く強烈な衝撃! その後に来る、魂が沸騰するような未知の昂ぶり……! 細胞の一つ一つが、ありもしない魔力を無理やり絞り出そうとしておる! おお……おおお! 古傷が、痛みが消えたどころか、力が……力が溢れて止まらぬぞおおお!!』
「スコル、目が! 目がキマってるぞ!」
スコルの瞳は血走り、ルビーのような紅い光を放っている。異世界には存在しない「カフェイン」の過剰摂取。伝説の魔獣の野生に、現代の化学がダイレクトに火をつけたのだ。
『エドワードよ! 我、今ならこのまま大陸を横断し、神の座さえも駆け抜けられる気がするぞ! 止まれぬ! 止まっておれん! 乗れ! 我の背に早く乗れえええ!』
「うわああっ!? 待て、まだ心の準備が――」
俺が背中に飛び乗った瞬間、スコルは地を蹴った。
それはもはや移動ではなく、弾丸の射出だった。
5. 物流王への確信
「速すぎる! 落ちる、落ちるってぇぇ!」
『ハハハ! 風が見えるぞ! 世界が止まって見える! これが……これが「ゴリラ」の力というのかぁぁぁっ!』
爆走する銀狼の背にしがみつきながら、俺は猛烈なGに耐えていた。
たった150円(相当)の飲み物だ。
俺の故郷では、コンビニに行けば誰でも買える、ありふれた清涼飲料水。
だが、この世界ではどうだ?
伝説の魔獣を一瞬で限界突破させ、音速に近い速度で走らせる「奇跡の霊薬」。
もしこれを、冒険者ギルドや、戦場に持ち込んだら?
150円の原価が、金貨100枚、いや1,000枚の価値に化けるのではないか。
(……いける。このスキル、ただの便利道具じゃない)
俺は確信した。
現代日本の、安くて、便利で、それでいて「常識外れ」な品々。
100円ショップの便利グッズから、ドラッグストアの薬品まで、すべてがこの世界では「伝説級のアーティファクト」になり得る。
エナドリのバフで爆走するスコルの咆哮を聞きながら、俺は遠くに見えてきた街の門を眺めていた。
魔力ゼロで追放された俺の、第二の人生。
それは、伝説の銀狼をエナドリでバキバキにすることから始まった「物流革命」の第一歩だった。
(第3話 完)
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