第2話:伝説の銀狼は、揚げたての誘惑に勝てない
伝説の魔獣、《《スコル》》。
太陽を呑むとまで言われた銀狼が、今、俺の手にある『黒毛和牛メンチカツ』に熱視線を送っている。
……正確には、視線だけで俺を殺せそうなほどの「期待感」を放っている。
「……食べるか?」
俺が恐る恐る差し出すと、スコルの鼻先がピクリと動いた。
『……人間よ。それは、なんだ。見たこともない不思議な香りがする』
脳内に直接響く、威厳のある声。
だが、その声の主は、口角から一筋のよだれを垂らしていた。
「メンチカツっていう、俺の故郷の料理だよ。まだ温かいぞ」
俺がひょいと放り投げると、スコルは空中で見事にキャッチした。
刹那――。
「――ッ!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?」
スコルの全身の銀毛が、バチバチと帯電したかのように逆立った。
『な、なんだこれは……! サクッとした心地よい歯ごたえの直後、溢れ出す芳醇な肉のジュース……。塩気と脂の甘みが、舌の上で完璧な円舞曲を踊っておるではないか……!』
「お、おう……。気に入ったなら良かったよ」
『気に入ったなどという生易しいものではない! 我は数百年、この森で魔物の肉を貪ってきたが……これに比べれば、それらはすべて泥を噛むに等しい!』
スコルは熱い溜息をつくと、俺をじっと見据えた。
その瞳には、もはや捕食者としての鋭さはなく、未知のグルメに感動した美食家の熱が宿っている。
『……エドワードと言ったか。貴様のその、異界から物を取り寄せる力。我のために使え。対価として、我の背を貸そう』
「え、それって……」
『我が貴様の護衛になってやる。だから、その……明日も、それが食べたい。できれば、もっとたくさんだ』
【条件を達成しました:従魔契約『スコル』が成立しました】
【ランクアップ:ネットショップ(仮)の利用限度額が上昇します】
こうして、俺は最強の護衛と、最強の「食いしん坊」を同時に手に入れた。
「わかったよ。じゃあ明日は、もっとたくさんポチっておくよ」
『ポチる? 妙な響きだが……期待しておるぞ、相棒!』
魔力ゼロで捨てられた森の中。
俺とスコルの、美味しいものを巡る放浪旅が、ここから本格的に始まった。




